75 魅惑のパジャマパーティー かーらーの 仮面舞踏会(1)
今日は三期に一度のお楽しみ、パジャマパーティーの日。
お友達だけじゃなく、普段お世話になっている侍女やメイドもご招待して、女の子だけでパジャマ姿で夜通し美味しい物を食べながら過ごす。
この日ばかりは無礼講。
最初は使用人から『畏れ多い!』と拒絶が凄かったけど、身分が高いのは私とヴィヴィ(元王女)とクラリスちゃん(元平民)と時々ダリア嬢(公爵令嬢。今日は欠席)なので、畏まる必要はないと話していく内に、だんだん慣れてきたようだ。
否、慣れ過ぎた。
……どうしてこうなった……。
「あたしの好きな人は、幼馴染の腐れ縁の同い年の男です。経験人数は五人くらい? 初体験はー……十三歳の時に森の中で、その幼馴染とですね」
「わたしも初体験は十三歳です! このお屋敷の馬番のサムと。馬小屋で。経験人数は二十人は越えてますかね。今好きな人はリディア様です。あの肉体美がたまりませんよね」
「わたしも! リディア様が好きです! 背が高くてカッコよくて憧れです。一度でいいから抱かれたいです。えーと、初体験は、十八歳年上の騎士様と十歳の時に。経験人数は覚えてません。多すぎて」
はぁーーーーッ!?
じゅ、じゅっさい!? 十八歳年上だと!?
そのクソロリコン犯罪者騎士、探し出して社会的に抹殺決定じゃーー!!
私は表面上は笑顔を作りながら、心の中でダラダラと脂汗をかいていた。
ダメよ。ダメ! 絶対! 貴女たち。いくらここが十八禁乙女ゲームの世界だからって、そんな若くして男に身を委ねるなんてッ! 前世ならそいつら全員犯罪者なんだから!!
ちょっと前までのパジャマパーティーは、こんな女子高生の暴露大会みたいではなかった。もっと健全だった。『庭のお花が咲いた~』とか『森に可愛い梟の赤ちゃんが~』とか『街のお祭りに行って~』とか、微笑ましいものだった。
クラリスちゃんが十六歳の誕生日を迎えて【迷鳥】が始まった途端にこれとは……。先が思いやられます。
つーか、ここに処女は居ないのか!?
確かに皆は、私より年上だけど、経験年齢が低過ぎではないでしょうか?
この私、アリス・ローズ・シャーリンは前世から数えれば三十六年間、未だ処女。
私は普通だ! ……と主張したいが、この世界では私みたいな奴の方が異常なのである。
いやでも待って。私にはまだクラリスちゃんという味方が居るわ。この八年間一緒に居るけど、男の影はなかった。
ダリア嬢はあのエロ第二王子がすでに手を出してしまったことは知っている。
ヴィヴィも、片想いしていた守護騎士は見つからないが、兄同様、ログワーズの女性も性に奔放で恋多き女だということを知っている。
でも、クラリスちゃんは違う。私の天使、永遠のヒロイン。彼女は絶対に私を裏切らない! 間違いなく処女だ。
それにしても、さっきから“好きな人”にリドの名前ばかり出てくる……。
罪な男よね……。
確かにリドは昔の美少女だった面影など微塵もなくなり、前世で言えば“マフィア”みたいな迫力満点イケメンになってしまった。
そう、“魔王様といえばこんな感じ!” を体現しているかのような。
皆、悪い男に惹かれるのよね。しかも、そんな風貌で口も悪くて鋭い目付きで見下してくる感じなのに、危ない時には駆けつけてくれたり、さり気なく重い物持ってくれたり、小動物を可愛がったりして……ギャップ萌が酷い。
そうなのよ。イイ男なのよ。
前髪を掻き上げる仕草とか、風呂上りの前開きシャツから見える程よい筋肉がついた胸板とか、フェロモン撒き散らし過ぎて私が何度呼吸困難に陥ったかッ!
