予兆
病室で点滴を受け眠ったままの黒姫、仕方なく帰された翔は翌日朝一番に様子を見に行くと病室の前に黒服が二人黙って立っていた。
面会のために恐る恐る入ると黒鴉が心配そうにしながら起きていた黒姫と話をしていた。
会話の内容を聞き取る前に黒鴉が翔に気付き怒りを露に襟首を掴み叫ぶのを我慢しながら声を発する。
「あんたよくも黒姫に怪我を!」
止めようとする黒姫を遮り言葉を告げる。
「守りたい者も守れないなら最初から勝負なんて必要なかったわね」
「姉さん!」
「黒姫も戦おうなんて思わないで、あなたは守られる側でいいのよ」
黒鴉の悲しげな表情に黒姫は俯く。
「妹は高貴な出なの、戦いは不要なの…」
「俺は…」
反論したかったが言葉が思いつかず翔も俯いてしまう。
直後黒姫が頭を押さえながら苦しみ喘ぐ。
驚き翔も黒鴉も駆け寄り声をかける。うわ言のように何かを呟いていた。
「な、何かの発作かしら、先生を呼ばないとナースコールは!?」
「大丈夫…違う…私は…」
「大丈夫には見えねえぞ」
翔が手を握ると黒姫の呼吸が落ち着き二人に謝りながらはにかむ。
「兎に角しっかり医者に見てもらわないと!」
黒鴉の声とほぼ同時に悲鳴があがる。
「まさか!今度は病院でか!」
魔物の出現と考えて翔が飛び出そうとすると黒鴉に服を掴まれて止められる。
「外は黒服に任せなさい!あなたが居なくなったら誰が黒姫と私を守るのよ!」
「だけど…!」
「お願いよ、仲間は呼んでいるわ」
衝撃音が聞こえてくる中で歯痒い思いをしながら動くのを我慢しじっとする。
黒鴉の焦燥した顔を見て認識を改める。
(ああ、黒姫の言う通り根は優しいお姉さんなんだな…)
黒鴉は黒姫の名前を何度も呼びながら背中を擦る。
「ほら、あなたも声かけして」
急かせれながら翔も黒姫を呼ぶ。
「私…ごめんなさい、目眩が酷くて」
「そういう時はありがとうって言うものよ」
「ありがとう、姉さん、翔君」
汗だくになりながらも笑顔を見せ二人も釣られて笑顔になる。
「外の様子見てくる、静かすぎる」
「気を付けてね」
「見るだけよ?」
翔は頷きながら扉をゆっくり開き確認する。扉の前にいたはずの黒服は居なくなっており廊下には見える範囲には誰もいなかった。
「外には誰もいないみたいだ」
黒鴉がそれを聞いて待つことを提案する。
「そうだな、援軍くるなら待つか黒姫もまだ本調子じゃないし…」
扉をゆっくり閉めて黒鴉の隣に座る。
「浜松…だっけ?黒姫の事どう思ってるの?」
突然の質問に翔が吹き出すが二人の視線に真顔になる。
「好きだよ」
「もっと早く言いなさいよ…黒姫こんなにボロボロだし私悪役じゃない…」
「翔君、私ご迷惑ばかりかけて…」
泣き出す黒姫を見て二人は慌てる。
(良かった…大事な仲間としてとか余計な事言ったら絶対刺されそうだったな)