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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第四章 アダルトに突入です
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58 僕、登場!(3)

 開場時間になり、私はクラリスちゃんと劇場の外に出て呼び込みを始めた。まあ、呼び込みをせずとも、前回の評判を聞いた人達が列をなして待って居てくれたのだけど。ありがたやー。


 劇場になる以前、悪趣味な石像が多数置かれていた庭は、今では石像は撤去され見晴らしの良い誰もが利用できる憩いの庭園になっている。

 そんな庭園も、今日は沢山の屋台が軒を連ね、お祭りムードを盛り上げてくれている。

 屋台から、お菓子を焼くような甘い匂いや肉の焼ける芳ばしい匂いが漂ってきて、思わず私のお腹が鳴ってしまった。


「クラリスちゃん、公演が終わったら屋台に行ってみない?」


「ふふ。いいですねぇ。楽しみです」


 すっかり笑顔を取り戻したクラリスちゃんにホッとして、私も笑顔を返した。そうして視線を庭園の方へ戻すと、遠くの方からこちらに手を振る多数の小さな影が見えてきた。


「アリスお姉ちゃーん!」

「わあ! ほんとだ! おーい!」


 招待した孤児院の子ども達が健気に手を振ってこちらにかけてくる姿を見て、知らず顔が綻んでしまう。

 子ども達の無邪気な笑顔は、ほんとに可愛いわぁ~。癒されます。


「みんな! 遠くから来てくれてありがとう!」


 シャーリン領にはいくつかの街や村があるが、シャーリン領内には大きな街にしか孤児院がない。

 今日はラグから遠い街の孤児院にも馬車を向かわせて、シャーリン領の全ての孤児院の子どもを招待している。


「アリスお姉ちゃん。“シンデレラ”ってどんなお話なの?」

「前の“ピーターパン”すっごく面白かった!」

「アリスお姉ちゃんも出るの? クラリスお姉ちゃんも今日は出る?」


 子どもたちが興奮気味に私たちのまわりではしゃいでいる。ふふ。可愛い。


「残念ながら私とクラリスちゃんは出ないけど、リドは出るわよ」


 私の言葉に、子どもたちから『キャーッ』と色めき立った黄色い声が上がった。

 リドの美貌は老若男女、全ての人を魅了するようだ。罪な男ね。


「リディアお兄ちゃんが!?」

「何の役? 何の役?」

「リディアお兄ちゃんのフック船長、カッコよかったよなー!」


 とても期待させてしまったところ申し訳ないが、今年のリドはカボチャの馬車の馭者役だ。注意して見ていなければ見逃してしまいそうなほどのちょい役だ。


「んー。それはお楽しみにして。劇の後は屋台のフリーパス券をあげるから、1日思い切り楽しんでいってね」


 子どもたちは「はーい」と、目をキラキラ輝かせて返事をすると、劇場に入って行った。


「なんだー。アリスは劇に出ないのかー。残念」


 突然背後で低い男の人の声がして振り向くと、そこには白金髪(プラチナブロンド)の青年が立っていた。


「エル様!」


「やあ、アリス。久しぶり。今日のシンプルな装いも可愛いね。子どもたちと戯れてる時の笑顔もすっごく可愛かったけど」


 エル様は私の手をとり、手の甲にキスをした。

 ……相変わらずフェミニストですわね。


「……いつから見てらしたのですか? お声をかけてくだされば良かったのに」


「いやー。俺には向けてくれない笑顔だったから貴重だなぁと思ってさ」


「わざわざ、こんな遠くまでお越しいただいて申し訳ありません。ジークフリート陛下の片腕になられてからは、公務でお忙しいとお聞きしましたけれど」


「まーね。でもアリスに会う為なら仕事なんてチャチャっと片付けちゃうよ」


 笑顔でウィンクするエル様は、この八年間でずいぶんと背も伸び、男らしくなった。

 【迷鳥】では仲違いをしていたエル様とジークフリート様だったが、私の毒殺未遂事件以来、今は共通の敵((イコール)シャーリン公爵)に立ち向かうべく手を組んで政務をこなしている。

