黒鴉
誰よりも優れていて
誰もがひれ伏し
誰からも憧れを抱かれる
私は最良で最高で最上、
約束された成功の橋が目の前に続いていたはずだった。
「私は神藤黒鴉、不肖の妹にもあの平民の馬鹿にも負けるはずは無いの!」
早朝、屋敷の私室の大きな鏡を前にプライドをへし折って逃げた翔達を思い出して何度も呪文を唱えるように自分に言い聞かせる。
使用人が扉を叩く。黒鴉は身嗜みを整え部屋を出る。
「本日のご予定ですが…」
使用人が続きを言う前に黒鴉が予定表をひったくり眺める。
「政財界への会食や接待ばかりじゃない…お父様は?」
「昨晩から海外に出向しております」
「はぁ…黒姫にでも押し付けたいわ…やっぱり放り出したのは失敗ね」
何かを思い付いたように使用人に予定のキャンセルを宣言する。
「車を出して、黒姫と馬鹿に会いに行くわ!」
困り顔になる使用人を無視して意気揚々と車に乗り込む。
翔の家に着き嬉々としてチャイムを鳴らす。
黒鴉の顔をドアの覗き窓越しに見て苦々しい顔をしながら翔が出迎える。
「噂をすれば影ってヤツだな…」
「ふん、今はあなたに用は無いわ!黒姫居るんでしょう!?」
渋々黒姫が覗き込むように姿を見せる。翔がイラッとした表情をする。
「連れ戻しに来たのか?自分勝手な…」
「黙りなさい!あなたに私の考えや気持ちが分かるものですか」
「姉さん?もう限界なんですか?」
今まで黒姫に押し付けてきた仕事が自分に回ってきてその事を遠回しに指摘され黒鴉の顔がひきつる。
「べ、別に…そういう訳では…じゃなくて!神藤家の者が…!」
「まぁ取り敢えず中に入れ、玄関で騒ぐな」
翔が黒鴉を家に招き入れリビングまで案内する。
「やはり庶民ね狭いわ」
「なぁ黒姫…一発殴っていいかな?」
「すみません我慢してください」
文句を言いながらふんぞり返りながら椅子に座る。
「学校が攻撃されて災難だったそうね、私達が介入する前に解決されて正直宣伝のチャンスを逃してしまったわ」
「あんたら待ってたら人命に犠牲出てただろうからな」
「そうね、事件発生に対するアンテナは常に張り続ける良い教訓になったわ」
バチバチと火花を散らしそうな程睨み合う二人をなだめる黒姫に黒鴉が怒りを露にする。
「そもそも黒姫がコイツを紹介しなければ…!なんなのよコイツ!」
「私の最愛の人です」
恥ずかしげもなく言う言葉に翔も黒鴉が卒倒しかける。
「お父様が聞いたら泡吹いて倒れそうな事を恥ずかしげもなく!というかコイツも困ってるじゃない」
「姉さん、私は姉さんが昔のように賢く優しくあって欲しいだけなんです」
「…今私馬鹿にされたわよね?」
翔が黙って頷く。
「黒姫、あなたは甘すぎるのよ、戻ってきた時は神藤家の一員としての自覚が芽生えたと思ったのに…」
「大切なのは家柄ではなく人柄です、確かに私も家族は大事だと気付き一度は戻りましたが…」
「平行線ね、それに私の人柄までコケにされたとあっては許せないわ!」
バンとテーブルを叩き立ち上がる。
「決闘よ決闘!」
「そんな中世的な…」
翔が黒鴉の言葉に呆れながらもツッコミをする。
「じゃあ私はどうすれば良いと言うのよ!」
「いや、多分そういう所が頭悪いって言われる要因なんじゃないかな…」
声にならない声を上げて黒鴉がリビングを出ていく。
「これから一週間!あなた達の稼いだ賞金がうちのトップの稼ぎより下だったら黒姫を返してもらうから!」
問答無用に家を出ていく黒鴉を呆然と二人は見つめる。
「えぇ…」
「翔君、外に行く用事出来ましたね」
何故か黒姫は嬉しそうだった。