新たな敵1
勝負の期日、もう殆ど意味は無くなっていたが気だるそうに黒鴉が翔の家の呼び鈴を鳴らす。
ぶつくさと文句を言いながらもリビングで元気そうな黒姫を見て胸を撫で下ろす。
「元気そうで良かったわ、本当に…」
「あの後結局稼いでないし勝負は俺の負けかな?」
「そうね、でもトラブルあったから勝負はお預けでもいいのよ?」
黒鴉はわざとらしく聞いてくる。
翔と黒姫が換金せずに取っておいた二つの大きな魔石を取り出す。
「…忙しくて換金忘れてたんだよねこれ」
黒鴉が青筋立てつつ我慢しながら感心したように反応する。
「へ、へー…やるじゃない」
「ほら私病院送りだったから…」
「なるほどコイツらが…」
黒鴉が諸々の怒りに任せて魔石に八つ当たりする。
「馬鹿!割れたらどうする!」
「黒姫の仇よ!あとあんたの余裕な態度!あー腹立つ!土下座して許しを請えー!」
がしゃんと魔石が床に落ち玉藻前とダンが復活する。
魔物を前にしても気が収まらない黒鴉が倒れ寝惚ける玉藻前に掴みかかる。
「お前かー!私の可愛い妹を虐めたのは!…よく見たらこの前私の邪魔した狐じゃない!このー」
ぐらぐらと揺すられて玉藻前が酔って青ざめる。
「や、やめい…気持ち悪ぅ…うっぷ」
「黒鴉止めろ、吐かれたら困る!」
肩で息をしながら次に黒鴉はギラついた目でダンを睨む。
「我輩は関係ないであーる…」
「姉さん仇はコイツですよ?」
黒姫がナイフを片手にダンを指差す。ダンの首にはデスの鎌がかけられていた。
「そっかーお前か」
「ひぃ!復活した途端酷いのである!」
貧弱そうな色白吸血鬼に黒鴉が殴る蹴るの暴行を加える。
「クレイジーやで…」
吐くのをなんとか我慢して喋れるようになった玉藻前が口元を押さえながら立ち上がる。
「なんでウチとあのアホ助けたんや?」
玉藻前が翔に尋ねる。
「助けてないぞ、偶々金にするタイミング逃してあの暴力お嬢が魔石割っちまっただけだ」
「ドギツ…田舎に帰りたいわ」
戦う気力も起きないのかボコされるダンを眺めながら玉藻前がぼやく。
「厠どこや?やっぱダメや、吐きそ」
「逃げるなよ?丁度聞きたいことあるし」
翔に案内されてトイレに案内されて一頻りスッキリさせて出てくる。
「あー、楽になったわ、えらい小綺麗な厠やな」
二人がリビングに戻るとアザだらけで大人しくなったダンを言葉攻めで精神攻撃する形に変わっていた。
「うわー、えげつな…」
「おーい、もういいだろ勘弁してやれって」
ダンが泣きながら助けを求めてくるので玉藻前が止めに入る。
「まぁまぁ、皆無事やったんやから許したってーな」
「あん?どの口が言っているのかしら?」
黒鴉の凄味に玉藻前は翔の後ろに退散する。
「おい浜松、何懐かれてるのよ…」
「翔君?なんでそんな狐の味方してるんですか?」
どす黒い気を受けて苦笑いする翔に追い討ちをかけるように魔物二人が助けを請う。
「あの二人怖いわー、助けてー」
「我輩も助けて欲しいであーる」
修羅場を必死で潜り抜ける考えを巡らせながら一人脳内で愚痴る。
(部屋に戻って何もかも忘れて寝たい…)