だから私だけじゃなくて、みんな『男見る目あるな』って思うわ。だって……凄くカッコイイもんね。みんなリドのこと好きになっちゃうよね。いや、断じて贔屓目ではないはず。
モヤモヤした気持ちで俯いていると、隣にいるクラリスちゃんの番になったので話を聞くために顔を上げた。恥ずかしそうにしているクラリスちゃんが微笑ましくて、私は目を細める。
「次はクラリスちゃんね。クラリスちゃんは好きな人はいるの?」
ずっと聞きたくて、なかなか聞けずにいた攻略対象とのラブロマンス。きっちり聞かせてもらいましょうか。
さあ! 誰なの? クラリスちゃんのハートを射止めたラッキーボーイは?
やっぱり大本命のジークフリート陛下? それともアルフレッド? ……は嫌だなぁ。生理的に。セクハラ脚フェチ野郎はダメだ。ムダ筋? ……は問題外。ムダ筋にクラリスちゃんはもったいない。ムダ筋ごときはプロテインとでも結婚すればいい。エル様はダリア嬢のだし、ユリウスは……エロ腹黒二重人格者で王太后様の隠し子とか、訳あり過ぎてオススメできない。……まずいですわね。碌なのがいませんわ。仕方ない……ここは、会ったことないジークフリート陛下一択ということで。……いや待てよ。そういえば陛下も王族の血を継いでないという曰く付きだった!
何この乙女ゲーム……。誰を選んでも壊滅的なんて、クソゲー過ぎる。皆顔だけは最高にイケてるんだけどねぇ。残念イケメン甚だしい。
私は深い溜め息を吐いてクラリスちゃんを見た。
クラリスちゃんはチラリと私を見た後、モジモジと膝の上で動かす指先に視線を落とす。
「わ、わたしがお慕いしているのは……」
うんうん!
「シ、シャーリン公爵様ですっ!」
うんうん! ……ッうん?
え? え? えーーーーッ!?
な、なんて!? 今なんて!?
「シャ……て……」
「はい! アリス様のお父様のオズワルド・ガイル・シャーリン公爵様ですー!」
そこーーーーーーッ!?
そこいったのォーーーー!? ノォーーーー!?
「そ、そこぉ……いえ、何故ですの!? 何故にお父様ですの!?」
私は思わず、声を裏返して真顔でクラリスちゃんに迫ってしまった。
お父様!? え? 聞き間違い!?
クラリスちゃんだったら、あんな金髪オカッパ猟奇的性格異常美少年愛好者を選ばなくても、もっといい物件いっぱいいるのに!?
「……冗談……?」
「冗談ではありません。本気です!」
「本気なの? あれ……じゃなくてお父様のどこが良いの? 確かに顔はいいけどオカッパだし、若く見えるけど実は結構オジサンよ?」
「……歳が離れているのはわかっています。でも好きなんです……。初めてこのお屋敷に来た日に公爵様から『君が庶民なのに光の魔力を持つ女の子だね』と声を掛けられて、その日から度々お声を掛けていただいていまして」
「嘘ッ!?」
お父様がクラリスちゃんに声を!?
女の子だから大丈夫かな? と思いつつも、お父様に実験台にされないように常にクラリスちゃんとヴィヴィの周辺には目を光らせていたつもりだったのに、私の目を盗んでちょこちょこ様子を伺っていたってこと?
……さすがお父様……やっぱり侮れない……。
「気にかけていただいてるなぁって、最初はそれだけだったんですけど……」
それは、ただ単に珍しい光の魔力を持つ貴女を実験台にするチャンスを伺っていたのよ! 恐るべし! 悪魔!
「時々、何か企んだような歪んだ笑顔をなさるんですけど、それがアリス様の企んだ時の微笑みにそっくりなことに気づきまして……そうしたら、もう気になって気になって……」
ん?
「ちょっと待って。えーと、それは……歪んだ笑顔が私に似てるから好きになったっていうこと? ヤバイ笑顔なのに?」
「はい! そうです! 見れば見る程笑顔だけじゃなく細かい仕草とかがアリス様にそっくりで、そっくりな所を見つける度にドキドキして、公爵様がどんどん好きに!」
……え。ちょっとショックなんですけど。私、そんなにお父様に似てると思ってなかったんだけど。どちらかというと、お母様似だと思ってたんだけど。
「私そんなにお父様に似てないわよね?」
「いいえ! そっくりです! わたしが保証します!」
クラリスちゃんに拳を握り締めて力説されてしまい、私はちょっとブルーになった。
「……でもあの人、少年が好きなのよ。茨の道だと思うわ」
「寧ろ燃えますね! 一度公爵様に好きな女性のタイプをお尋ねしたんですけど」
「したの!?」
「はい」
いつの間に!?
