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鈍の魔剣と錬金術師  作者: 茶菓
11/15

魔剣との出会い #5

『青年よ』


「……この、声は」


 声が聞こえて、カズヤは正面に向き直る。カズヤの視界には、宙に浮く魔剣の姿が映った。


「な、浮いて―――」


『貴様の誓約を言うがいい』


「誓約……?」


 あの時、初めて剣の力を使った時も、そういえばそのような事を言っていた気がする。しかし、もうそんな事はどうでもいい。目の前で少女が死んだのだ。守ると誓ったはずの少女が。


「……あいつを守るって誓った。この世界に来て、初めて出会ったのに、俺がどんな奴かも分からないのに助けてくれた、あの優しいあいつを守るって……でも……ッ」


『案ずるな青年。少女は生きている』


「なッ」


 そんな筈はない、とカズヤは考えた。確かに自分の目の前で少女の体は引き裂かれ、そしてあの巨躯に喰われたのだ。あの状態で生きているなど、あり得ない。


『我の力は、少女の死を否定する力。あの少女が運命づけられた死を迎えた時以外、あの少女が死んだという概念を捻じ曲げ、死ぬ前の世界に我の使い手と共に何度も、何度も戻ることができる。少女が死を回避できるその時まで』


「そんな……そんな力があったのか、お前には」


『しかし、我を使うは錬金術師のみ。貴様は錬金術師の資格すらないただの人間だ。ゆえに、誓え、我に、あの少女に。錬金術師の力の源である、誓約を立てよ』


「誓約―――」


 前にアルが死んでしまった時、確かに同じように誓約を告げた。しかし、前はもっと機械的で、こんなに人間らしい声ではなかった。つまり、魔剣が正しく目覚めたから、もう一回しっかり誓約をしろ、ということなのだろうか。カズヤは少し考えた後、魔剣を一直線に見つめる。


「……ツェット、だったな」


『その通り。我が名は魔剣ツェット』


「ツェット、お前に誓えば、俺はアルを守れるのか?一人きりで何もできない俺でも、アルを守るだけの力を身に付けられるのか?」


『それが、少女の死を否定するためならば、我は貴様に力を与えよう。あの少女を守り、死を否定する力を』


「……わかった。なら、誓う」


 カズヤは足に力を入れ、しっかりと立ち、魔剣を見つめ、そして叫ぶ。


「誓いの言葉は……『守護』。俺はあいつを守る。何があっても」


『守護……いい誓いだ青年。ならば、力を授けよう。川辺和也。貴様に少女を救うための力を』


 カズヤの元へと、ゆっくり魔剣が下りてくる。カズヤは柄をしっかりと握り、そして剣を振るう。禍々しい真っ黒な靄が剣から放たれる。暗く周りの見えない空間に、カズヤは魔剣を振りかざす。

 瞬間、空間を包んでいた暗い帳はひび割れ、そして音を立てて崩れる。目の前に広がっていたのは、アルの腕を掴み上げ、今にもへし折ろうとしている巨躯の姿だった。

 カズヤは言葉を放たず、魔剣を巨躯に向けて振る。その瞬間、一直線に巨躯に向かって真っ黒な剣閃が飛んでいく。

 剣閃は巨躯に直撃し、アルを掴んでいた腕を切り裂いた。


「なっ、アッ、がッ!?」


「カズヤ!!!」


 アルは嬉しそうにこちらを見つめ、叫ぶ。しかし巨躯はまだ諦めず、大剣を持ち上げアルへと振り下ろす。


「あ、あ……ッ」


 ぎゅっと目を瞑るアル。しかし、アルの体が引き裂かれることはなかった。目を開くと、そこには魔剣を握り、大剣を確かに受け止めるカズヤの姿があった。


「か、カズヤぁ……」


 今にも泣きだしそうな声で、アルはカズヤを呼んだ。カズヤは余裕そうな表情でアルを見ながら笑って見せた。


「ぷっ……アル、なんだよその顔。ぐしゃぐしゃじゃねえか」


「う、うるさい。さっきまで死にかけてたんじゃぞ……カズヤのアホ」


「はは、悪かったよ。でも、もう大丈夫だ」


「……うんっ」


「錬金術師……貴様、貴様何をした!貴様ァー!!!」


 巨躯は大剣と刀を何度も何度も振り下ろし、カズヤの魔剣へと叩き込んだ。不思議な感覚だ、さっきまで受け止めきれないほどの威力があった攻撃が、今や簡単に受け止める事が出来るほど弱く感じた。


「お前は強かったよ」


「何をッ」


「でも、そんだけだ。お前は何かを守ろうとしていないんだ」


「き、貴様、貴様―!」


 言葉も少なくなってきた。徐々に向こうにも焦りの色が見え始める。大剣と刀を同時にカズヤの魔剣に叩き込み、凄まじい衝撃音と共にカズヤの体は地面に沈む。

 勝った、と巨躯は思った。そして致命の一撃をカズヤへと向かい振るう―――。


「油断したな、デカブツ」


 激しい金属音と共に、両手に掴んでいたはずの大剣と刀が吹き飛ばされる。目の前には黒いオーラをまとった魔剣を握り、こちらを睨みつける錬金術師の姿。


「貴様、貴様……錬金術師ィ!!!!」


「アルを傷付けた罪だ、しっかりと償え」


 土煙が消えるまでのわずかな時間。ザンッと剣戟の音が響く。目を閉じていたアルが目を開き見た光景は、切り裂かれた巨躯が静かに地面に倒れこんだ姿だった。


「……ふぅっ」


「カズヤ、カズヤカズヤカズヤー!」


 アルは戦いが終わって武器を直したカズヤに飛び込んだ。カズヤは慌ててアルを抱きかかえるが、衝撃に耐えきれずそのまま倒れこんだ。


「うおぉわ!あ、アル!いきなり飛びついてく―――」


「カズヤぁ……よかった、よかったぁ……」


 ぐずぐずと鼻を鳴らして、涙を流す少女を見て、ふぅと苦笑いをした後、カズヤは静かにその少女の頭を撫でるのだった。


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