それぞれの思い2
翌日、寝不足になった翔がリビングに降りると以前見たことのある置き手紙があった。
気だるそうに中身を確認すると玉藻前から謝罪と神鳴の意志について記述されていた。
「おいおいマジかよ…」
神鳴の願いを見た翔はそのとんでもない内容に驚き眠気がぶっ飛ぶ。
すぐに黒姫も同じく寝不足な様子で朝の挨拶をする。
「あ、おはようございます…」
翔を見て顔を赤らめ声が小さくなる。
「…あー、これ」
黒姫の様子を見て翔も恥ずかしくなり言葉少なく玉藻前からの手紙を手渡す。
無言で中身を読み黒姫は神鳴の願いを受け止める。
「分かります…ずっと幸せな時が続けばそれはそれで良いものですよね…」
優しい口調で手紙をテーブルに置き冷蔵庫に向かう。
「黒姫はどんな世界を願うんだ?」
クスクスと笑いながら牛乳をコップに注ぎテーブルに座る。
「今まで通りです、時はしっかり流れて…ズルいですか?」
「二人だけの世界とか言い出さなくて良かったと思った」
予想外に普通な願いに翔は思っていた事を口に出してしまう。
「昨日はそう思っていました…でも考えてみると皆居てこその幸せだと気付いたんです…神鳴のは極端ですけど」
黒姫は牛乳をイッキ飲みして自分の主張をハッキリと言う。
「私はやっぱり今のままでもいいと思います!」
「皆それぞれ言い分があるんだよ」
黒姫を宥めるように翔は言葉を投げ掛ける。
「今日お時間ありますか?」
急に何かを思いついたように黒姫が翔に質問し特に予定は無いと翔が伝えると嬉しそうな顔をする。
数時間後、とある霊園、花束片手に黒姫に連れられ件の母親の墓を目指す。
「白と赤のカーネーション…母の日じゃないんだから…」
「花言葉ですよ、赤は献花には合わないかもですが」
黒姫が突然足を止め翔も黒姫の目線の先を見る。
「っげ!」
竜司がとある墓前で手を合わせていた。
「父さん…」
二人に気付いた竜司が気まずそうに頭を掻いて一礼する。
「黒姫…浜松君も…」
黒姫の花束を見て苦笑いする。
「盆休みに来なかったのか?わたしは忙しくてな…」
その後竜司は場所を退いて黒姫の言葉を待たずにさっさと帰ってしまう。
「あ、行っちゃったが…いいのか?」
黒姫は黙って頷き献花されている花をチラッと見てから自分も花を添える。
「あ、同じ白のカーネーションと何て花なんだ?菊?」
「金盞花…母が生前最後に父に贈った花の一つです」
翔は聞いたこともない花に申し訳なさそうにする。
「…すまん花言葉分からなくて」
「あ、いえ、気にしなくてもいいですよ?こういうのは気持ちです!」
二人で墓に向かい手を合わせる。
目を開け無言で墓を暫く見つめた後にようやく黒姫が口を開く。
「帰りましょう、最後の戦いが待ってますよ?」
「嫌な事思い出させないでくれ…」
わざとらしく嫌な顔をし吐きそうな素振りをして嫌がる。
「そんな顔しないで下さい、頑張りましょう」