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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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6 婚約されてしまいました(1)

 前世の記憶が戻ってから、二週間が過ぎた。

 記憶が戻ったあの日から、私なりに、この世界で生きて行く為の努力をいろいろとしている。

 まずは勉強。ここのところ我が家の書庫に通って缶詰になるのが私の日課だ。

 “魔王”の事も勿論調べた。我が国の歴史書にガッツリと(したた)められていた。これをスルーできていたアリスってどんだけなの?

 最後に魔王が現れたのは四百年前。やはり当時のログワーズ王国の第2王子が金と赤のオッドアイで、魔王に覚醒して世界を恐慌に(おとしい)れたらしい。シュナイダー家には稀に金と赤のオッドアイの子どもが生まれる事があり、その子どもは闇と火の属性を合わせ持つ、途轍もなく強い魔力を備えているという事だ。

 そして現在の事も調べてみると、ログワーズ王国の王子であったリディアが、魔王と同じオッドアイであるという事を知る者は極限られているのか、そういった事実は知れ渡っていない事がわかった。

 そんな中で、それを知っていたお父様はやっぱり計り知れない。



 だが今は……そんな事()()()()()()のです。



 そう……どうでもいいと思えるくらいの出来事が起こり、私の頭の中は完全にパニックに陥っていた。


 なんとお父様が、書庫から出てきた私を()()()()待ち受けていたのだ。私の顔を見つめて穏やかに微笑むお父様の笑顔に、私はとても嫌な予感しかしなかった。

 そしてそれは見事に的中した。


「姫の婚約を決めてきたから」


「…………え?」



 ()()()()()()()()



 身体中の汗腺という汗腺からブワッと一斉に嫌な汗が噴き出し、ガクガクと身体が震える。


「ま、ま、ま、ま、まさかお父様……!」


「そうだよ。喜んで姫! 姫がずっと待ち望んでいた婚約だよ! 僕もこれで野望(ゆめ)に一歩近付く!」


 上機嫌なお父様の横で、血の気が引いて真っ青になっていく娘の私。

 聞くまでもなかった。聞くまでもなかったが……。


「……お父様……お相手は……やはり……」


「うん。勿論! ジークフリート・ハイネ・ネーデルラント王太子」






 ーーーー刹那、私の脳裏に蘇った映像。


 王宮の大広間……見上げる程高い段の上の玉座の前で、怯えるクラリスちゃんを腕に抱きながら、アリスを卑下したような冷酷な碧眼で見下ろしてくる、目映い金髪のジークフリート王子。

 自分の事は棚に上げてクラリスに糾弾する、焦燥しきった顔のアリス。


『この泥棒猫が! ジーク様から今すぐ離れなさい!』


『見苦しいぞ、アリス』


『ジーク様何故ですの? そんな男爵令嬢を庇うなんて! 私の方が、貴方を何倍も愛していますのに!』


『お前が愛しているのは私ではなく、王妃の座だろう? 私は真実の愛を手に入れた。お前は今までの悪事を悔い改めるがいい。……アスカルタ島に流刑にする』


『……そ、そんなバカな……その女が……その女さえ居なければ……ッ!』


 隠し持っていたナイフを翳し、急勾配の階段を駆け上がりクラリスに襲いかかるアリス。ジークフリート王子は溜め息を吐くと、抜刀した。


『やはりお前は頭の悪い女だ……』


 ザシュッ……


 鮮血が舞い散り、背中を一刀両断されたアリスは、その場に崩れ落ちる。そんなアリスに駆け寄り、クラリスは必死に癒しの魔法をかけるが、あらゆる魔法を跳ね返してしまうアリスには効かず……。

 アリスは呪いの言葉を吐き出しながら、とうとうこと切れたのだった。





「いやああああぁぁぁぁーー!!」


 走馬灯? 走馬灯なのこれ?

 私としたことが、断末魔のような悲鳴を上げて、白眼むいて白昼夢を見てましたわ。かろうじてブッ倒れなかった自分を褒めてあげたい。

 思い出したそれは、乙女ゲーム【迷鳥】の、王太子ルート悪役令嬢断罪イベントのクライマックスだった。まずいですわ。非常にまずいですわ。

 回避したい、回避したいと思っていても、死亡フラグが向こうからやってくるなんて!


「嫌です! 私、ジークフリート王子とは結婚いたしません!」


 私は思わず、半狂乱で叫んでしまった。


「は? 姫、どうしたの? この前話した時はめちゃめちゃ乗り気だったじゃないか」


「事情が変わったのですわ。お父様、お断りする事はできませんの?」


 私が縋るような目でお父様を見つめると、お父様は「うーん……」と、顎に手を当てて考え始めた。


「……そんなに嫌なら、姫には()()()飲んで貰おうかなぁ……」


「……え?……薬……?」


「うん。それ飲めば、姫はこの先ずーっと、死ぬまでお花畑にいるような心地でいられるんだよ」


 お父様は極上の笑顔を見せるが、目は決して笑っていなかった。その冷ややかな笑顔が、私の背に悪寒を走らせる。


 それって……つまり、廃人になるって事ですわよね?お父様の傀儡人形に成り下がるって事ですわよねぇーー?

 こ、この腐れ外道がーー! 鬼ぃ! 悪魔ぁ!

 実の娘すらも己の野望の道具に過ぎないってかぁーー!


「どちらにしても、これは決定事項だから、覆すことはできないよ。……できれば僕は、姫に薬なんて使いたくないなぁ。アレ、常用しないと物凄く苦しいみたいなんだよねぇ」


 行くも地獄、戻るも地獄ですか……。




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