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鈍の魔剣と錬金術師  作者: 茶菓
7/15

魔剣との出会い #1

 眩しい太陽、直射日光に照らされて、影を作る木も存在しない街道を二人で歩いていた。


 思えば昨日まで森の中でずっといたから、自然の明るさというものからは随分と久しぶりのように感じる。しかし普段から引きこもりがちだった自分にとって、それは余りにも過酷な環境だった。


「えー……こんなに何もない道ある?」


 ファンタジーの街道というのは、得てして道の周りは草原。一本の整備された道を馬車が通る……なんて光景が一般的。実際に自分が歩いているこの道もそのような作りなのだ。転生したことをつくづく実感する。

 しかし、ゲームの中のキャラ達はすいすいとこの道を通り、汗一つかかずに街から街へと渡り歩いていた。それがここまで辛い事だとは……。

 体が強靭になったり、無限の魔力を引き出せたり……。転生モノにありがちの夢のような能力の一つでもあれば、もっと格好も付いたのだろうが、あいにく自分にはそういうものは一つもない。せいぜい化け物じみた強さの少女と、その少女がいないとてんで役に立たない鉄の棒が手元にあるだけ。


「はっは!この程度でへばったのか?なっとらんなぁカズヤは」


「うるせえ、俺はインドア派なんだ」


「インドア……というものが何かは分からんが、きっとカズヤは室内で籠りっきりで研究をしていたんじゃろ?儂にはよくわかるぞ」


 実にポジティブな捉え方をしてくれている。実際は部屋でゲームをしたりお菓子を食べたりしていただけなのだが。錬金術師と言うのはどうにも真面目な一族のようだ、室内にこもって研究など、大学時代ですらやったことはなかった。


 うだうだと話をしながら道を歩いていくと、町のようなものが見えてきた。開けたその場所の周りには木の杭と有刺鉄線のようなもので張り巡らされた簡易な防護柵。


「うわぁ……」


 正直、都会の町並みに見慣れた自分からすると、とんでもなく警備が薄い。自分ですら簡単に町の中に侵入することができそうなレベルのチープなものだった。


「なぁアル」


「なんじゃ?しかしようやく町にたどり着いたのお、長い道のりであった」


「いやそうじゃなくてさ。この辺って昨日のイノシシとかみたいなワケわからんレベルの奴らがうようよしてるんだよな?」


「ん?あぁ、アレはあの森の中だけじゃよ。あんなのが街道にゴロゴロしていたら、商売なんかできんじゃろうに―――と言っても、儂も眠る前の知識だけじゃがな、わはは」


 けらけらと笑うアル。なるほど、あそこの森が異常だっただけで、他のところではそんなことはないということか。実際この町(というよりは集落という見た目ではあるが)に来るまでには、魔物という魔物も見る事はなかった。

 ―――冷静になると、そんな環境の中で生きてきた錬金術師の連中って化け物ぞろいじゃないのか。

 考えを逡巡させるが、想像するだけで現実味を失うので、俺は考える事をやめた。


「おいカズヤ、何をぼうっと突っ立っておる。町を見つけたなら、初めにすることは何より情報収集じゃ。儂が眠ってからどれだけの時間が経ち……今の時代がどのような時代なのか。儂らに分からない事を図るにはうってつけの機会じゃ」


 そういい、ずんずんと町の入口へと歩き出す。そんなアルに着いていくように、自分も歩みを進める。

 簡素な警備用の柵の間に見えたのは、これまた簡素な木の杭だった。これが門の代わりなのだろうか。どちらかと言えば、門というよりも今の時代で言う所の公園に車が入らないようにするための杭打ちでしかない。


「アル、お前が眠る前の時代も町とかってこんな風の……言っちゃなんだがこう、どうしようもない防護しかなかったのか」


「何を言うカズヤ、これほどまでに立派な柵があるモノか」


 アルさんの瞳にはきっと俺とは違う景色が見えているのかもしれない。少なくとも俺には誰でも入っていいよという優しい心を持った公園の柵にしか見えない。

 柵の向こうにはいくつかのあばら屋も見える。ボロといえば聞こえが悪いが。ファンタジーの世界観にありがちな藁づくりの家や木造の崩壊しかけの家。想像している以上に貧しい集落なのかもしれない。


「だってこれどう見てもその……」


「はぁ……カズヤ、お主は案外こう、魔力に対する感知がにぶちんというか、本当に錬金術士なのかと疑わしいレベルの感知能力じゃな」


「うっ……ん?でも魔力ってことはつまり……」


「だから立派と言っておるじゃろうに。ここまで立派な魔導防御柵は儂の眠っていた時代には存在せんかった。かっかっか、時代の進歩というのはすさまじいのう!」


 発言が相変わらず古臭いと言うかジジ臭い。本当に10歳かと疑いつつ、言われた柵をもう一度見るが。やはり普通の柵にしか見えない。過ごせば過ごすほど、なるほど自分がよっぽど才能がない事に気付かさせられる。

