神の力7
人通りの少ない路地にて出現した魔物に驚きつつも黒姫と玉藻前は臨戦態勢を取る。
出現した魔物は一体、猪型の大型個体であった。
「鍋にして食えんのが残念やな!」
「姉さん!下がってて」
黒鴉は隠れるように電柱の影に逃げ護衛の黒服達は銃を取り出して構える。
「銃…!?こんな街中で!?」
黒姫が驚き玉藻前にアイコンタクトで猪の脇を攻めようと道の両端に散開する。
銃の発砲音と魔物への着弾音が街中に響く。
「効いていない!?」
黒服達の驚く声に玉藻前が答える。
「頭蓋が硬いんや!正面はアカンっぽいで!」
蹄が地面を蹴る音が激しくなり黒服達を目掛けて魔物が突進を行う。
黒姫と玉藻前が腹を裂くように切りつけるが止まらず逃げ遅れた一人がそのまま撥ね飛ばされる。
黒鴉はその光景を目にし崩れるように地面にへたり込む。
「姉さん!…デス!脚を!」
距離が離されてしまったが何とか追い付き後ろ足を切断しようとするが刃が通らず弾かれる。
「うーわ、骨ガッチガチやん…腹に切り口作ってもまだ元気やし…」
「でもここで倒さないと…!」
玉藻前が狐火を飛ばし攻撃を仕掛ける。
文字通り尻に火が着き魔物が悲鳴をあげる。
「よし!…あ、アカン!」
魔物が熱さから逃れるように大暴れを始め周囲の建物に当たり散らす。
止めようと発砲を繰り返す黒服達の必死の抵抗虚しく次々と蹴散らされていく。
「姫やんは姉さん連れて逃げるんや!このままやと皆死んでまう!」
「逃げない!まだ手はあるはずです!」
黒姫が暴れる魔物に光の球を撃ち込み何とか止めようとする。
「姉さん!早く逃げて!」
「こ、腰が抜けて…」
黒鴉は顔面蒼白になりながら兎に角体を丸めて小さくなる。
「こっち向きおった!」
何度もちょっかいをかけてくる黒姫に怒りの矛先が向く。
「…玉藻さん、翔君みたいに刀身に炎纏えますか?私囮になります」
「出来るっちゃあ出来るんやが…ってアホウ!避けれるんか!?」
黒姫は震えながら首を横に振る。
玉藻前の文句より先に魔物が走りだし覚悟を決めて玉藻前が狐火を纏わせた刀の一撃を脇腹に入れる。
効果はあったがそれでも止まらず黒姫に向かっていく。
回避しようとする黒姫だったが健闘虚しく突き上げられ黒鴉の近くまで飛ばされる。
黒鴉は怒りと恐怖でぐちゃぐちゃになった感情で黒姫に必死に声をかける。
「黒姫!立って!立ちなさいよ!」
黒鴉は落ちたナイフを拾い色々な感情でぐちゃぐちゃになりながら叫び立ち上がる。
「うわあぁ!!」
魔物の尻にナイフを突き立てグサッと差し込む。
呆然としていた玉藻前がハッとして叫ぶ。
「アホ!離れろや!蹴られるで!」
玉藻前の声に気付き黒鴉は倒れるように横に逃げ、言った通り魔物は痛みに叫び後ろ蹴りを放つも空振りになる。
黒鴉は過呼吸になりながら立ち上がりそのまま放心状態になる。
「ど、どないしよ…」
そこにようやっと援軍として魔物の正面方向から八坂が走って、背後からは翔が自転車を走らせて飛び込んでくる。
氷雨で脚を凍らせて、八坂の拳を額に叩き込み魔物がようやっと地に伏せる。
「ほへぇ…」
玉藻前が気が抜けたように尻餅をつき、翔が焰鬼を呼び出しトドメを刺し急ぎ黒姫に駆け寄る。
「あぁくそ!黒姫!しっかりしろ!」
翔が自宅に連絡して神鳴に状況を報告する。
「急いで薬を頼む!あぁ、頼む!」
八坂が黒鴉に声をかけて正気に戻す。
「黒姫が…どうしよう…」
「しっかりしろ!」
「あぁそうだ…救急車…」
翔が周囲の惨状を見て急ぐように伝え黒姫の介抱を続ける。
「まだ死ぬなよ」
「遅いです…」
翔の顔を見て安心したのかそのまま気絶してしまった。