2-1 農夫VS魔物 仁義なき戦い
グルトの後ろを追いかけるようにして、二人旅が始まって数日。アルは地面に大の字に寝転がって、夕暮れ空を眺めていた。
荒ぶる呼吸を整えながら、思うことはただひとつ。
「……今日も何とか生き延びた……」
その時、そばの茂みがガサガサと揺れ、頑健そうな男が現れた。腕には大量の枯れ枝を抱えている。
彼は歴戦の元戦士であり、現在は農夫をやっているグルト。ひょんなことから出会い、アルが師匠と崇める男である。
「おい、薪拾いってのは弟子のやる仕事じゃないのか?」
嫌みを言いながらも、グルトはてきぱきと焚火の用意をする。
「す、すみません……」
それはアルも思うが、一日中重い鎧を着て走っていては、立ち上がることさえできない。
数日前にグルトの弟子にしてもらったわけだが、グルトの脚は、とにかく速かった。ついてこられなかったら置いていくと言われた手前、へこたれるわけにはいかない。アルはとにかくがむしゃらについていった。
戦士時代に鍛えられ、さらに農作業で磨き上げられたグルトの体力と健脚は、言うなれば魔物である。グルトはただ歩いているだけでも、アルにしてみればジョギングをしているようなものなのだから。
そんなこんなで昨日も今日も、間に休憩を挟んでもらいながら何とかついていけたわけだが、一日の行程を終えた後に立って動くほどの力は残っていない。昨日より進歩したのは、会話するくらいの元気はあるところだ。
「今はこんなですが……すぐに体力をつけて、薪拾いでも何でもします。ですから師匠、少しだけ待ってください……!」
「別にいいけどよ。それより、その鎧脱いだ方が手っ取り早いんじゃねえのか? レベルの低いおまえじゃ、体に堪えるだろ」
そう言って、グルトはアルの着ている鎧を指した。
確かに、グルトの指摘はもっともだ。アルが着ているのは、頭を除いた全身を覆うフルプレートアーマーだから、重量も相当なものだ。
ごもっともの指摘に、アルはたじろぎながらも、首を横に振った。
「い、いえ、私は着ておきたいのです。やっぱり鎧を着ていた方が安心ですから」
「ほー」
グルトはさして興味がなさそうだ。アルはそれにホッとしながら、話題を移す。
「そういえば、師匠。昨日は余裕がなくて聞けなかったんですけど、」
アルは体を起こして座ると、火起こし作業中のグルトに向き直った。
「師匠はどうして旅をしているんですか? しかも、持っているのが剣じゃなくて鍬だなんて……。減ったとはいえ、世界にはまだまだ魔物がうろついているじゃないですか。戦士の経歴があるなら、剣を装備していけばいいと思うんですが……」
「あン?」
グルトがぎろりと睨んできたので、アルの背筋がピャッと伸びる。
「すっ、すみません……! 弟子ごときが口が過ぎました……っ」
うつむくアルを横目に、グルトは素っ気なく答えた。
「農夫なら鍬を持つのは当然だろ。俺ぁもう戦士じゃねえんだぞ」
「は、はあ……そういうものですか……」
「そうだな。おまえも俺の弟子なら、知っておいたほうがいい。なぜ、俺が旅に出たのか……。戦士を辞めて農夫となった俺は、来る日も来る日も、親から引き継いだ畑を耕していた──」
「うわあ、遠い目。強制イベントですか……しかも長そう」
呆れ返るアルを無視し、グルトの昔語りがめでたく開幕する。




