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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第四章 アダルトに突入です
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73 天使とラブソングを(7)※リド目線




 メイドカフェを訪れてから数日が経った。


 結局俺は執事カフェとやらで働くことはなかった。アリスに「嫌だ」と言われたからだ。もしかしたら、執事カフェで働く俺を想像して、アリスも少し妬いてくれたんじゃねえか……と、俺は少々期待した。

 交換条件として、アリスがあのメイドカフェで働くのを辞めてもらった。「なぜ?」と聞かれたから「理由はてめえと同じだ」と答えたら、アリスが赤面したのもそれを助長した。

 俺は少し浮かれていたかもしれない。

 アリスに対する気持ちを認めて、相思相愛になったとでも勘違いしていた。

 血相変えたヴィヴィが、俺の部屋に飛び込んで来るまでは。


「兄様のバカァーー!!!」


「は? 藪から棒になんだ? お前は」


 確か昨夜は、アリスが屋敷の女やクラリスを招待して『パジャマパーティー』なる、女だけの宴を催していた。ヴィヴィもそれに参加できると浮かれていたはずだ。


「兄様が愚図愚図しているから、あのクソ野郎に横からカッ攫われるんですわーー!!」

「何の話だ?」


 訳が分からず片眉を上げる。わかっていたことだが、我が妹ながら口が汚い。


「あの卑怯者の蚤野郎が、わたくしの姉様を……ッ」

「アリスがどうかしたのか!? “蚤野郎”ってトーリの事だよな?」


 ヴィヴィが時々トーリのことを『蚤野郎』と呼んでいるのは知っている。蚤の様にヘタレだからだそうだ。

 ヴィヴィは嫌悪に顔を歪ませて、舌打ちした。


「トーリだかジークフリートだか知りませんが、名乗りもできないクソゴミ蛆虫野郎の分際で、わたくしの姉様の純潔を散らしやがりましたのよぉーーッ!!!」

「………………あ?」


 言葉が上手く飲み込めない。

 ……今、ヴィヴィは……ジークフリートが、アリスの純潔を散らした……と、言ったのか?


「……嘘だろ」

「嘘であって欲しかったですけどぉーー! 昨夜姉様の口からお聞きしましたぁー!! わたくしの姉様が穢されたッ! 許すまじジークフリート王……ッ!!」

「アリスがそう言ったのか……?」

「たまにトーリと二人で出掛ける事があったのは存じていましたけど、それがまさか逢瀬の時間だったなんて……ッ! 知っていたら邪魔してやったのにぃぃ~~ッ!!」


 ヴィヴィがギリギリと歯軋りする横で、俺は呆然と立ち尽くしていた。

 俺のことが好きだと、淋しそうにはにかんでみせたのはもう何年も前のことだ。心変わりするには十分な時間だ。

 なのに何故か……俺は理不尽にも裏切られたような気持ちになっている。

 八年間ずっと隣に居て、男の影など微塵も感じなかった。俺がアリスに近付く男を無意識に排除していたからかもしれないが……。俺はそれを、アリスが俺の記憶が戻るのを待ってくれているのかと、勝手に勘違いしていた。


「……自覚するのが……遅過ぎだ……俺は馬鹿か……」


 どうしようもない喪失感に襲われ、最悪な考えに囚われる。

 いつからだ?

 いつから二人はそうなった?


「……いつからだ?」

「姉様の話では、蚤野郎が滅多にシャーリン邸に来られなくなった頃みたいでしたわ。多分、王位を継いだ辺り……?」


 考えたくないが……アリスは権力を増大させることにこだわっていた。

 突拍子もない改革をしてみたり、事業を拡大していったり。アリスの提案した事業はことごとく当たり、シャーリン領は治安も良くなり、生活も豊かになった。

 更なる発展を望んでいてもおかしくない。


「……なるほどな」


 つまり、ジークフリートが『王』になったからか?

 ……だから、抱かれたのか?

 

 アリスは気付いていたのだろうか? トーリがジークフリートだということに。

 俺のことも、元ログワーズ王国の王位継承者だから……権力者だから『好き』だと言ったのか?


 アリスがそんな女じゃないと、わかっていても考えるのを止められない。

 そんな女じゃないから、俺はアリスに惚れたのに。


 そうだ、俺など亡国の忘れられた()王子だ。

 権力どころか金も身分も何もない。

 なのに……厭な考えが止まらない。


 ……これが、()()か。


 ザワザワと厭な思考に囚われ、ドス黒いモノが足元を這い回って身動きが取れない。


「次にクソ蛆虫が目の前に現れたら……毒殺してくれるわ……」

「……その前に一発殴らせろ」

「兄様が殴ったら死んでしまうでしょう!? ダメです。息の根を止めるのは、わたくしが先です」


 物騒な会話をしながら、俺は昨日の穏やかな午後を思い出していた。

 二人で肩を寄せ合って歌った愛の歌を。

 あの時……想いが重なった気がしたのは、俺の思い違いだったのか?


「……とんだ茶番だったな……」


 まるで握り締めた砂のように、宝物のような彼女との思い出や彼女への想いが、指の間からサラサラと零れ落ちていってーーーー。


 掌には欠片(カケラ)も残らなかった。



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