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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第三章 奇跡の先のそのまた向こう
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48 初めてのお茶会(1)

 リドが目覚めた日から三日が過ぎた。


「さあ、アリス様。早めにお支度しないと間に合いませんよ」


 朝から湯浴みをして、肌にも髪にも丹念に香油を塗り込まれ、マッサージされ、いい匂いのする白粉ではたかれ……。

 

「今日は初めてジークフリート殿下とお会いするのですから、腕によりをかけて可愛らしく仕上げましょうね! 腕がなります!」


 すっかり打ち解けた侍女頭のオリビアが、朝から気合いを入れて私を磨き上げてくれている。笑顔が眩しいわ。

 こんな気合いを入れてくれて、こんないい笑顔をしてくれて本当に申し訳ないけど、私は今日、お茶会に婚約破棄されに行くのですよ。

 でも、そうね。最悪の日だからこそ、気合い入れてお洒落していっても良いかもしれないわね。ある意味、お洒落は戦闘服ですから!


 薄い空色の上品なドレスは、この日の為に新調したものだ。

 光沢のあるタフタ生地に真珠が縫い付けられ、動く度にキラキラと光を反射してとても美しい。

 ドレスはもう何着もあるのに新しいものを着るなんてもったいない気がするが、公の場に出るのはこれで最初で最後になるだろうから、最後の晴れ舞台として少しだけ目をつぶってもらおう。

 ただ一つ心配なのは……。


「ねぇ、オリビア。ただのお茶会にこんな派手なドレスを着ていっていいのかしら?」


 私の質問に、オリビアは笑う。


「このお茶会には他にもご令嬢が何人も招待されていらっしゃると聞いております。アリス様はジークフリート殿下の婚約者なのですから、一番輝かなくては!」


「オリビア~~!」


 たくさんの令嬢たちに囲まれる自分を想像したら、なんだか不安になってきて、私はオリビアにぎゅうっと抱きついた。

 オリビアは驚きつつも、優しく私の頭を撫でてくれた。


「そのままでも充分可愛らしいですが、ちょっぴりお化粧もしましょう。大丈夫、いつものアリス様の調子でいけば、他のご令嬢なんかに負けませんよ」


「ありがとうオリビア! 私、この素敵なドレスを決して無駄にはしないわ」


 齢八歳にして婚約破棄イベント到来!

 清く、正しく、美しく! 潔く断罪(?)されてみせますわ!






 シャーリン公爵家は、王都に一番近い領地を与えられている。その為、馬車を走らせても三時間弱で王都に着いた。

 遠くの領地の者は、何日も前から王都入りして宿などを取らなければならないので大変だ。

 城下町の大通りを抜けるとお堀があり、いつもは上がっている桟橋の上を通っていくと、大きく立派な門が出迎える。その門をくぐると、更にシンメトリーで広大な美しい庭園が私たちを迎えてくれた。よく手入れされた植木や噴水を馬車の窓からウットリと眺めていると、荘厳で壮大な白亜の城が見えてきた。


 ……何度来ても……無駄に広いわぁ。


 真っ白なお城は本当に美しいが、それを維持するの絶対大変だと思う。私だったら城の壁は汚れの目立たない色にするけど。

 その白さがまた、アーネルリスト王国の富の象徴であるのだろうけれど、私は納得いかないのよねぇ。


 そんなことを考えて、ぼんやり窓の外を眺めていると、斜め前から「クッ」と、笑いを噛み殺したような声が聞こえてきた。


「確かに無駄だな」


 目を細めて皮肉げに笑うリドと目が合う。

 一人だけお供を伴って良いとのことで、私はリドを連れて来た。


「え? 私声に出してました?」


 慌てて口元に手をやる。ぼんやりし過ぎてたわ。


「自覚ねえのかよ? 気をつけた方がいいんじゃねえか? 王城(ココ)では」


「そうですわね! ……気合い入れねば!」


 よしっ! と拳を身体の横で作った私を見て、リドがため息を吐いた。


「……てめぇこそ気合い入れ過ぎじゃねえのか? ()()()。なんだよそのドレスは。そんなに王子様に気に入られてぇのかよ?」


 からかい口調で皮肉たっぷりにそう言われ、私はリドを上目遣いで軽く睨んだ。


「…………なんだよ」


「いいんです。これは戦闘服なんです。私は今日、婚約破棄されるのですから」


「…………は?」


 私は再び窓に目を移す。やっぱりまだ、リドに悪意を向けられると心が折れそうになってしまう。


「……てめぇはジークフリート王子と婚約してんのか?」


「…………うん」


 窓に目を向けたまま、返事した。そんなことも全部忘れちゃってるんだなぁ……と、何の気なしにした会話からも痛感させられて、涙が込み上げてくる。……泣かないけどね!

 リドと再び良い関係を築けるように、嫌われてるのは百も承知で、出来るだけ行動を共にしようと決めた。

 マイナスからのスタートだけど、もう一度私をちゃんと見てもらう為に。

 “天使ちゃん”にも負けたくないしね!


 そうしているうちに白亜の王宮が目前に迫り、馬車は徐々に速度を落としていき、その前で止まった。




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