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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第二章 これは恋か?
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43 嘘吐きはスペクタクルな始まり(1) ※ジーク目線

 初めに嘘をついてしまったせいで、嘘に嘘を重ね続け、もう絶対に本当のことなど言えない程に信頼を得てしまった。本当の自分ではなく、嘘で塗り固めた自分の方が……だ。

 彼女の前で“嘘の自分”で居る時間が日に日に長くなっていくと、本当の自分はどっちなのだろう……と、自我が崩壊しそうになる。

 作り上げた筈の“嘘の自分”の方が、自然に笑えるのだ。

 彼女と一緒にいるのは楽しい。

 否、彼女と一緒にいる()()楽しい。


『普段すました顔のトーリが冗談を言うと、面白いですわ』

 そう言って笑った彼女の……作った笑顔ではなく、自然に溢れた笑顔に釘付けになった。


 俺の婚約者はなんて可愛いらしいのだ!!! ……と。


 できるなら、ずっと彼女と一緒にいたい。

 できることなら……本当の自分で彼女と向き合いたい。だが今はまだ、それはできない。まだその時ではない。頃合いを見て……。そんなことを考えていたら、すっかりタイミングを逃し、間も無く俺の誕生パーティーだ。どうするのだ? 俺。パーティーの前に正体を明かしておくべきではないのか?

 そう、最高のタイミングを見計らって真実を打ち明けなければ、俺は多分、ますます彼女に……。


 嘘の自分として彼女と接して得た情報の中で、最も有力な情報……それはーーーー。


 『本当の自分はめちゃくちゃ彼女に嫌われている』


 何をしてそんなに嫌われてしまったのか。否、むしろ何もしなかったからだろうか?


 婚約者である公爵令嬢が、自分の駒となって動いてくれる者を探している……と、シャーリン公爵邸に潜入させていたアルに報告された時に、この計画を思い立った。

 アリス・ローズ・シャーリンの婚約者である、この俺ジークフリート・ハイネ・ネーデルラント自らシャーリン公爵邸に入り込むチャンスだと。そして、シャーリン公爵のみならず、娘のアリスの悪行も、この目で確かめて断罪してやるーーーーと。

 アルと共にトーリ・エンイアーとして探りをいれ、悪名高いシャーリン公爵を宰相の座から失脚させ、アリスとの婚約も解消できるだけの証拠を集める手はずだったのだ。

 彼らに証拠を突き付けた後で正体を明かし、決して言い逃れ出来ないようにしてやるつもりだった。


 ところが……だ。

 探せど探せど、見えてくるのは婚約者(アリス)の良いところばかり。

 可愛らしい外見のみならず、純粋で聡明で、人を思い遣る気持ちを持っていて、知れば知るほど彼女以外に王妃になるに相応しい女性はいないと確信させられる。

 更に彼女は、王家特有の真眼までも持ち合わせていた。流石王家の血を引くだけはある。

 本物を見抜く眼。真に素晴らしいものが光って見えるのだ。

 勿論、俺にも備わっている。

 ……そうか! だからだろうか。最近アリスが輝いて見えるのは……。

 笑っていても、怒っていても、どんな顔でも、どんな姿でも、眩しくて仕方ない。


 そうだ。

 顎をしゃくれさせた姿も、非常に可愛らしかった。

 俺の前で、あんな顔を晒した女は未だかつていない。

 アレが決め手だった。

 俺は恋に落ちた。


 今までアルなどに調べさせていた調査書や、遠目で(望遠鏡で覗いて)見た彼女(アリス)は一体何だったのだろうか?

 そんな姿を鵜呑みにしてしまったせいで、俺は人生最大のとんでもない過ちを犯してしまった。

 

 ジークフリートとアリスの出逢うべき機会を潰してしまったのだ。


 トーリとして信頼されてしまった今、どの(ツラ)下げて『自分は実は君の婚約者のジークフリートなんだ』などと言えるだろうか!?

 

 考えたくもない事だが、アリスに嫌われているらしいジークフリートが、トーリと同一人物だと知られたら……トーリまでもが嫌われてしまうのではなかろうか。

 今まで築き上げた信頼も脆く崩れ去ってしまい、『嘘つき』と罵られ、あの可愛らしい笑顔を向けてくれなくなるだろう。

 ……ッそれは耐えられん!!! 考えただけで胸が苦しいッ!!!


 因みに、“トーリ・エンイアー”は、“ジークフリート・ハイネ・ネーデルラント”の文字を入れ替えて作った名で、しかも初代と十代目の国王の名を借りているのだ。勘の良い者ならすぐに、俺がジークフリート王子であると気付くようにしておいた。

 シャーリン邸に出向く初日に、髪と瞳の色を魔法で変えていたのだが、シャーリン邸の敷地に足を踏み入れた途端、魔法が無効化されて元の色に戻ってしまい、慌てて街に出て髪色だけを薬で染めた。

 瞳の色を変えるのは魔法以外に方法を思いつかなかった。

 だから瞳の色は変えずにアリスに会った。この国で三人しか居ない珍しいロイヤルブルーの瞳で。


 だが驚くべきことに、アリスは未だに全く気付いていない。

 他のことには、よく勘が働いているというのに。

 それ程までに、(トーリ)を信頼してくれているのだ。(トーリ)が嘘をついているなどとは、露ほども思っていないのだろう。

 そんな純粋なアリスを騙していることにも、少しずつ罪悪感を覚えてきてしまった。

 

 こうなったら、アリスの中の(ジークフリート)の株を上げていくしかない。


 ただ、俺はあのリディア(クソガキ)のように、四六時中アリスと共に居られる訳ではない。

 数年前から、父上のお身体の調子が芳しくないのだ。

 それにも俺は宰相が一枚噛んでいるのではないかと疑っているのだが。

 放っておくと、全て宰相であるシャーリン公爵の思惑通りに事が進んでしまう。

 父上のお身体が芳しくない今、宰相やその取り巻き達に政治全てを任せてしまうことは、かなり危険だ。その為に俺は見張りとして父上の側にいなければならないし、簡単なものならば父上の代わりに王族として公務を執り行うこともある。

 クソガキがどんどん株を上げて行く中、俺は遅れをとっている……否、もう手遅れかもしれん。

 それというのも、あのクソガキが魔剣を撃ったからだ。それからのアリスのアイツに対する態度が劇変した。

 いくら鈍い俺にだってわかる。

 だがアリスは俺のモノだ。

 どんな手を使おうとも、アリスは必ず返してもらうぞ。クソガキめ。


 


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