無還
何もないところに一つの存在が生まれそれに続きもう一つ存在が生まれた。
それは二つは言い表すのが難しい。それらには意思も感情も無く生命とは言えない何か。姿形がなく何なのかさっぱり分からないものだ。
だが区別するために先に生まれたものを≪白≫後を≪黒≫としよう。
二つの存在しかないところに≪白≫は空間を生み出した。というよりも勝手に空間というものを生みだしてしまった。
それから数え切れない月日が経ちするとその空間から真っ黒な何かが生まれて世界が生まれ神々が生まれ人間(動物)などの世界生物が次々と生まれていった。
二つの存在はそのどれらにも観測されない存在だった。
ある時≪白≫は人間に興味を持ち姿かたちを真似できないかと考えた。そう少し考えただけでその存在は人の形を手に入れた。そして人間を観測していたいそう思い二つの世界を作る。
一つは地球のような世界。だが作り始めは安定しなかった。だから世界を安定させるべく世界の核となる十四の獣を生み出しそれは後に世界の神となった。
二つ目の世界は自身達が居られ他のものに観測される世界を作った。そして一人では寂しかったのか自身の力を使い人間のような八つの子を生み出した。
最初の六体は自身の分身として感情の存在として作り自身にも感情が生まれた。六つ子の名前を『ハズアステ』
そして残りの二人のうちの一人は一つ目の世界に落とし一人は傍に置いた。落とされた者の名を『フォルトナ』
傍に置いた子には世界と仕事、いくつかの力を与えそれには名前がついた。子の仕事とは全ての世界の記録をまとめる世界でそれを管理することだ。 世界の名を『初創の書庫』そして書庫の管理人『ノクラ』
そして≪白≫は自身の存在を知り名を付けた。その名は『ニエンテ』
一方の≪黒≫だが。元々何もない存在だったのだが神々が生まれてすぐ姿を現し始めたのだ。その姿は真っ黒で丸い器である。そして真っ黒な器も数え切れない年数が経ち世界を生み出してしまう。
ここで少しというよりも全く別の話に変わる。
思ったことはないだろうか感情が溢れたものはどこへ行くのだろうか、と。どんなにうれしいことがあっても悲しいことがあっても天井のようなものがあってそれ以上に感じることはない。だが、うれしい悲しいと思っている間はどんどん感情は湧き出てくる。その全てはその真っ黒な世界に吸い取られているのではなく落とされているのだ。ゴミを捨てるように。
話を進める前に嬉しいなどといった物を幸として悲しいなどといった物を負とする。
それらは真っ黒な器の中つまり世界を形成素材に変わっていく。幸と負が一緒に吸い込まれているのだ。まあ今いる地球のような平凡な世界になるのではと思うだろうが全くそんなわけがない。
例えの話をしよう。好きな人に告白された、宝くじが当たった等々。とっても幸せな気持ちになるだろう。その後に大切な存在を失う。つまりは家族や友人等々が亡くなったとする。そしたらどうなる?
幸は侵食されるように負がこみ上げるだろう。
反対にしてみよう。
大切な存在が亡くなってから、好きな人が告白してきた等々が起こった。そしたらどうだ?負は一瞬で消えて幸がこみ上げるだろうか?まあ世界のどこかにはいるかもしれないな。だがほとんどの者は負がわき続け幸を感じることなどみじんもないだろう。
どうやっても負を覆す幸などなく負とは幸を侵食してしまうのだ。
今はそこそこ平和だがそれよりも前はどうだったか互に搾取したい守りたい勝ちたいと色んな願いと思いが混沌とし混じった戦争という争い。それは人だけでなく神々も行った。それによってダムが決壊、いやビックバンのように溢れた全ての負がその真っ黒な世界に落ちていった。
そんなものが落ち行く世界と器も耐え切れず破裂しそうになる。もしそんなものが破裂するとどうなるか分からない。
そこでニエンテは前々から≪黒≫に興味を持っており話をしようとする。だがその≪黒≫には言葉を発せず意思すらもない。そこでニエンテはそれに言葉と意思を与えた。
ニエンテは破裂しそうなその≪黒≫と話、色んな提案をしあう。どうすればよいかと。すぐに浮かびあがったのはその負を消し去ることだった。それを思いつきニエンテが力を与えられないかとした。だが力を与えることはできなかった。ニエンテは≪黒≫を徹底的に調べ答えがでる。
≪黒≫にはすでにその力があったのだ。だが使えないそれはなぜか。その力は全てを消し去る力なのだ。選択などできず使えば最後全てが消える。その力の元はこの世界に落ちてくる負である。«黒»の力とは負である。
ニエンテにとってそれはそれで面白いのだが観測している人間たちも消えるのは面白くない。と同時に思いつく一つの考え。それは今は何度目の世界ということだ。この二つの存在は完全な無から生まれた存在だ。つまり私達が産まれる前にも私達がそれとも私たちとは違う同じような存在がいたのではないか。
全てを知ることの出来るノクラの知識を使い調べたが自身の前については記されない。予測ではあるが«黒»の消し去る力とは記録や存在そのものが無かったように消える。
このままではループを繰り返すだけではと困ったニエンテはあることを思い出す。魔物だ。魔物とはその世界の負が形となったものである。つまりこの世界にもそのシステムを組み込めばいいのではないかと。負から生まれた魔物達は常にその負に苦しめられるがその者から負は生まれなかった。
ニエンテは«黒»とその世界に力を加える。それは成功し器からドロドロと負の塊が流れ落ちる。そして世界がまた広くなっていく。だいぶ流れたが、器の中は減るどころか増え続ける。
誤算が一つあったこの世界に落とされる負とは、一つの世界からだけでは無いのだ。
世界というのは数えきれない数があり、更にはその数に並行世界というものも存在する。並行世界一つの世界がいくつもに分岐し、収束したりを繰り返すものだ。世界の数とは単純な計算としてこんな形となる。
世界の数 ∞A×∞B×∞C
∞A(人や気候、現象、思考) ∞B(∞Aの分岐ありとあらゆる・パターン平行世界) ∞C(異世界)
これらから落ちくる感情全てが負の塊であり«黒»の力なのだ。
どうしようもない私は別の方法を考えた。«黒»を二つに分けると。一つは今と同じ負を溜め込みながら魔物を生み出していくもの。もう一つは人の姿、感情など全てを与え常に消し去る力を持たせる。人間の姿にするのはニエンテの趣味である。
そうして«黒»の力もあり負の溜まりの増えを減らすことが出来た。だがそれでも少しずつ増えている。打つ手はもう無く«黒»が抑えきれなくなったその時世界という全ての存在が消えてなくなるだろう。
«黒»と«白»は互いの存在を知った。
それは相反する存在。
«白»とは無から有を生み出す存在
«黒»とは有を無に消し還す存在
«黒»はニエンテから名を与えられた。
『有を無に還す存在 無還為ス者 ネイトーラ』
そしてネイトーラから生み出される負の怪物達は世界を滅ぼす者。それは邪神に在らず。ネイトーラの無還の時を待つもの達。それらは『無還の存在』と呼ばれた。
ニエンテとネイトーラは神に在らず。ニエンテは神に興味などなくネイトーラは神を憎み嫌っている。