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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第三章 奇跡の先のそのまた向こう
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51 初めてのお茶会(4)

 目覚めると、見知らぬ天井が目に入ってきて、ハッと息を飲む。

 見覚えのないベッドに寝かされていることに気付き、まだなんとなく怠さを感じる身体を起こしてベッドの真ん中で座った。

 天井にはシンプルだが趣味の良いシャンデリア。

 意匠を凝らした薔薇の細工が施されているベッド。

 ベッドのシーツなども、とても上質な素材を使用している。

 ここは……?

 確か私……“ブシ”入り紅茶を飲んで気分が悪くなって倒れてしまったのよね。

 ……倒れる前に、とても重要な何かを見てしまったような気がしたんだけど……。


「目覚めたかい? シャーリン家のお嬢さん」


「はい?」


 声を掛けられそちらを振り向くと、テラスへと続く大きな窓の前に白金髪(プラチナブロンド)の少年が立っていた。

 そうそう。倒れる直前に【迷鳥】の第二王子を彷彿とさせるような白金髪(プラチナブロンド)の少年を見たのよ! そう! ちょうど、こんなような少年!

 ……ん? んんーー!?


「その珍しい薄桃色金髪(ストロベリーブロンド)にロイヤルブルーの瞳。なんですぐに気付かなかったかな。君は兄上の婚約者のアリス・ローズ・シャーリンだ」


 はい。そうです。私がアリス・ローズ・シャーリンです。

 そういう貴方は……もしかして、否、もしかしなくても……。


「エルヴィン殿下……?」


「そうだよ。よろしく、未来の姉上。俺のことはエルって呼んでくれていいよ」


 ……また一人、私を“姉”と呼ぶ者が増えた……。

 つーか、ギャーー!!

 会いたくなかったゲーム攻略対象者と会っちゃったーー!! 嫌ぁーー!!


 内心冷や汗をかきながら、冷静を装ってみる。

 うう……どうしてこんなことに……。


「では、私のことはアリスとお呼び下さい。残念ながらエル様が私の弟になることはありませんけど」


「……何が言いたいのかな?」


 エルヴィン王子は小首を傾げる。耳の横に伸びた綺麗な白金髪(プラチナブロンド)がサラリと揺れた。

 今までの穏やかな仕草とは打って変わって、その目は突然仄暗い闇に支配された。


「それは俺が、王家の血を引いていないから……ということかな? お前も俺を蔑むというわけか。ロイヤルブルーを持つお嬢さん」


「……は?」


「お前もこの目を見て気付いたんだろ? それともすでに知っていたか? 俺が父王の血を継いでいないと。王家の血筋は必ず瞳の色に現れる。俺の()は似て非なる紛い物。……そうだ。俺は母の不義から生まれた、どこの馬の骨ともわからない人間だ。そう言って兄上と二人で嘲笑っていたか?」


 え? エルヴィン王子ってそういう設定なの!? し、知らなかったですわ。


 王室の闇の部分……きっと禁忌(タブー)な話題だから、噂にすらなっていなかったのだろう。


 そういえば以前、ジャンヌが私の瞳を見て『王家の血を引くロイヤルブルーの瞳……そんな美しい色を、俺は三人しか知らない……現王と、その息子……そして、お前……』と言った時、違和感があったのよね。あれ? 息子は二人だから、四人じゃないの? って。

 公然の秘密というわけだったのね。


 皮肉げな笑みを顔に貼り付けて突然自虐的なことをつらつらと語り出したエルヴィン王子に、私は呆気に取られて開いた口が塞がらなかった。


「あのー。卑屈になるのは勝手ですけれど、私が貴方の姉にならないのは、貴方のお兄様が私との婚約を破棄なさるからですわ。そちら側の問題とは一切関係ありません」


 この卑屈な性格のせいで、この人将来女の人にダラシない残念な性格になっちゃうのかしら? いやだわー。


「は? 婚約破棄……?」


「ええ。貴方のお兄様と二人で嘲笑っていたとおっしゃいますが、私ジークフリート殿下と一度もお会いしたことありませんから」


「何……? 一度も? 何故?」


「さあ……。何故と言われても……。私が殿下に嫌われているから避けられているのではないでしょうか」


 私の言葉に、エルヴィン王子が憐れみの目を私に向けています。正直説明とか面倒くさいです。


「お気になさらず。嫌われてるくらいが丁度いいんです。ジークフリート殿下とかかわり合いになりたくないので。つまり王家と私は今後一切なんのかかわりもないということです」


 エルヴィン王子は驚いたような顔をした後、身体をくの字に曲げてクツクツと笑い出した。


「くくく……キミ、強いね。イイよ、すごくイイ。気に入った。確かに、兄上にアリスはもったいない」


 は、はぁーーッ!?

