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プロローグ
──今日も今日とて、畑仕事。
農夫たちの朝は早い。鶏と同じ時刻に目覚め、そろそろと動き出し、やがて村のすぐ横手に広がる畑へと向かうのだ。
「は~、いい天気だべ」
「んだ、んだ。こんな日は畑仕事に精が出るっぺな」
「今日もいっちょきばるべ~」
毎朝言っていることを今日も言いながら、鍬を担いだ農夫たちが、ぞろぞろと畑の前にやって来た時だった。
「な、なんじゃあ、こりゃ……」
野菜の植わった畑はあちこち踏み荒らされ、掘り返され、それは無残な光景だった。そこにいつもの畑の姿はなかった。
「また魔物の仕業だべ……」
「これで何度目だべ……」
「こりゃ萎えるべ……」
その時、呆然と畑の前でうなだれる農夫たちの間から、一人の農夫が前に出てきた。三十を過ぎたくらいの、農夫の中ではまだまだ若造の部類だ。
彼は畑を一望した。農夫・グルトの堪忍袋の緒がぶち切れた瞬間である。
やがて農夫たちの方を振り返り、ただ一言、こう言った。
「ちっと、魔王に文句言ってくるわ」
こうして、元・戦士の現役農夫の旅が始まったのである。