66 謎とドレスと秘密の大暴露(4)
ユリウスを連れてシャーリンの屋敷に戻ると、アルフレッドから一人で自室に来て欲しいという申し出があった。
もうすでに日が落ちて、薄暗くなっている。……ユリウスを連れて来るのに一日使ってしまった……。
アルフレッドの部屋に向かおうとすると、何故かリドに『行くな』とえらく止められたが、伝言の“緊急に”という言葉に、私は話の重要性を感じて、リドの制止を振り切った。
リドからは、『どうなっても知らねえからな』と言われたけれど、何のことやら。
アルフレッドの自室に招き入れられると、奥のベッドに座るように促される。
久しぶりに入ったアルフレッドの部屋は何年も経っているのに変わっていなかった。
ダンテ元国王様も正常な状態に戻り、ジークフリート様が王位を継承した後も、アルフレッドは変わらずシャーリン家の家令として務めてくれている。彼が居るから私も好き勝手出来るところもある。とても頼り甲斐があり、私にとって、なくてはならない有り難い存在だ。
「どうしました? アルフレッド。何か問題でも?」
「いえ、アリス様……実は、私そろそろお暇をいただこうかと思っております」
「え……? な、何故?」
「最初のうちは、シャーリン家の陰謀を暴く目的でオズワルド様に仕えておりましたが、途中からはオズワルド様ではなく、アリス様にお仕えしている気持ちでやって参りました。ユリウス様という跡取りを得て、アリス様が王家に嫁がれる今、シャーリン家に居る意味はないかと」
突然の宣言に、頭の中が真っ白になる。
「で、でも、まだ傍で私を支えて欲しいです」
「大丈夫です。リディアに私の全てを叩き込んでおりますので、立派に貴方を支えていけると思います」
「で、でも……」
アルフレッドとの思い出が、後から後から蘇ってきて、私は涙目で目の前に立つアルフレッドを見上げた。
一緒に演劇をして笑い合ったのはつい最近のことなのに、急に遠い日の思い出になってしまったような心持ちになる。
「アルフレッド……」
アルフレッドの決意は固そうだ。彼を引き留めることは出来なさそうだと判断する。
「今まで本当にありがとう、アルフレッド」
「フッ……アリス様は、最後まで“アル”とは呼んでくださらなかったですね」
アルフレッドは私の前に片膝をついて跪いた。
貴方も最後まで眼鏡をかけてくれなかったわね。見たかったなぁ……イケメン眼鏡執事。
私が感慨に浸っていると、突然アルフレッドは跪いたまま私に近付き、ドレスの下の足首に触れた。
私はビクリと身体を強ばらせる。
「な、何?」
「……それでですね……そろそろお約束していたモノを頂こうと思いまして」
そう言うが早いか、アルフレッドは私の足首を掴んで私をベッドに押し倒した。片脚を持ち上げられ、ドレスが捲り上がって太ももまでが露になってしまう。
「ち、ちょっ……!? ヤダッ!! 離して!! 何するの!? “約束”って何!?」
「お忘れとは酷いですね。八年前、交わしたでしょう? 貴女に仕える代わりに貴女の脚を自由にすると」
「へっ?」
露になった太ももに、アルフレッドが舌を這わせた。ゾゾゾ……と、背筋に悪寒が走る。
それと共に、幼き頃に交わした約束が脳裏に蘇った。
「ヤッ! ヤダッ! 何で!? 今までこんな事しなかったじゃない!!」
「警戒されて逃げられたら困りますからね。下心に気付かれないよう慎重にやってたんですよ。……本当はこうやって触れたくて触れたくて仕方なかった」
脚を振り上げようとするも、男の強い力で押さえつけられ、アルフレッドはビクともしなかった。
嘘、嘘、嘘ぉーーーー!! ヤバイッ!!
「最初は貴女の脚にしか興味がなかったが……貴女のそんな顔……たまりませんね。脚以外のところも……全てが欲しくなる」
「ちょっと待って! 私まだ約束の十六歳じゃないけど?」
「あと一か月程でお誕生日ですよね? 十六歳になったら王太子と婚姻を結ばれるでしょう? そうなるともう貴女に手が届かなくなってしまう」
「でもでも、私の脚、“労働を全く知らない脚”じゃないでしょ? 武術もやっててガチガチだから、そそられないでしょう?」
「そうですね……」
アルフレッドは私にのしかかりながら、今まで見たことのないような優しい微笑みを浮かべた。
「こんな素敵な脚は見たことがありません。待って良かった……」
全然良くないですわーーーーッ!!!
「やめなさい!! アルフレッド!!」
「…………アリス様……」
「いや……ッあんっ」
脚を高々と上げられ、あられもない姿を晒している。アルフレッドに脚の付け根をきつく吸われて、変な声が出た。
「……ッたまらないッ!!」
ヒィーーーー!! なんか興奮させちゃったぁーー!?
