Ⅴ
友美が『違う』と言った。
俺は『やや』動揺していた事に、気が付いた。
思考回路がぶち切れていたらしいーー其れを懸命に繋いで、『違和感』を叩き出す。
なあ、友美サン、お前さ、最初に『会った』日、ちゃんと『コート』着てたよな?
持って無い訳じゃ無いコートを、何で今、着てないんだ? 『寒い』だろ?
鎌をかけてみる。『無いのか?』『コート』。『理由は?』
顔色だけで全て探るのは、無理だ。けれど、案外友美は、『判り』易かった。コートは『何処か』に、『失くし』たんだな?
『何処に?』だ。
嫌な予感、嫌、『悪い』感が、働いた。
『忘れ』たんじゃ無いーー多分『失くし』たんだ。取りに帰れない『場所』に、置いて来たんだろうーー多分な。
感が外れて欲しかった。
十中八九、当たってる。
何で最初の食事で、プロポーズしてるんだ俺? 馬鹿なのか?
何で今日、俺、其れを持ち帰って来てるんだ? 馬鹿なのか?
彼奴がもう『呆れ返って』俺を見てるんだけどさ、頼むから、誰でも良いから此の空気どうにかしてくれないか? 馬鹿なの、認めるからさ。
理不尽なんで、逆切れしておく。遠慮しないで甘やかして懐柔するコース選ぶわ。絆される様な彼奴では無いだろうけど。物で良いなら全部買ってやるよ。だから、『幸せ』位、自分で『手に』入れろ。
出来るだろ? 友美。今は少し『手負い』なだけだろ? だから、ゆっくり、『治せ』よ。
盾位には成ってやるから。俺を利用しとけ。今迄の『附け』だと思って。理不尽を跳ね返す『力』位には、為ってやれるからさ。お前の非力じゃ何とも闘えないだろうから。
なのにどうして。
『陽藍、フランスに行って来い』親父に言われたーー
『修業だと思って』ーー
『美術館のリレーフの続きを、造り上げて来い』と、
『最低でも3年だな、…………今度は……。』
『友美さんの事は、連れて行ったら良いだろう…………悪いとは思ってるよ。断れなかったんだ。俺だって行かせたい訳じゃ無いーーけど、私ではお前を、………………甘やかすからなあ。』どうしてもと。
そう言われて、親父に反論出来る訳が無いだろ。狡いな、父さんは。
なあ? 友美と出会って未だ、『三ヶ月』しか経って無いんだよ? なのに『三年』も離れるのか?
それって『理不尽』じゃあ無いのか?
悪かったな、どうせ俺は無力だよ。
精々『微力』だ。大差無いか?
けれど、悪足掻き位なら、出来る。往生際が悪いか? 別にいいさ、どうでも。
もう一度プロポーズした。『フランスへ行く事に為ったから、一緒に来てくれ』と。
嫌だと言われた。『無理』だと。
「……………言葉わからないもの」と。………………………………そんな理由かよ。
「じゃあ、待てるか?」と聞いた。最短で『戻る』からと。
俺の『母』の処で、『待って』いてくれと、『頼んだ』。結局、最後に説得したのは俺では無くて『母』だった。情けなくて悪かったな。知ってるよ。
婚姻だけ済ませて、慌ただしく日本を発った。何の因果なんだよ。前世か何かか?
勘弁してくれ。
『妻』に出来ただけ、『上出来』か? 他人では『守り』切れないからな。希薄な盾だが、気休めには成ってくれ。行き場が無くて迷子に為ってる彼奴のな。頼むから。
友美の『傷』は結構『深い』。多分、本人が思うよりも、ずっと。
彼奴は鈍くて気付かないんだ。『鈍い』振りをしないと生きられないレベルの『手負い』だから。
何でそんなぼろぼろに『為る』迄、自分を『放って』置いたんだ?
それとも。
『傷』が『治る』前に、次の『傷』が、来ちまうのか? ハイエナ共がーー『餌』を狙って。御前の清潔な香りに釣られて、誘い込まれた連中が、なあ?どれだけ在たんだ?
俺が『見付ける』前に。ーー
頼むから此れ以上傷付かないでくれ。無くなっちまうから。
願いは虚しくて、悪い感は当たる。
友美は居なくなった。逃げたのだ。母の処に、記入済みの『離婚届』置いて。
友美、其の紙切れな、御前の記入だけじゃ効力無いぞ?知らなかったのか?
見付けてやるから待ってろ。今度こそ、首洗っとけよ、『お嬢さん』?
負けっ放しで、逃してたまるか。ワン・ゲーム位、俺に勝たせろよ?
次会ったら手加減しない事を決めた。覚悟しとけって言ったろ? 上等だよ、あのやろう、嫌、『お嬢さん』だな。
無理矢理何度も帰国して、『根回し』した。友美が『行きそう』な『場所』に。元から数える『程』しか無いし。
『三月』と、『唯華』と、『紀香』にも頼む。友美は気付いて無かったが、アイツ等、『知り合い』だった。切っ掛けは、三月が言った『台詞』。彼奴と偶然会って飲んだ日に、気付いた。
三月と唯華達の話に、度々出て来てた『友チャン』て、彼奴かと。唯華と、紀香は『友』と呼んでいたからなあ。フルネームなんて、知らないしな。
其れから、『華月』家。唯華の親戚の家。俺の茶道と華道の師は、祖母の友人で有り、祖母の華の師匠でも有る『華月』のおばさんだ。其処が友美の『居候先』。成る程な。
華月のおばさまなら、姪っ子の友人の『面倒』位、悦んでみてくれる訳だよ。内弟子何人も住んでるし、あの家。華月は、茶道なんだけどな、おばさんは実家が『華道』なんだよ。
だから華道も茶道も俺の『師』な訳だ。ウチの祖母とは嫁ぐ前からの付き合いらしい。因みにウチの母も門下生だよ。おばさまのな。そういう訳だ。
ばたばたと渡仏したせいで、華月に挨拶行けなかった事が仇に為ったかーーが、逆に利用した。『おばさま』は態々抱き込まなくとも、味方だな。友美が幸せに成れるならと喜んで協力してくれたよ。色々と。
当たり前だけど、横浜の義樹さんもな。友美サン、申し訳無いが、『袋の鼠』だぜ?
下手に刺激しないで、『見守って』もらった。俺の『帰国』迄。後は最短で、『仕事』仕上げる『だけ』だと。
勿論『最高の』仕事、してやるよ。妥協は俺の『趣味』じゃあ無いからな。やるなら『完璧』にーーだ。後に、『誇れる』様に。
其れが『仕事』だろ?
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「『ただいま』友美。『おかえりなさい』は? どうした?」
そう言った友美は、困った様に言った。「どうして『居る』の?」と。
「『旦那』だからだろ? 忘れちまったか? 久し振りだから。」
ひどい『女』だね、本当。お前の欠点は其の『優し過ぎる』所だと俺は思うよ。
もうそろそろ俺を『信用』しろよ? 見捨てる訳無いだろ。 惚れた弱味って言うだろ?
今や俺の弱点『おまえ』だからな? 覚悟しろよ?
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