神の下僕は世界を救いたい1
鉛色の空の下で気が付くと翔の目の前に世界の始まりがあった。
「何やってんだ新人!早く荷物運び入れやがれ!」
翔は背中を見知らぬ作業着の男性にどつかれたくさんある近未来的な箱を指差される。
訳も分からず他の人と一緒に荷物運びをしながら地下深くに続く建物に入っていく。
ここは何の施設なのか、何故ここにいるのかの混乱しながら研究施設のような場所を進み指示された場所に荷物を運び終えるとそのまま別室に連れていかれ白衣とIDカードの支給をされ形式的な施設の説明を受ける。
「まず始めにカードは失くさないようにしてくれよ?君も赴任してすぐに首を飛ばしたくないだろ?文字通りさ?」
物騒な事を言いながら冗談を言うように笑う。
「形式的な説明だがこの施設は知っての通り極秘の世界政府の任を受けて設立された未来を明るく照らす研究所である」
(いや、知らないんだが…)
「ご存知の通り既に世界の有限な資源は底を尽きかけて我々の未来は絶望的だ、貧困、少子化、食糧危機…ニュース位は見ているだろう?」
演説っぽく語られる話に翔はどこもそんな暗いニュースばっかりなんだなと納得して頷くと説明係もノッて来たのか熱が入っていく。
「それらを全て解決する技術を開発しているのがこの研究所なのだ!君は…まぁ、その…雑用として呼ばれているんだが気を落とさないでくれ?未来を担う事に変わりは無いのだから!」
(何の知識も無いから寧ろ助かるな…急にやって来た謎世界で謎研究なんて絶対無理だ)
安堵する翔を見て説明係がようやっと名乗る。
「僕はアルバート、君の先輩兼教育係さ!えーっと…」
名簿を確認して驚く。
「うわぁ、消耗品扱いか…名前が無いや」
「消耗品…?」
「あ、いやこっちの話ー、大丈夫えっと名前なんていうのかな?」
誤魔化すように笑顔を向けるアルバートを疑いの眼で見ながら翔は名前だけ名乗る。
「ふーん、カケルね、まぁKと呼ばせてもらうよ」
「名前じゃないんですか?」
「残念だけど…まぁ形式的なものだから」
アルバートはニコニコしながらパソコンを操作して別のカードを渡してくる。
「研究員証ね、カードも白衣も失くさないように、まぁ施設から出れないから失くしても何時かは見つかるだろうけどね」
(あ、証には名前あるんだ…てか普通にアルファベット使っているんだな…)
「じゃあ早速君にはプロトタイプの世話役をお願いするよ」
翔は聞き覚えのある言葉に耳を疑う。
「え?プロト…タイプ?」
「そう、手の掛かる娘でねー、失敗作だからって気を抜くと石にされちゃうよ?」
アルバートに連れられとある部屋の前に立たされエアロックに入れられる。
スピーカー越しにアルバートが適当な応援の言葉を投げ掛け玩具の転がる子供部屋のような場所に入れられる。
そこには見間違うはずもなくまだ世界を知らぬ神鳴がいた。
(やっぱりじゃあここは…滅んだはずの上位世界ってことか!?)
「あなたは誰?」
冷たい言葉と視線に恐怖を覚えるが唾を飲み込み自己紹介する。
「俺は翔、えっと君は?」
沈黙が流れる。モニタリングしていたアルバートと他研究員が苦笑いする。
「どうなると思いますか?」
「他と同じなら新しく補充すればいいだけさ、僕は戻るよ、アーキタイプの完成披露があるからね」
子供部屋では神鳴が自分の名前が無いことを翔に伝える。
「名前…無いの、怖い人達は私をプロトタイプって呼ぶけど…」
「そうかぁ、無いなら俺が付けるよ、神鳴、ってのはどうだ?」
「神鳴…?…うん!気に入ったわ下僕」
「げ、下僕…」
混乱を避けるために同じ名前を付けてふと自分がとんでもないことをしたと気付く。
(あれ?俺が名付け親になってるのマズいんじゃ?…まぁどうせここが起源じゃないからいっか)