私の変な声は、何故かアルフレッドを大いに興奮させてしまったようだ。アルフレッドの瞳に情欲が滲む。
「も、もう十分自由にしたでしょう!? 離してっ!」
「冗談でしょう。まだまだこれからですよ。……貴女から“欲しい”と懇願するまで、ドロドロにしてあげます」
嫌ですーーーーーーッ!!!
「もうダメ! 終わりですっ!! 終了ッ!!」
「………………」
アルフレッドは私の訴えを完全に無視して、ずり上がる私の身体を引き寄せ、脚の付け根に近い太ももを執拗に舐め続ける。
甘く焦れったい刺激に、身体の奥が疼いてしまう。私は戸惑いつつも、その未知の感覚に身を委ねてしまいそうで、怖かった。
「……どうしました? もう抵抗はやめたんですか? おかしいですね……触れてもいないのに、ショーツが濡れている」
「えっ?」
濡れてる!? ……嘘……。
ゴワゴワするからと、ドロワーズを着けなかった今朝の自分を呪いたい。
「や……んん……ふぅ……おねがい……やめて……もう……」
「はぁ……可愛い……アリス様…………ショーツを脱がしてもよろしいですか?」
「……あっ……ん……アルフレッド………」
「……アリス様……もう脱がしますよ……」
「……あ……ダメぇ…………駄目に決まってるでしょうがあぁぁーーーーッ!!」
ドゴォッ!! と、油断したアルフレッドの脳天に渾身の踵落としをぶち込んでやった。
「ぐほぉッ!!」
アルフレッドは変な声を出して、ベッドの上にうつ伏せで沈んだ。
「……アルフレッド……?」
返事がない。ただの屍のようだ。
今まで尽くしてくれたアルフレッドにここまでするつもりは無かったけれど、仕方ないわよね。自業自得よね。
安らかに眠れ……ッ!!
私は気絶したアルフレッドをそのままにして、身なりを整えながら慌てて部屋を飛び出した。
すると、部屋の目の前に立っていた、長身の男の人の胸の中に飛び込んでしまった。
「キャッ! ご、ごめんなさい……ってリド!?」
「…………おう」
アルフレッドの部屋の前に立っていたのはリドだった。私は何故かドキリッと、心臓が跳ねた。
「ど、ど、どうしたの?」
「いや……アルフレッドに何もされてねぇだろうな?」
「えっ!?」
思わず動揺で揺れた瞳をリドに向けてしまった。
その目で全てを察知してしまったリドは、「チッ」と苦々しく舌打ちして、アルフレッドの部屋のドアノブに手をかけた。
「だ、大丈夫! アルフレッドは伸びてるから!」
「あ? 伸びてる?」
「う、うん……私の踵落としを喰らって」
「かか……ッ!? そうか……」
リド……口元を掌で覆ってますけど、笑っているのが一目瞭然です。
全然笑い事で済むようなもんじゃなかったんですけど……。
リドに何してたか知られるのは嫌なので黙っておきます。
なんか……浮気したような……変な気持ち……。
リドは「お前の部屋まで送る」と、自室の前まで送ってくれた。
リドの優しさに、さっきまで緊張していた身体からやっと力が抜けた。
リドが優しい。
嬉しいけど、何でなのかな?
もしかして……記憶が戻った!?
……思い切って、記憶が戻ったのか聞いてみようかな。
自室の前に着く。リドの部屋も、昔から変わらず私の隣なのだけれど。
「ねぇ、リド。もしかして……記憶が戻ったの?」
「は? 記憶?」
「うん。呪術のせいで失くしちゃったでしょ? 魔剣撃ったこととか」
「あ? 魔剣? 魔剣ってなんだ?」
……違った。この反応は違った。
思い出してないな……これは。
「ううん。なんでもないの。送ってくれてありがとう」
私はリドにお礼を言って、自室に入った。
それにしても……。なんか変ですわ。
昨日のクローゼットから急に、ドキドキハプニング……つーか、エロいことが立て続けに身に降りかかってくる。
そう、ここが十八禁乙女ゲームの世界だと嫌でも思い起こさせられるようなことばかり起きている。
ふと、つい先日、クラリスちゃんが十六歳の誕生日を迎えたことを思い出した。
そうだわ。【迷鳥】は、主人公が十六歳の誕生日を迎えたところから始まっていた。
オープニング……男爵の屋敷で、誕生日パーティーの主役のはずの主人公が、馬小屋で馬番に立ったまま後ろから貫かれる……というシーンから始まる。
とても衝撃的なオープニングだったので、鮮明に覚えている。
もちろん先日のクラリスちゃんの誕生日パーティーは、ムダ筋の屋敷で、あたたかな雰囲気の中楽しく行われたので、【迷鳥】のオープニングの事など微塵も思い出さなかったのだが…………。
もしや、遂に【恋の迷宮、愛の鳥籠】が始まったのでは!?
……つまり、この世界でも“十八禁”が始まったということ!?
そういうことなのーーーーッ!?