 ―――まぁそもそも、この時代の人間でも錬金術師でもないのだ。魔力なんかあるはずもないのだが。


「……お、おぉ、言われてみれば、す、すごい魔力だあ」


「むっ、そうじゃろ!カズヤにもわかるかこの魔力の純度が……美しいのう、この魔導柵を作った魔術師はとてつもない力を持っておおるな、芸術的ともとれる魔力の練り上げじゃ」


 全く分からん。プロが見ると違うのかもしれないが自分には公園の前の柵にしか見えん。とまぁそれはさておき、ではこのようなボロ集落に何故そんな凄まじい柵が用意されているのか……怪訝に思い少し中を見た時、違和感を感じた。


「……アル、この町ちょっと静かすぎないか?」


「ん?……まぁ、言われてみればそうじゃな、まだまだ日も高いというのに……」


町の中からは人の気配を感じず、物音ひとつ聞こえない。廃村となった可能性も考えられるが、そんな集落に果たしてそこまで力を込めた防御柵など用意することがあるのだろうか。


「なんか嫌な予感がするな……」


「……カズヤ、今の」


「へ?」


「じゃから、今感じたかと聞いておる」


 え、何急にセクハラ?とふざける余裕もなく、アルの表情が一気に険しくなった。何が起こっているのかは分からないが、きっと集落から何かしらの気配を感じたのだろう。


「錬金術の気配じゃ。まさかこんなに早く行きあたるとはな」


「……にしては、嬉しくなさそうだな」


「嬉しいものか。忘れもせん、この気配は……魔導戦争の時に使われ、いくつもの街を消した忌むべき魔剣の一本、魔剣ダーインスレイブじゃ」


 『魔剣』……以前にもアルから聞いたことがある話だ。剣というものは、そもそも属性の付与率が高い武器で、どんな属性でもなんとなく馴染む。適合率の高い属性であればあるほど、その剣は強力に、鋭さを持っていく。そうした異常な属性が付与された剣のことを、魔剣と呼ぶのだそうだ。


「なんだってこんなボロ集落に魔剣の気配なんか感じるんだよ」


「あ、カズヤ今おぬしボロと言ったな」


「あっ」


「……くくっ、ふふっ……っと、まぁよい。正直儂も思っていた。柵以外はな」


「やっぱりそうだったのか……」


「それはさておき、この集落の中から感じると言うのは正直儂にも、何故かと言われるとよく分からん……しかし、今の気配はまさに、ダーインスレイブが使われた証拠じゃ」


 コロコロと表情を変えるあたり、まだまだ10歳の子どもであることを実感させられるが、アルの言葉はひどく重く、苦しそうに発せられた。


「長い時間の過ぎたこの時代にまであの剣が残り続けている事も恐ろしいが……今あの剣の気配を感じたという事は、きっとこの集落に何かが起こった証拠と言わざるをえんじゃろうな」


「……ってことは、まぁ、中に入って確かめないとだよな」


「流石カズヤ、よくわかっておるわ。少しだけでも得た錬金術師の今を知ることができるチャンスじゃ、今ここを逃す手はあるまい」


 そう言いながらも、アルの表情はこわばり続けていた。魔導戦争の時代に使われていた魔剣のうちの一振りだ、トラウマの一つや二つだってきっとあるだろう。

 俺はアルの前に座って、アルの手を握る。何事かとこちらを見るアルに、俺は優しい表情で答える。


「アル、大丈夫だ。お前は俺が守るよ、もうあんな目に遭わせたりなんかしない」


「あんな目……?」


「っと、まぁいいだろそれは。大丈夫、俺が絶対守ってやるから。お前のじいさんがくれた剣と一緒に」


「……く、くくっ、しかしカズヤ、おぬしは儂が魔力を込めんと戦う事すら出来んではないか」


「うっ、そ、それはだな」


「……ありがと、カズヤ」


 ぱっと、少女らしい表情でアルは笑って見せた。緊張の糸がほぐれたかのように、手の震えも止まっていた。


「中で何があるか分からん、先に魔力を込めておく。カズヤ、頼んだぞ」


「……ああ、任せとけ」


 柵の結界にアルは懐から取り出した魔石を投げつける。魔石は緑色の閃光を放ちながら、貼られた結界をガラスが割れる時のように破壊する。割れる瞬間は、魔力がない自分にも結界の破片を見る事ができた。アル曰く、高密度の魔力は魔力の感知度が低くても見る事ができるという。


 アルと俺は、ダーインスレイブの使われた気配をたどって、町の中へと足を踏み出していった。


更新まで半年以上空いてしまった・・・( ^ω^)

モチベってすごいですね

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