表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第四章 アダルトに突入です
60/88

59 僕、登場!(4)

 ドンッ!

 突然、黒い塊が後ろからぶつかってきて、私はよろけてしまった。だが、地面に手をつく寸前で、私の身体はエル様に助けられて抱きつく形で抱きかかえられた。


「アリス! 大丈夫?」


「エル様、ありがとうございます。私は大丈夫です」


 黒い塊と思われたモノの正体は、黒いマントで全身を覆った人間だった。多分男性。

 彼は私とは逆方向に吹っ飛ばされて、地面に尻餅をついていた。


「大丈夫ですか? ケガしませんでしたか?」


 そう言って、私が黒いマントの男に駆け寄って手を差し伸べると、男は起き上がって突然私の腰にしがみついてきた。


「ッ!? えッ!? ちょっ!?」


 驚いて彼を振り払おうとしたが、ガッチリと掴まれていて振り払えない。


「あの……離してくださらないかしら?」


「助けてくださいッ!!」


 黒いフードを目深に被ったその男の顔は口元しか見えないが、切羽詰ったような必死さだけは伝わってきた。


「ちょっとキミ。アリスに何するんだ!」


「そ、そうです! アリス様から離れてください!」


 エル様とクラリスちゃんが驚いた様子で、私から彼を遠ざけようと近寄ってきてくれたけれど、彼は抱きつく手を緩めなかった。

 だが、ぎゅうっと強く抱きつかれてはいるが、痛くはない。その腕から、彼が震えているのが伝わってくる。何かに怯えている?


「落ち着いて。いったいどうしたの?」


 ポンッと肩に手をおくと、彼はビクッと肩を震わせた。


「お、追われているんです……僕、殺される……ッ!!」


「えっ?」


 物騒な言葉が飛び出してきたので、もう少し詳しく聞き返そうとした時、遠くの方から二人組の男がキョロキョロしながらこちらの方に向かって来るのが目に入った。二人の話し声も聞こえてきた。


『おい、いたか?』

『いや。だがさっき確かにこっちの方に走って行ったぞ』


 あー……。

 間違いなく探されてるわね、彼。


 二人組の言語は、ギルメリア語だった。北方の小さな王国ギルメリアの公用語。透き通るような白い肌、銀色の髪は、確かにギルメリア人特有だ。


「一先ず中に入りましょう」


「えっ!?」


 私は彼をしっかり立たせると、手を繋いで劇場の中へと彼を引っ張っていった。

 エル様とクラリスちゃんも慌てて私の後を追ってきてくれる。

 劇場の中に入ったけれど、まだ安心できないわ。今、私たちの姿を見られたかしら?……さて彼をどこに隠すか……。

 黒いマントの男を劇場の舞台裏まで引きずるように連れてきて手を離すと、彼はハァ……と深い溜め息をついてその場にへたり込んでしまった。

 そんな彼を見下ろしながら、エル様も深い溜め息をついた。


「ほんとアリスって昔からお節介で、厄介ごとに首突っ込むのが好きだよね」


「それがアリス様の良いところです! エルヴィン様」


「いや、だって彼が悪い人だったらどうするんだ? 追ってる方が正義だったら?」


 うーん。そうなんですけど、彼は悪い人ではないと直感が告げてるのよね。


「彼は悪い人ではないと思います……多分」


「根拠は?」


「強いて言えば……勘?」


「なんで疑問形? ハハッ! それホント大丈夫?」


 エル様が“仕方ないなぁ”という顔をしつつ、面白そうに笑った。

 大丈夫……だと思う。

 私にしがみついてきた、その行為に()()は感じたけれど、()()は感じなかったのよね。

 だいたい、あんな目立つ往来で「助けて」としがみついてきた者を振り払ったり追い払ったりしたら、私の評判に関わるから一先ず建物の中に匿うであろうことは想定済みだったに違いない。

 更には私のこともリサーチ済みだった可能性が高い。ボランティアに力を入れている令嬢。万が一そのご令嬢が本当はただの偽善者で欺瞞に満ちた人物だったとしても、大勢の前では一応は取り繕うであろう……と。


 とにかく、追ってきた連中が中に入ってこないとも限らない。裏口から逃がしてもいいが……。


「大丈夫かどうか、私の勘が信用ならないなら、本人に直接尋ねてみてはいかが? 悪い人かどうか」


「なるほど。そうさせてもらうよ。明らかに怪しい人物だからね」


 そう言って、エル様は黒いマントの男に近付く。


「キミは何者? とりあえずそのフードを外して顔を見せてもらえるかな?」


 エル様のその言葉に、黒いマントの男はおずおずと立ち上がり、被っていたフードを脱いだ。


 フードの下から現れたのは、薄暗い舞台裏でもわかるような、輝く銀髪。

 その銀色の前髪が少し掛かった美しいすみれ色の双眸が、真っ直ぐに私を見据えた。


 し、知ってる……ッ!

 この配色! この顔!!

 ま、まさか……ッ!?

 間違いないですわ……ッ。だって、スチルのお顔、そのまんまですものッ!


「名乗らずにすみません。僕は……」

「ユリウス!!!」


「……え?」


 思わずその名を叫んでしまった。

 何故なら彼は、乙女ゲーム【迷鳥】の攻略対象者の一人、悪役令嬢アリスの義弟【ユリウス・ジュリアン・シャーリン】に瓜二つなのだから。


 あんなに探して見つからなかったのに、こんなところでひょっこり出会うなんてっ!!


「何故、僕の名を知っているのですか?」

「やっぱり!!」


「やっぱり?」


 ユリウスの顔をまじまじと見つめる。なるほど。銀色の髪に紫色(アメジスト)の瞳、透き通るような白い肌。ユリウスは紛れもなくギルメリア人の特徴を色濃く受け継いでいる。

 前世で【迷鳥】をプレイしている時は“ギルメリア”なんていう国は出てこなかったから、ユリウスがギルメリア人だという事までは考えが及ばなかったわ。

 ギルメリアの事だけでなく、転生してから周辺諸国のことを必死に勉強した。ログワーズ国を取り戻して国王になったリドの力になりたかったから。

 周辺諸国の言語は一通り話せる。魔王の存在も知らなかった勉強嫌いなアリスも、やればできる子(脳?)だったのだ。


 国内を探し回ってもユリウスの手掛かりすら見つからなかったのは、ギルメリアに居たからかしら?


 怪訝な顔をしていた私たちに代わり、今度はユリウスが怪訝な顔をする番だった。


「……僕の名前を知ってるって……アンタ何者?」


「私は……」


 ユリウスの問いに答えようとした時、突然劇場の入口の方から騒がしい声が聞こえてきて、私たちはそちらの方を振り返った。


『ここに入って行ったのを見た者がいるんだ!』

『すぐさま引渡してもらおう!』


 ギルメリア語でなにやら喚き散らしているけれど、ここに居る者でギルメリア語がわかるのは私とユリウスくらいじゃないかしら? どうやらとても頭の悪い追跡者のようです。

 ユリウスも二人組の言葉が聞こえたらしく、青ざめている。


「……ご迷惑をおかけして申し訳ありません。僕はすぐに立ち去ります。こちらに裏口のようなものはありますか?」


 彼がユリウスだと知って、ここで『はい、さようなら』というわけにはいきませんわ。


 どうして、こうなっちゃってるのかよくわからないけど。

 とにかく……!

 義弟(おとうと)は、私が、守る!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