無力
傷をアキトの持ってきた薬でしっかり回復した黒姫が退院して翔の家に戻ってくる。
力を失い戦えなくなったことに足取り重く扉の前で自分の今後をどうすべきか自問自答しながら呼び鈴を鳴らす。
翔が扉を開けて中に招く。
「気にせず入れって」
「…私」
「いいから入れ」
翔に手を掴まれて引き込まれながら家に入る。
家の中ではしかめっ面の黒鴉がリビングにいた。
「退院おめでとう」
「姉さん?どうして?」
「連れて帰る為よ、もう戦えないんでしょ?なら無理してここにいる必要は無いでしょ?」
俯き返答に迷う黒姫だったが翔が話を中断させる。
「取り敢えず退院祝い用に用意したケーキ食べないか?」
黒鴉にもケーキを差し出す。
「は?なんで私に?」
「俺の分、二人でゆっくり話し合え」
翔はそう言って自室に戻っていく。
「勝手なやつね、ショートケーキ…冒険しないタイプかしら」
「分析ですか…?」
「あなたが好きになった人について考えてみただけよ」
ケーキをつつき食べながら黒鴉がため息を吐く。
「あなたはどうしたいの?」
「…どうって?」
「死ぬかもしれないのでしょう…聞いたわ」
黒姫の手が止まり少し間をおいて答える。
「私はまだ死にません…」
「気持ちだけでならなんとでも言えるわ」
「翔君と皆を信じてます、解決策はあるはずです」
「根拠も無いのに…分からないわ、あの変人やただのクラスメートをなんでそう簡単に信じられるのかしら」
黒姫は異世界の話をすべきか悩んでいると物置の扉が開いて件の変人と更に白衣の変人が現れ黒鴉が呆然とする。
「げっ、暴力お嬢様…」
「…どっから出てきた変人!」
黒鴉を無視してシュメイラが黒姫に挨拶する。
「ひひ、黒姫くんお久しぶり診察に来たよ」
「マッドサイエンティストもいるし!黒姫!帰るわよ!こんなとこにいたら何かある前に死ぬわ!」
更に神楽とこってり数日叱られてしょんぼりした神鳴が入ってくる。
「あら、お客さんがいるわ…」
「ひ、非常識だわ!なんなのよコイツら!」
黒鴉が悲鳴に近い叫び声を上げたからか翔が急いで降りてくる。
「大丈夫か二人共!…ぞろぞろとまぁ」
アキト達四人を見て翔が呆れる。
「すぐにでも確認した方が良いと思ってね」
神楽が無言でケーキを食べる黒姫を見てニコッと笑う。
「これがあなたの言った皆?怪しさ満点ね」
「うーん、まぁすぐには信用出来ないですよね」
黒鴉が黙っていると神楽が深々とお辞儀をする。
「黒姫の頭痛の種治すためにももう少し預けて貰えないかしら?お願いするわ、この白衣の変人は見てくれ危ないけど腕は保証するから」
「ひひ、酷い言い様だね…」
「ついていけないわ…何かあったらどう責任取るつもりよ!」
「大丈夫、その時は世界終わるかもしれない案件だから」
神楽がニコッとまた笑い、翔が頭を抱える。
「黒姫…帰りましょう狂人しかいないわ」
「ごめんなさい姉さん、私も狂人側だから…これ以上迷惑かけれないわ」
どうすればいいのか困り果てる黒鴉に翔が頭を下げる。
「本当に申し訳ない、君が来るとは思ってなかったから」
「はぁ…こんなのしか頼れないなんて…無力な自分が許せないわ」
黒鴉が肩を落としながら帰ろうとする。
「力が欲しいならあげるのに」
「ひひ、元気出る薬ならあるよ」
神楽が神鳴をアキトがシュメイラを殴る。
「浜松、ケーキご馳走様、私帰るわ」
疲弊しきった様子で黒鴉は家を出ていった。