そして世界は3
神藤邸の広間にて。
「昨日の今日で申し訳ない」
合って早々に竜司が頭を下げる。
「何かあったんですか?」
黒鴉に睨まれる中で翔は単刀直入に話を聞こうとする。
「一つ記憶についてだがわたしと君にだけ残っているようだ、黒鴉が全く君を覚えていない事から明らかだろう」
腕を組み竜司はゆっくりと「そして」と付け加える。
「神華もこの世界にいない…まるでプロトタイプに渡した時の孤立した世界のようだ」
「神鳴は…あぁ、そうか干渉していないのか…」
神鳴のこの世界への干渉理由を思い出し侵略も存在しないのだと悟る。
「全て忘れるべきなのかも知れない…黒姫は君の平穏を願ったのではないだろうか?」
「じゃあどうして親父さんまで…?」
「はは、多分母の為じゃないかな?どちらにしても世界は平和になり君の役目も終わった…失った日々を謳歌すべきなのだ」
役目を終えたと聞き全身から力が抜ける感覚を覚える。
「用済み?ははは、ふざけんなよ!あんたは信じろと言った!だから…!」
振り上げた拳を叩き付ける事なくゆっくりと下ろしてただ悔し涙を流す。
哀れみの目を向けられ感情がぐちゃぐちゃになり「死にたい」と呟いてしまう。
「君はまだ切り替えられる…それでも?」
「嘘をついてまでこんな仕打ちなら俺は絶対に許さない」
竜司は何かを決心したように目を瞑り頷くと笑みを浮かべる。
「わたしも嘘は嫌いだ、そして何よりも…わたしはハッピーエンドが大好きだ!」
黒鴉は仕方ないと言いたげに翔の隣に来て肩を叩く。
「お父様から話は聞いているわ、正直あんたが情けなくて半信半疑だけど」
黒鴉は翔に宝石の付いた指輪を手渡す。
「可能性に賭けるか?まぁ死んでも構わないなら聞く必要は無かったな…」
「…一体どうやって?この指輪は?」
「半日掛けて作った神の御業さ、あまり期待するなよ?何が待っているか分からないのだから」
暫く指輪を眺めた後に右の人差し指にはめる。
「あら左薬指じゃないの?」
黒鴉が冗談めいた言い方をする。
「わたしが直々に行って説教すべきなのだろうが…娘や家族達を頼んだぞ」
指輪が光り翔はどこかへ転送される。
黒鴉はその様を見て目を丸くする。
「うわ、ホントに消えた…私てっきり全部作り話だと思ってたのに」
「ははは、お父さんは本当は凄いんだぞって所見せれたかー?」
「神様ねぇ…私にも何か力無いかしら?記憶とやらがあれば何とかなる?」
黒鴉はねだるように父に尋ねるが愛想笑いで流される。
「さぁ今日も元気良く仕事に行くぞ!」
「ちょっとー、誤魔化さないでよー」
(世界の命運を何度も背負わされるなんて彼も数奇な運命だな…まぁ傍観する分には楽しかったかな)