封印
翔達は病室の中で静かに戦いの結果を待っていた。
間も無く黒服を連れた久坂が入ってくる。
「お嬢!ご無事ですか!?」
翔と久坂の目が合い苦々しい顔をする。
「お前…なんで、いや今はお嬢だ」
「皆無事よ久坂、お疲れ様」
「いえ、黒コートの男が殆ど一人で…いえ、それよりもお嬢は来て下さい」
黒コートの男に心当たりがあった翔は苦笑いする。
「浜松さん、黒姫を頼みます」
営業フェイスに切り替え黒鴉は久坂達に着いて部屋を出ていく。
黒鴉が出ていくのを見て黒姫が翔に語りかけてくる。
「翔君…もし私が…」
言いよどむ黒姫に翔は黙って言葉を待つ。
「狂った時は迷わず斬ってください」
「は?なに言って…」
「最近私の頭の中で声がするんです…」
「最近…?昨日の戦いより前に?」
「はい、翔君と共にいる間は抑えられるのですが…精神が不安定になるとどんどん声が強くなって」
そこに勢いよく扉を開けてアキトが入ってくる。
「成る程、黒姫の中にいたか…」
「やっぱりアキトさんだったか…」
久坂の言っていた黒コートの男、目付き鋭く黒姫を睨みながらアキトは話を始める。
「姿を見せない神鳴の兄弟の一人がどこにいるかずっと調べていたんだが…仲間の内側に入っていたとは」
「私の中…?」
「神鳴が居なくなってそれでも翔のとこでトラブルが起きた、まぁそういう事だ」
翔にアキトがそっと「半分はったりだけど」と耳打ちする。
黒姫がまた苦しみだす。
「黒姫!アキトさん!?何してるんですか!」
「すまん、出ていかずにそのまま乗っ取る気か」
アキトは薬瓶を取り出して中身を黒姫にぶっかける。
黒姫は呻き声を上げてベッドに倒れる。
「何をしたんですか?」
「力を封じた、しばらく精霊も使えないが声を聞かずに済むはずだ」
「問題の先延ばし…ですか」
「今はそうするしかない、後は彼女次第だ」
余計な事をしたと翔に謝ってアキトは回復用の薬瓶を翔に渡して病室を出ていく。
部屋を出た直後に黒鴉の怒号とアキトの情けない声がする。
(声が聞こえなくなるが力を使わなくて済むのか…しっかり守ってやらないと)
数分後、黒姫が目を覚まし混乱しながらも自我が残っていることに安堵する。
「目が覚めたか、アキトさんから薬渡されてるから飲んでくれ」
黙って瓶を受け取りイッキ飲みする。
「私…どうなったんですか?」
「声の主を今の黒姫の精霊使役の力諸とも封印したみたいだ…一時しのぎだけど」
「翔君、私…消えたくない」
「必ず助ける策は模索する、約束だ」
病室の外でアキトをシバきながら黒鴉がその様子を見てため息を吐く。
「妹は私達では救えないと…そういうことよね?」
「ああ、任せて欲しい…あの、そろそろ許して」
アキトは足を何度も蹴られ黒姫を危険に晒した事を謝罪しながら許しを請う。
「はぁ…なーんかムカつくのよね、まぁ今は妹が無事だったから…ん、やっぱり許せないわ」
アキトは土下座する。
「行けると思いました、調子に乗りました申し訳ございませんでした」
「黒姫に言いなさい!」
その話が聞こえた黒姫はクスクス笑いながら許さないと言い放っていた。