 前世のゲームの中や、出会ったばかりの時は、エル様はジークフリート陛下に対してコンプレックスがあったように思えたが、今はそんな様子は見られない。

 自分は自分、兄は兄……と、割り切っているようだ。

 それに【迷鳥】のエルヴィン王子のように、無節操な女たらしでもない。仕事もせず、女遊びしまくってもいない。

 ちゃんと公子として仕事を頑張っているし、フェミニストで女性に優しいので、女の子たちに人気がある。


 それというのも私やリドという、色々と相談できる友達ができたのが大きいのかもしれない。

 エル様は度々シャーリン邸にやって来ては、チェスをやりながら私たちに愚痴をこぼしている。

 なんだかんだで、エル様とリドは親友と呼んでも過言ではないほど仲良くなったと思う。本人ら(というかリド)に言うと、顔を顰めて否定するけれど。


「ねぇ、今日はトーリも舞台に出るの?」


「え? トーリ? 出ますわよ。ちょい役ですけど」


 エル様が、口元に拳をあてて、神妙な顔つきで尋ねてきた。

 エル様って、初めて会った時からなんとなくトーリを目の敵にしてるのよね。


「……全く、バカ兄貴が。公務ほっぽり出してこんなとこで油売って……何考えてんだ……」


「え? 何か言いました?」


「あ、いや。なんでもないよ」


 ブツブツと何やら呟いていますが、エル様の独り言、全く聞こえませんでした。そして作り笑顔で誤魔化されました。

 またジークフリート陛下の愚痴かしら? 私でよければ聞くけど、こんなとこで陛下の悪口言って、誰かに聞かれて不敬罪で捕まるのは嫌ですものね。


 今回の劇で声をかけてないのはムダ筋(ガイ)くらい。ムダ筋を呼ばなかったのは、昨年、ブルースを演じながらピーターパンを演じるという二重の演技に、私が精神的にも肉体的にも疲れてしまった為だ。

 ブルースを演じるのは週一の剣の訓練の日だけで充分だ。

 そうそう。クラリスちゃんをムダ筋の家の養子にすることにも成功した。なのでクラリスちゃんは今や【クラリス・リリー・カーライル侯爵令嬢】となり、昨年華々しく社交界デビューを果たした。

 ジークフリート陛下とも運命の出会いを果たしたに違いない。

 いよいよ私の国外逃亡が現実となる日が近づいてきましたわね。


 ……心残りは……シャーリン家にやって来るはずの義弟が、まだ現れていないこと。

 【迷鳥】の設定では、義弟のユリウスは九歳でシャーリン家の養子になって、アリスとシャーリン公爵に虐待を受けまくり、歪んだ性癖……ではなく、性格になってしまうはずだった。

 だが、やってくるはずの九歳なんてもうとっくに過ぎ、もし今生きていれば十四歳か十五歳だ。

 もしかしたら見つかるかも……という想いで、シャーリン領内の全ての孤児院を見て回った。

 色々探したが、ユリウスは見つからなかった。いったい前世のゲームのお父様は、どこからユリウスを連れてきたのだろうか?


 余談だが、ユリウスを探していた時に、我が領土の孤児院事情や、我が国の貧困問題に直面したのがきっかけで、福祉の方に手を出し始めた。

 そして、我が領土のことを知れば知るほど、杜撰な統治に驚かされた。

 よく今まで暴動が起きなかったなと、不思議なくらいだ。

 前世のゲームでシャーリン公爵が失脚していったが、領民からの搾取が酷すぎたのだから無理もない。

 シャーリン領だけでなく、アーネルリスト王国も調べてみると、王太后様がかなりの浪費家の為に財政を圧迫し、そこを国民への重税で補っている状態のようだ。

 私が国外に行くまでに、とりあえず領内の貧困などの問題を少しでも立て直せればいいのだけれど。

 

 そして、できればユリウスをシャーリン家の跡取りとして真っ当に育ててから国外逃亡したかった。だが、どうやら義弟とは出会うことなく国外に行くことになりそうだ。


 そんなことを考えている時だった。




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