クラリスちゃんの方が、私なんかよりよっぽどお父様と会話してるんじゃないかしら!?
「そうしたら『女性は好きじゃない』とキッパリ言われました。特に『大きな胸が気持ち悪い』と。でもなんと、公爵様はわたしの胸を見て『君は真っ平らだから気持ち悪くないよ』とおっしゃってくださったんです!!」
「酷いセクハラ発言ね」
「せくはら? ……でもわたしにとっては一筋の希望の光です! わたしはいつか公爵様と結婚して“クラリス・リリー・シャーリン”になりたいと常々思っているので!!」
…………ん?
「クラリス・リリー!! なんて恐ろしい子! 姉様と家族になる気ね!」
ヴィヴィが声を荒らげてクラリスちゃんの方へ身を乗り出した。
「ええ。わたし、アリス様の“義母”になります。いつか」
「ずるいですわ! じゃあわたくしも公爵様と結婚いたします! “ヴィヴィアン・スカーレット・シャーリン”になりますわ!」
「……その大きな胸じゃ無理じゃないですか? それにヴィヴィアン様は“妹”になられる予定なのだからいいじゃありませんか」
「くうッ……! 巨乳が仇になるとは……ッ」
「わたしも生まれて初めて貧乳で良かったと神に感謝しました」
クラリスちゃんが私のお義母様に!? ……素敵ですけど、大切なクラリスちゃんをお父様に壊されたくないわ。この熱病、全力で阻止しなくてはッ!!
「話がどんどんずれてますけど、クラリス様の初体験はいつだったんですか?」
メイドの一人が軌道修正しました。それを私たちに聞くの? もう、好きな人発表だけで充分じゃない?
「すみません。初体験ですよね。えーと、初めてはムダ……ではなくて義兄の所属している騎士団の副団長さんです。最近義兄のガイともしたので“蒼龍の騎士団”は全員コンプリートしました~」
……は?
「えーー! ガイ様とぉ!?」
「羨ましいーー! あの肉体美にわたしも抱かれたい!」
嘘……。クラリスちゃんが非処女……?
ブルータス……お前もか……。
いやいや! いやいやいやいや!!
騎士団全員相手したとか、ありえないから!!
メイドたちの黄色い声に、クラリスちゃんは苦笑して答えた。
「いえいえ。そんな良くなかったですよ。思った通り力技でガツガツ突いてきてガサツで痛いだけ。とっても下手でした」
「クラリスちゃんッ!!!」
私は堪らずクラリスちゃんの両肩を掴むと、彼女はきょとんとした顔で私を見上げた。
「アリス様?」
私は先程よりも鬼気迫る勢いでクラリスちゃんに質問を浴びせる。
「まさか……騎士団の連中に無理矢理……やられたんじゃないでしょうね?」
「え? 違います違います! 皆さんわたしからお誘いしてます。たまに頼まれて複数プレイもありましたけど」
「複……ッ!? クラリスちゃんはお父様が好きなのよね?」
「ええ。万が一にでも公爵様にお相手いただけるチャンスがあれば逃したくないので、スキルアップしたくて」
「スキルアップ!? で、でもムダ筋のことあんまり好きじゃなかったでしょ? やっぱり無理矢理……」
「違いますよ~。義兄もわたしから誘ったんです。最近しきりに義兄が『このままだと男を犯してしまう。男だとわかっていても可愛くて仕方ない。もう理性の限界だ』とか危ないことを言ってたので、女の良さを思い出してもらいたくて」
ムダ筋、最低だな。
まさかあのムダ筋に男色のけがあったとは……。
「でもクラリスちゃんが犠牲になる必要はなかったでしょぉぉーー!」
「いえ。ヤッてからは御しやすくなったので、トントンです」
「トントン…………」
なんてことなのぉーー!!
クラリスちゃんが私の知らない間に【迷鳥】の攻略対象の一人を攻略していたなんてーー!!
そして…………もしかして、もしかしなくても“処女”が私一人なんてぇーー!!!
クラリスちゃんの裏切り者ぉーー!!
クラリスちゃんの数発の爆弾投下により、私のメンタルがズタボロにされたまま、私の番が回ってきてしまった。




