コント『路線変更』
女性アイドル……ボケ
マネージャー……ツッコミ
〇舞台上は楽屋を想定。中央の椅子に女性アイドルが肩を落として座っている。
マネージャー、上手袖に向かって頭を下げながら……。
マネージャー「今日はありがとうございました。また、ぜひうちのサヤカをお願いします。あ、来月に新曲も出るんで、よかったらそのときにもプロモーションを兼ねて……。はい、はい、ありがとうございます。では、失礼します」
〇マネージャー、アイドルの方を振り向いて。
マネージャー「サヤカ、よかったな。また番組で使ってくれるって」
アイドル「はい……」
マネージャー「どうしたんだ? 浮かない顔して。なにか悩み事でもあるのか?」
アイドル「あの、今度の新曲なんですけど」
マネージャー「ああ、『ときめきサマーバカンスラブ』か? まさか、あの大物作詞家の秋山先生が歌詞を書いてくれるとはな。これはもう売れること間違いなしだ。来週のレコーディングに向けてちゃんと歌詞おぼえてるか?」
アイドル「その、歌詞なんですけど」
マネージャー「どうした?」
アイドル「私、唄いたくないんです。あの曲は自分らしくないというか……」
マネージャー「どうしたんだよ、サヤカ。自分が何を言ってるか分かってるか?」
アイドル「あの、私、前々からアイドルとしての自分はなんか違うなって思ってて。本当は、もっとアーティスト路線でやっていきたいんです。だから、今度の『ときめきサマーバカンスラブ』みたいなキラキラした曲はちょっと……。 もっと、こう、社会に対する不満とか、青春の葛藤とか、人間の本質的なものを文学的な歌詞にのせて歌いたいんです」
マネージャー「あのなあ、サヤカ……。確かにもう年齢的にもアーティスト路線に変更したいっていうお前の気持ちは分からんでもない。でも、あの秋山先生がせっかく書いてくれた詞だぞ?」
アイドル「分かってます。それは分かってるんですけど……」
〇マネージャー、ポケットから歌詞を取り出して読む。
マネージャー「『トキメキ トキメキ サマー サマー ビーチの私はピーチの果実 とろけるとろけるトロピカル 恋はいつでも急接近そして急ブレーキ 熱中症には気を付けてね 夢の中でアゲイン ときめきサマーバカンスラブ』……まあ、お前の言うアーティスト路線とは程遠い王道のアイドルソングだけど。でも、せっかくのチャンスなんだし」
アイドル「あの、実は! ……私、自分でも歌詞をいくつか書き溜めてて。自分で書くうちに、やっぱり私はキラキラしたアイドルソングじゃなくて、もっとアーティスト路線の曲を歌いたいなっていう思いがどんどん強くなってきて……。だから、お願いです。路線変更、させてください」
マネージャー「そう言われてもなあ。もう、レコーディングも決まってるし。……ちなみに、お前はどんな歌詞を書いてるんだ?」
〇アイドル、ノートを取り出して読む。
アイドル「『キラメキ フレッシュ スターサイン 恋のスイーツ モンブラン 甘くて切ない私の気持ち ハートのリボンで結んであげる キラキラ 光って ムーンライト 苦くて切ない恋のクレープ 食べ過ぎには気を付けてね 夢の中でアゲイン ドキドキスイーツラブアクション』」
マネージャー「いや、一緒じゃん! 路線、一緒じゃん!」
アイドル「え?」
マネージャー「一緒だ! 『トキメキ トキメキ サマーサマー』と『キラメキ フレッシュ スターサイン』! 二番かと思った!」
アイドル「いや、この曲は青春期における恋の葛藤を文学的な比喩を用いて……」
マネージャー「どこがだよ! 一緒だって! 『夢の中でアゲイン』に至っては完全に一致してる!」
アイドル「私、こっちの路線でいきたいんです!」
マネージャー「だから一緒だって! まったく同じ路線にお前と秋山先生は乗ってるんだよ! あと、何だよ! 『恋はいつでも急接近そして急ブレーキ』って! 意味分かんねえよ!」
アイドル「それは秋山先生の方の……」
マネージャー「どっちでもいいよ!」
アイドル「私、悩んでたんですよ? いつまで自分を偽った歌を唄ってるんだろうって」
マネージャー「安心しろ! 何一つ偽ってない! 本当のお前も『トキメキサマーバカンスラブ』なんだから!」
アイドル「私、もう自分を偽りたくないんです!」
マネージャー「そのままでいけ! お前は生粋のアイドルだ!」