それぞれの思い1
昼食前の公園、現代日本に似つかわしくない格好の神鳴と玉藻前がブランコに乗っていた。
一人黄昏る神鳴を玉藻前が気遣う。
「ほんまにカナリン大丈夫か?」
「私は…どうすればいいのかな…」
「あー、アカンわ…」
玉藻前は深刻な様子だと呆れながら呟く。
「カナリンの願いはなんなん?」
「願い…?ごめん思いつかない」
すぐに返って来た答えに調子良くツッコミを入れる。
「もっと考えろやー」
神鳴は俯き暫く考え答える。
「神竜も姉さんも極端だけど目指したい世界は分かるの…でも私には叶えたい世界や未来なんて無いの」
「んー?何や?つまり今のままがええってことなんか?」
「今のまま…そう!私皆ともっとずっと今を楽しみたい!」
純粋な答えに至る神鳴を見て玉藻前は哀れみに近い目を向ける。
「カナリン…それは…」
残酷な答え、口に出そうとするがまた悩み苦しませる位ならと飲み込む。
「私にも叶えたい世界が出来たわ、ありがとう」
一人ブランコから降りる神鳴が悪魔になろうとするのを阻止するために意を決して玉藻前は叫ぶ。
「それはアカン!その願いは賛同できんよ!」
神鳴は今までに見たこともない冷たい目をして振り返る。
「なぜ?」
「皆の時を止めてまで同じ時間軸を生き続けるなんて残酷過ぎやで!皆の未来を奪うんは神にやって許されへん事や!」
「じゃあ時の流れを操作すればいいのよね?」
反論を許さない程の凄味を笑顔で放ち玉藻前は萎縮する。
「大丈夫、もう誰も悲しませないわ…」
「カナリン…」
神楽の私室にてアキトが質問攻めをしていた。
「融和の為にどうするのか?どう奴と戦うか?神鳴達をどうするか?取り敢えずこの三点を答えてもらおうか」
神楽は言葉を慎重に選びながら答える。
「そこは…えっと、説得するわ!」
アキトが口を開けてポカンとする。
神楽が不安そうにアキトの意見を引き出そうとする。
「な、なに?意見あるならハッキリお願い」
「言葉で分かりあえる相手じゃないって…お前も気付いてるだろ?」
「うぅ…でも…どうすれば」
泣き言を溢す神楽に仕方なくアキトが助け船を出す。
「俺も学や常識があるわけじゃ無いからハッキリとは言えないが言葉よりも行動で示すべきなんじゃあないか?言葉だけの仲良しよりもしっかりとその様を見せつけるというか…」
アキトの言葉に相槌を打ち目を輝かせる。
「行動…!そうね!善は急げ!味方を増やすわよ!」
「待て待て!味方を増やすって説明する気か?無闇矢鱈に不安を煽るな!」
アキトの制止に神楽が首をかしげる。
「いいか?代表者辺りを選べばいいだろ?」
「あ、うん…そうね」
出鼻を挫かれて神楽が肩を落とすが目標が出来て元気な様子に戻る。
「やるわよー!見てなさい!」
神藤邸、黒鴉がやる気の無い顔をしてパソコンで作業を行う。
「最悪…自分の親が悪の親玉とか笑えないわー」
隣で同じように作業をする神華が苦笑いする。
「悪かどうかは分からないかな、ほら、皆にとっては実はいい提案かもしれませんよ?」
黒鴉が目を閉じて今一度考え直す。
「んー…む、確かに」
この世界の一般人の感覚で言えばと頷いて意見を言う。
「平和という意味では一番かもね」
「あれ?母親は?」
「覚えてないのよね…小さい頃に離別してて」
黒鴉の言葉に神華が申し訳なさそうにする。
「あーごめん、余計なこと聞いたね」
黒鴉は首を横に振って気にしない素振りをする。
「居なくても生活してたし…まぁ会えるなら会ってみたいかも?」
「軽いですね…」
そこに聞き付けたのか竜司がやってくる。
「妻の事を聞きたいのか!」
「会社に行って下さいお父様…!」
長話をされそうになったのを察知して黒鴉が押し返す。
「分かった分かった、仕事終わったらいっぱい話してやろう、ははは」
竜司を追い出した後に神華が父の様子を思い出してため息をつく。
「愛かぁ…愛ねぇ…」
「神華にも好い人居たのかしら?」
冗談で聞いたつもりだったが黙る様子を見て黒鴉がほくそ笑む。
「居たんだー」
「ただの恩人よ」
黒鴉はそれ以上聞くのをやめて作業に戻る。