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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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5 どうやら転生してしまいました(5)

 侍女に清潔な布や新しい洋服を持ってきてもらい、私は彼の傷口やベットリと付着してしまった血を、濡らした布で綺麗にしていった。

 洋服を着替えさせるのは、流石に侍女達に手伝って貰う。それが終わってから、私が傷口に薬を塗ったり包帯を巻いてあげた。

 彼は朦朧としていて殆ど意識のない状態だったが、大人しくされるがままになっていた。

 暫くすると、彼は高熱を出した。

 酷い傷だったので予想はしていたが、魔法に頼りきっているこの世界で魔法が効かない身体とは、なんて不便なのだろう。


 乙女ゲームではアリスがそういう特殊な力を持っていたが、ゲーム中はあまりそういう事は考えなかった。

 ……まあ、クラリスちゃんの癒しの魔法が効かなくて、アリス死んじゃったんだけどね。


 だがしかし! 幸か不幸か、不幸中の幸いと言うべきか、我がシャーリン家は毒殺で栄えた一族。毒だけではなく解毒剤を作ったりもしているので、薬の知識は世界一ィーー! なのだ。つまりこの世界における薬のエキスパートと言っても過言ではない! 我が家の温室では様々な薬草を育てていて、それは毒にも薬にもなる。他では出回っていない珍しい薬草や、我が一族秘伝の薬草もある。


 だから、多少癒しの魔法が効かなくても心配ご無用だ。

 アリスも、勉強や教養はあまり好きじゃなかったが、薬の調合だけは大好きで、一通りの薬は作れる。


「ア……アリス様……差し出がましい事を言って大変恐縮なのですが、その奴隷の世話は私達にさせていただけないでしょうか。アリス様にそのような事をさせていると旦那様に知られたら、私達が叱られてしまいます」


 一番年配の侍女が、まるで腫れ物に触るようにオドオドとした態度で進言してきてくれた。


「ありがとうオリビア。全然気が付かなくてごめんなさい。……でも、彼がこうなってしまったのは私のせいだから、できる事は少しでも自分でやりたいのよ。お父様にはお咎めがないよう私から言っておくわね」


「……え? ……ありがとう……? ごめんなさい? ……名前? え……?」


 侍女のオリビアは、ポカーンと、まるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。

 そうね。私今まで侍女を一度も名前で呼んだ事なかったし、ましてやお礼や謝罪の言葉なんて言った事なかったものね。驚くわよね。


「それにね、彼は私の命の恩人なの。だから彼が元気になるまで傍に居るわ」


「命の恩人? ……ですか?」


「うん。そう」


 ニッコリと笑顔でそう言ってあげると、オリビアは何故だか頬を染めて「わかりました。何かありましたら、すぐに呼んで下さいね」と部屋から出て行ってくれた。


 私はベッドの傍らに椅子を持っていって座ると、ベッドに頬杖をついて彼の寝顔を覗き込んだ。鎮痛剤が効いているのか、穏やかな顔で眠っていて、少しホッとする。顔の腫れもだいぶ治まったようだ。

 スッと通った鼻梁に長い睫毛に縁取られた大きな瞳。このまま成長したら、彼は物凄いイケメンになるに違いない。

 彼の美しい顔立ちに見惚れていると、睫毛がふるりと揺れて、彼が目を覚ました。

 覗き込んでいた私と目が合うと、彼は眉間に皺を寄せ、怪訝な顔になってしまった。そして薄い唇が緩やかに動き掠れた声を紡いだ。


「……命の恩人とは……どういう意味だ?」


「え? 聞いてたの?」


 私が驚いたように聞くと、彼はバツが悪そうに顔を背けてしまった。ああ。そっぽ向いちゃった……残念! 私に向けてくれていた瞳が逸らされてしまい、なんとなく寂しく感じる。


「……アンタ……ずっと看病してくれてたのかよ?」


「うん。約束したからね。ずっと傍に居るって言ったでしょ?」


 私がニコニコと彼を見つめていると、彼は再びこちらに視線を向けてくれた。


「……アンタ、何ニヤニヤしてんだよ?」


「だって、最初“てめぇ”だったのに“お前”になって、今は“アンタ”になったから。なんだか嬉しくなっちゃって」


「……ッ!は、はあ?何言って……ッ」


「ふふ……私はアリス。アリス・ローズ・シャーリン。ここの人はアリス様って呼ぶけど、貴方はアリスでいいわ。命の恩人だから」


 私がニッコリ微笑むと、彼は肘をついて少し起き上がり「()ッつ……」と痛みで顔を顰めた。私は慌てて彼に寄り添う。


「大丈夫?無理しないで寝ていていいのよ?」


「うるせぇな。触んな」


 支えようと添えた私の手をパシッと払われてしまった。……そうよね。あんな事したんだもの。まだ心を開いてくれないよね。

 私がしゅんと項垂れると、彼は頭の後ろをガシガシと掻いた。


「あー……命の恩人とか意味わかんねぇが……そんなに俺に奉仕してぇなら、させてやってもいい」


 おお! なんて上から目線! さすが元王族様ですね。口悪いけど。

 ちょっと照れたようなその物言いに、私はまた気持ちが浮上してしまった。我ながら単純だなと思うが、自然に口元が綻んでしまう。ニマニマしているに違いない。


「私、貴方に謝らなくちゃと思っていたの。貴方の瞳があんまり綺麗だからって、スプーンでくり抜こうなんてしてしまってごめんなさい」


「……俺の目は珍しいらしいからな。大抵はこの目の所為で畏れられるか不気味がられる。……お前は怖がらないみたいだけどな」


 怖い?何でかしら?

 私が不思議顔で軽く首を傾げると、逆に彼の方が首を傾げた。


「アンタ……まさか知らないのか?有名だろ?金と赤の目は……魔王の目だ」


「……魔王?」


 彼の口から全く聞いた事のないワードが飛び出して、私はポカンとする。あれ? これもしかして私の知らない【迷鳥】の世界? 私何度も何度もプレイしたけど、魔王なんて一度も出てこなかったけど……。


 そんな私に彼は苦笑しつつ、呆れたように呟いた。


「まさかこの世の中に“魔王”を知らない奴がいたとはな。通りでこの目を見ても怖がらねぇわけだ……」


「……勉強不足でごめんなさい。アリス……いえ私、あんまり勉強が好きじゃなくって。でも、私全然怖くないわ。不気味だとも思わない。凄く綺麗だもの。貴方のエキゾチックな顔にとても似合っていて、いつまででも見つめていたくなっちゃう」


 私がそう言うと、彼はまたそっぽを向いて寝転がってしまった。……なんか変な事言っちゃったかしら。


「………………だ……」


「え?」


「……俺の名前は……リディア・ヴァン・シュナイダーだ……」


 名前教えてもらったーー!



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