そして世界は1
夏も終わり秋に差し掛かったとある晴れた日の朝、けたたましい目覚ましの音に翔は頬を叩き目を覚ます。
何時の間に眠ってしまったのかぼんやりとした様子で寝間着のまま欠伸をしながらリビングに降りる。
いつもの面々に挨拶するように手を上げるも幻覚のようにかき消えてキッチンで弁当の準備をする母にどやされる。
「おはよう、なにしてんの?早く顔洗って着替えて来なさい!遅刻するわよ」
「ああ…うん…おはよう」
何か大事な事を忘れているような気がする、そんな思いを胸に何時ものルーチンをこなして朝食を押し込む。
「ほら弁当、急ぎなさい!」
母に急かされるも鞄片手にどうしても気になると物置の扉を開く。
色んな荷物が段ボールに詰め込まれ名前通り物置があった。
「何やってんの!」
「なんとなく…」
寝ぼけた様子の翔の尻をひっぱたき学校へ行かせる。
自転車に跨がり何時もの道を何時ものように走り学校に着く。
駐輪場に自転車を停めようとすると見張りの先生に叱られる。
「浜松!遅刻しそうだからって三年のスペースに停めるんじゃない!」
「何言ってるんですか、俺は…」
ハッとして翔は携帯を手に取り日付を見る。
「早く二年のスペースに行って停めろ!」
「あ、はい…すみません」
霞がかった思考がようやっとまとまり始め自分の状況を整理しながら教室に向かう。
(おかしいなまるで過去に…?過去?アイツは…アイツ?違う!忘れるな!忘れちゃダメだ!)
頭をガンガンと掌で叩きながら曖昧な記憶を辿り教室を目指す。
席についてもぐちゃぐちゃの思考と感情で集中出来ずにいると休み時間に河内が声をかけてくる。
「翔、大丈夫か?」
「大丈夫、のはず…ダメだ忘れるな」
河内が猪尾に首を横に振ってお手上げとジェスチャーする。
「翔っちなに忘れたん?」
猪尾も翔の繰り返し言う「忘れるな」の意味を問う。
「大事な記憶…思い出…どうして」
「翔っち、若年性なんちゃらじゃない?家帰ったら手紙やら写真で思い出せって」
「授業中も先生に目を付けられてたぞ?気を付けろよ?」
重症だと二人はそのまま席に戻って行く。
(手紙?写真?…違うこれは…未来の記憶…あの日を思い出すんだ)
放課後翔は携帯を睨み付けながら自分の辿るべき道を思い出そうとする。
「そうだ…ゲームセンター、そこに行って…」
翔は河内や猪尾を誘ってみるが用事があると断られる。
(違う…今向かうべき場所は!)
朧気な記憶を頼りに神藤邸のある場所に辿り着く。
運が良いのか丁度屋敷から家主の男と出会い一気に霧が晴れるような感覚を覚える。
車に乗り込もうとする男を呼ぶと男は驚いた表情で翔を見つめる。
「竜司さん…!」
門から黒鴉が現れ翔を睨み付け父を呼ぶ。
「お父様!何しているのです?行きますよ?」
「大事な客人だ、先に行きなさい」
「はぁ?こんな学生が?…わかりました、会食遅刻しないでください」
竜司の様子に黒鴉は仕方なく一人で車に乗り込む。
翔は神妙な顔の竜司に連れられて屋敷に上がる。