65 謎とドレスと秘密の大暴露(3)
リドの心配は杞憂で終わった。
何故なら、ユリウスが初っ端から本性を現したからである。私が名を名乗った途端、豹変したのだ。
「はぁ!? あんたシャーリン公爵の娘!?」
「はい。これから貴方をお父様の待つシャーリン邸に連れて行きます」
「あークソッ。下手打った」
「ユリウス?」
今までの、少し憂いを帯びたような表情から一転、ユリウスは座っていた椅子に浅く座り、ダンッと、前のテーブルに組んだ脚を乗せた。
その顔は悪役よろしく、口の端を片方だけ上げて、凶悪に歪んでいる。
「お人好しのお嬢様がボランティアで孤児院の子どもの為に演劇をやってるって聞いたから、どんな緩い甘やかされた女かと思ったのに……アンタ全然オズワルドに似てねーじゃん」
そういう貴方はお父様にそっくりですけどねーー!!!
その笑い方! 血の繋がった私より似てますわっ!!
ああーー。でも【迷鳥】のユリウスとは、また少し違うような……。ちょっとガラが悪い? 拗れ具合が解りやすいというか、真っ直ぐというか……拗れてるのに真っ直ぐって何だ? もしかして私の虐待が入っていないからかしら。毎日毎日やられる訳じゃなくて、お父様が別邸に行く時だけの期間限定だからかな?
「……なあ。僕のこと見逃してくれよ。お礼にさ……すっごく気持ちイイことしてあげるから」
そう言って、ユリウスは突然立ち上がって、ブラウスのボタンを外し始めた。
………………は? …………そっち!?
そっち方面ですか!?
ユリウスさん。そっち方面のキャラはもうジャンヌ姐さんでお腹いっぱいです。
「アンタ、可愛いよね。……いろんな男と寝てきたと思うけど、今までの男なんて霞んじゃうくらいの快楽を教えてあげるよ」
ここのところ、攻略対象者とか周りの男の人が割と紳士的に接してくれていたのですっかり忘れていましたが、そういえばここって、十八禁乙女ゲームの世界でしたっけ。
そうでした、そうでした。思い出させて下さってありがとうございます。
「結構ですわ。生憎とそういうのは間に合ってますの」
「そう言わずにさ……試してみてよ」
ユリウスは、シャツのボタンを全て外して上半身を露にすると、今度はトラウザーズのボタンに手をかける。
なるほど、なるほど。綺麗な細マッチョですね。十五歳にしては鍛えてます。私もこの八年でかなり鍛えてきましたけれども。
…………ちょっとヤバイかも。
「リド! ジャンヌ! ちょっと来てちょうだい!」
若干の身の危険を感じ、隣の部屋に待機させていた二人を呼び寄せると、直ぐに二人が部屋に飛び込んできた。
「ちょっと! 何なのこの小僧! なんでアタシのアリスちゃんの前で半裸になってんの!?」
「…………大丈夫か? 何もされてねぇか?」
リドがスッと隣に立ってくれただけで、私は安堵に包まれた。
ユリウスは一瞬目を瞠って怯んだような表情を見せたが、また直ぐに不敵な笑みを浮かべる。
メンタル強いけど、一瞬怯んじゃうところが、まだまだ若いですわね。
「……成程ね。確かに、僕なんてお呼びじゃないってわけか。でも僕、テクニックには自信あるよ。アレのデカさは敵わないかもしんないけど、そのお兄さんより満足させてあげるよ」
「ああん?」
リドのこめかみに、青筋を見た瞬間ーーーー。
ダンッ!! と、大きな音がして、テーブルに拳を叩きつけるリドが目に入った。同時に大理石のテーブルにヒビが入り、パキパキと音を立てたかと思うと、真っ二つに割れて崩れ落ちた。
う、う、嘘でしょうーーーー!?
ユリウスはサーッと血の気が引いたように顔色を真っ青にさせ、よろめいて後ろの椅子に力無く腰を下ろした。
リドはユリウスに見せつけるように私の肩を抱き寄せて、彼を見下ろす。
「俺が生きている間に、この女を抱けると思うなよ」
「そうよ! アリスちゃんに指一本でも触れたら、シャーリア海に沈めてやるから」
ユリウスを見下ろすリドとは別に、私は壊れたテーブルを見下ろしていた。
このテーブル……塩の交易で初めて利益が出た時に、ちょっと値ははったけど、石の模様が綺麗で目を奪われて、一点物だって言われて思い切って買った……思い出の…………。
テーブルとの出会いを思い出し、思わずボロリと目から涙が零れた。
「おい、どうした? ッッ!?」
私が泣いているのを見て、リドがギョッとした顔をしたが、涙はボロボロと流れて止まらない。
私は恨みがましい目でリドを見上げた。
「リドのバカぁ!」
「あ?」
「このテーブル、大事なテーブルだったのに!」
「ッ!? わ……悪ぃ」
「…………許せません……許せません……けど、許します……けど、もう無闇に物を破壊しないで下さい」
「……………はい」
リドが驚く程素直に返事をしてきたところを見ると、一応反省しているようだ。
仕方ない。水に流そう。
そんな私たちの遣り取りを見ていたユリウスが、突然プーッと吹き出して笑った。
「アハハッ! ……なんなの? アンタら。特にアンタ、アリス。百面相じゃん! 面白ぇー! クククッ! あー僕、アリスにならついてってもいーかも」
ユリウスさん。お気付きではないようですが、貴方も十分百面相してますよ。
「ふざけんな、クソガキ。こいつを呼び捨てにしてんじゃねぇ。アリスさんだろうが」
「いえ。私は貴方の義姉になるので、“お義姉様”と呼んで下さい。……ジャンヌ、例のものを持って来て下さる?」
「え? アリスちゃん、ほんとにやるの? 今のリディアのパフォーマンスだけで十分じゃない?」
「……ええ、確かにそうですけど。リドのせいで半減ですけど」
「…………悪ぃ」
ジャンヌは隣の部屋から厚い木の板を持ってきてくれた。そして、それを両手で持って、盾のように前に構える。
私は息を調えながら、精神統一する。
雑念を追い払うのよ、私。
テーブルのことは、今は考えない。今は考えない。
「ジャンヌ。いきますわよ」
私はドレスの裾を軽く持ち上げて、トントンとその場でジャンプする。
「ハッ!!」
気合いの声と共に高く飛び上がり、回転して勢いを付けた右足の踵を、木の板に叩きつけた。
所謂回し蹴りだ。
バキッ! という軽快な破裂音と共に、板は真っ二つに割れた。
……リドの大理石割りの後だと、全く大したものじゃない感が否めないです!
私、結構凄いと思うんですけど!!
ユリウスは、ポカンと口を開けて私を眺めていた後、また思い出したようにククク……と笑った。ここ、笑うとこじゃありませんよ!!
くぅー! リド、恨みます!
「私、こう見えて強いんで。私に手を出そうなんて考えたら、首の骨に回し蹴りお見舞いしますから。そのつもりで」
「凄いです。お義姉様! 蹴りであんな厚い板を割るなんて。尊敬しちゃいます! プッ……ククク……」
ユリウスは顔に、ちょっと企んでいるような笑顔を貼り付けた後、また面白そうに笑い出して、その双眸を崩した。
……やっぱり百面相だわ……。
ユリウスが義弟になるのは決定ですが、前途多難感が半端ないです。