 え。嫌ですわ。攻略対象者なんかに気まぐれに気に入られたくないです。

 私はジークフリート殿下だけでなく、貴方ともかかわり合いたくないんですから!


 エルヴィン王子は部屋の窓の方から、私の居る方へと歩いてきて、なんとベッドの上にのし上がってきた。


「ちょ、ちょっとお待ちになって下さい! 何をなさる気ですの!?」


「“何をなさる気ですの”か……ほんとキミ可愛いね。……何されると思う?」


「かわ……ッ!? 質問を質問で返さないでもらえます!?」


 ジリジリとこちらににじり寄るエルヴィン王子に、私は若干の身の危険を感じてベッドの端っこまで後退った。


「何で逃げるの? さっき、毒で朦朧としてた時は、キミの方が積極的だったじゃないか。涙目で、すっごく可愛かった。俺の目を“深い空の色で綺麗だ”って言ってくれたよね?」


「すみません! 全然覚えてないです!!」


 コイツ、もうすでにチャラ男で残念な性格だーー!

 見た目は華奢な少年なのに、なんか怖い。目が怖い。

 

 そ、そうだわ。リドは!? リドはどこに行ったの!?


「リ、リド!! リドちょっと来て!」


 私はキョロキョロと辺りを見回すが、何故かリドの姿が見当たらない。

 まだ日は高くて、私が倒れた時からさほど時間は経っていないようなのに。

 それよりも、ここはどこなのだろう。よく見ると、大きな窓の向こうはテラスがあり、テラスから芝生の庭へと続き、その庭は私が倒れた場所であろうことがわかった。そしてテラスと庭を隠すように、周りを薔薇の生垣で囲んでいる。

 もしかして、知らずにエルヴィン王子のプライベートガーデンか何かに入り込んでしまったのかしら?

 だとしたら、ここはエルヴィン王子の私室!?


「リドって……キミの可愛い騎士(ナイト)のことかな? 彼ならキミに口移しで解毒剤飲ませた後、この部屋の隣の部屋で待機してるよ」


 ………………はい?


 く・ち・う・つ・し……。


 …………口移しーー!!?


 私は陸に上がった魚のように、ポカンと開けた口をパクパクと動かした。顔に一気に血液が集まり、熱い。


「うわー。顔真っ赤だ。何考えたの? ヤラシーなぁ。……少し妬けるね」


 なんということでしょう。

 わ、私のファースト・キスが……。

 どうやら眠っていて記憶のない間に……リドに奪われてしまったようです。


「キミ、侍女を庇って“ブシ”の毒を飲んだんだって? いくら毒に身体を慣らしてても女の子は自分をもっと大事にしなきゃダメだよ」


 優しい笑顔を貼り付けて、エルヴィン王子がにじり寄ってきます。

 隣の部屋? 隣の部屋にリドが居るの?


「リド! 助けて!!」


「助けてなんて人聞きが悪いなぁ。彼とは取り引きしたんだよ。“ブシ”の解毒剤をあげる代わりに、キミが目覚めて30分間は隣の部屋に居るって。あと10分くらいしかないから、急いでイイコトしよう」


「は!? イイコトって何!? 怖い!!」


 今にもエルヴィン王子が私に覆い被さりそうになった瞬間、バンッと乱暴に部屋のドアが開け放たれた。


「殿下。30分経ったぞ」


 ドアから入って来たのは不機嫌そうな顔をしたリドだった。ベッドの上の私たちを見ると「チッ」と大きく舌打ちして、ますます眉間に皺を寄せた。


「嘘だ。まだ20分くらいしか経ってないだろ」


「うるせー。俺の中じゃとっくに30分経ってんだよ。つーか、その女から離れろ」


 リドはつかつかとベッドまでやって来て、エルヴィン王子をひっぺがしてくれた。

 リドが救世主に見えます!!


「無粋だなぁ。これからイイコトするトコだったのに」


「……俺には“助けて”って声が聞こえたけどな」


 ピンチに駆けつけてくれたのねー!!


「リドぉ。ありがとうぉ」


 私が涙目でそう言うと、リドはチラリと横目で私を見て、鬱陶しそうに溜め息をついた。


「毒なんか飲みやがった、てめえが一番悪ぃ」


 はい……。ごもっともです……。




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