宝物5
黒幕の健全な提案と聞き浜松家に緊張が走る。
「わたしは世界を壊したいなどという訳では無いのだよ、ただ歪になった世界をあるべき形に戻すだけ」
「あれ、言ってることはまともでは?」
翔が拍子抜けしたように答えると神鳴が毒づく。
「今の今まで私に管理させて敵がいなくなったら返しては図々しいんじゃない」
「プロトタイプ…君にも苦労をかけた、皆を人として生きれる世界にすると約束しよう」
竜司の言葉に玉藻前がソファーから立ち上がり叫ぶ。
「ちょい待てや!ウチら異界の生物どうなるんや!?」
「なんだい?敗者達に選べる権利があると思っているのかい?」
顔色一つ変えずに冷酷な切り捨て発言をする男に怒りより恐怖が玉藻前を襲う。
「な、なんやコイツ…神楽んとこはどうなるんや!」
「さぁ?わたしに必要なのはこの世界だけだ、世界を捨てて神楽も人として生きろ」
好き勝手言う竜司に神楽が声を荒げて対立を表明する。
「ふざけないで!それぞれの世界に生きている者を蹂躙する権利はあなたにも私達にも無いわ!」
「他の世界など歪みを生むだけで不要さ、一部を救うだけでも優しいと思わないのか?」
「人として生きたのに命の尊さが分からないの!?」
神楽の言葉に竜司が涙を浮かべて叫ぶ。
「分かるさ!分かるからこそ再編し幸せを取り戻すのさ!」
黒姫が俯き「母さん…」と心当たりがある所を呟く。
「大切な人を失えば取り戻そうとする…プロトタイプのようにわたしは時を戻せないからな…」
神鳴も思い当たる話に黙り込む。
「ヒトとして生きた神楽にも愛は分かるだろう?」
神楽がアキトをチラッと見て答えられなくなり俯く。
翔が竜司に尋ねる。
「世界再編しても貴方は神として生きるから最愛の人には会えないし娘の黒姫達も消えるんじゃないか?」
「神のいない世界にするさ、だから世界は一つになるというより消える」
「上位世界の人達の願いに反する答えですね…」
神華の話を思い出して翔は意見し黒鴉が同調する。
「というかそれと同じ結末に向かっているわ、神が管理しなくなった世界は緩やかに死ぬ…そうだったわよね?」
「ええ…そうよ」
神楽が歯切れ悪そうに答えると竜司が否定する。
「それは規模の小さい世界ならな、この世界なら何百年、何千年も先…黒鴉、君の心配する事象ではない」
「そんなの宇宙規模なら一瞬じゃない!問題の先送りでしかないわ!以前の父ならそんな無責任な事を言わなかったわ!」
娘の必死な訴えを聞いてなお頑なに我を通そうとする父にアキトが口を開く。
「簡単な話じゃないか誰かが神をやればいい、んでソイツが皆の願いを矛盾しない程度に叶えた世界を創れば良い、ちょうど良い世捨て人がここにいるだろ?」
全員でアキトに白い目を向ける。
「なんだよ?嫌なら自分で管理しろや」
「どの道その人の身では無理だ、だが面白い説教だ…」
「あんたが力を束ねて好き勝手して滅ぶよりマシだろ」
アキトと竜司、二人の間で火花が散る。
黒鴉はその様子に呆れ、つまらなそうに呟く。
「どうして他の世界は今まで通りで、私達の世界を母が生きてる世界って事にしないのかしら?」
「そうですね、それが一番ですよ」
適当な思い付きだったが黒姫はそれに共感する。
話は着地点が見つからないまま混迷を極めていく…