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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第二章 これは恋か?
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40 君のためにできること(2) ※リド目線

 ミストラスの町も充分シャーリン領の外れだと思っていたが、呪術師の住む集落はもっともっと外れていた。

 ひたすらに森の中を馬車で走って行く。

 森の奥の方まで馬車道が開拓されていたのは良かったが、随分と奥深くまで進んでも一向に辿り着かないので、途中で皆の不安をひたすら煽った。

 そんなこんなで森を抜けてやっと辿り着いた集落は、想像を絶する程の寂れ具合だった。


「おい……ほんとにここ、人が住んでんのか?」


 そこは、ミストラスの町とそう離れていなかったのだが、早朝から馬車を飛ばしてきたにもかかわらず昼をとうに過ぎていた。

 辺りを見回しても残念ながら食事を提供してくれるような店はない。掘っ建て小屋のような民家が十軒くらい建っているだけだ。

 井戸と畑のようなものがあるのを見ると、自炊で何とか食えていけるのかもしれないが。


「……ジャンヌ。ここは、シャーリン領じゃありませんわね? さもなくば、税金未納の不法滞在者の集落か……。我が領にこの名もなき集落の見覚えがありません」


「アリスちゃん、ご名答。ここ、ちょうどシャーリン領とお隣のスコット領の境で、どちらからも見落とされてるのよ。できればアリスちゃんも今日見たことは見逃してあげてぇ~」


 オカマがウィンクしている。それは誰得だ?


「それはいいのだけど……こっちの畑で作っているの、幻と呼ばれる魔法植物のトプカだわ。花弁は解毒作用があるけど根っこと花の額に幻覚を伴う強い毒性があるから、違法薬草で栽培禁止だし、育て方が難しいから入手困難なんだけど。……まぁ、シャーリン家(うち)の庭園で普通に栽培されてますけどね」


「それも見逃しといてぇ~」


「……トーリとアルフレッドが居なくて良かったですわ」


 なんだか、エライとこに来ちまったようだな……と思っていると、ジャンヌがトプカの生えている畑の横に建つ、どう見てもテントのような円錐型の皮張りの家に向かって行った。


「ここよ。偉大なる呪術師、マトが住んでるのは」


 ああ、なるほどな。

 そこは如何にも呪術師が住んでいそうな、ボロボロで妖しげな家だった。


「わぁ。如何にも呪術師(シャーマン)が住んでいそう! ネイティブ・アメリカンのティピーみたい。ドリームキャッチャーとか下がってないかな」


 何やらご機嫌でジャンヌの後を追うアリスが、俺の考えと同じようなことを口にしたが……後半の言葉の意味が全くわからなかった。……ネイ……? ティピー? なんかの呪文か!?


 テントの前に立つと、中へと促す掠れ声が聞こえてきて、俺達は引き込まれるようにテントの中へと足を踏み入れた。

 テントの中央に獣の毛皮で作ったマントのような服を身につけた老人が、胡座をかいていた。

 フワフワの真っ白い長髪が印象的だ。

 褐色の肌は、母親を連想させる。母は流浪の踊り子だった。もしかしたら、母と同じ故郷(くに)出身かもしれない。

 彼はキセルのような長い煙草をふかすと、ゆったりと煙を吸い上げた。


「……来るのはわかっておった……まぁ座れ」


 煙とともに吐き出されたしわがれた低い声が、俺達の来訪を予見していたことを仄めかす。


「それにしても、ずいぶんと凄いのを連れて来たなあ……魔王の出来損ない男に、魂が二つの女か……面白い」


 “魔王の出来損ない男”は、まぁ俺のことだろうな。“魂が二つの女”っつーのは誰のことだ? アリスの方見てるってことはアリスのことか?


「おばあさん、私達が来ることわかってましたの?」


 “おばあさん?” マジか。“おじいさん”じゃねぇの?


「ああ。わかっとった。あんたらのことは生まれる前から知っとる」


「え?」


 アリスの問い掛けに否定がなかったところを見ると、どうやら男じゃなく女で正解らしい。どう見ても“じいさん”にしか見えなかったが、言われてみれば確かに髭がねぇな。


「お嬢ちゃんが生まれる前に、あんたの親父さんがわしを探して訪ねてきてな。結婚したばっかりだったが、どうしても今すぐに子どもが欲しいと。しかも女の子が欲しいから呪術でなんとかしてくれと言ってきた」


「お父様が!?」


「ああ。“嫁が出産も耐えられるかわからないくらい身体が弱くて産めるのは一人になるから絶対に女の子が欲しい”とな。……神様でもあるまいし、そんなのは無理だと答えてやったが、何処から聞きつけてきたのやら“秘術があるだろう”とわしを脅してきおった」


「……ごめんなさい」


 アリスがしゅんと項垂れる。


「いやいや、お前が謝る必要ねぇだろ」


「そうよアリスちゃん。そんなのただのあの悪魔の所業のとばっちりじゃない」


「その通りじゃ。あんたが謝る必要はない。わしらは故郷を追われ、流浪の身で何処に行っても迫害を受けておってな。結局親父さんのシャーリン領での居住権という餌に喰いついちまったのさ」


 婆さんは再びキセルをふかすと、遠い目をして独り言のように喋り出した。


「男が生まれるか女が生まれるかなんて、そんな呪術ありゃーせん。だからわしは秘術に頼った。秘術には、人が手を出しちゃならん領域がある。神の領域……反魂の術のようなもんじゃが、わしはそれに手を出した。女の魂をあんたの母親の胎内に呼び寄せた」


 アリスが婆さんを凝視して、息を飲むのが伝わってきた。


「そこに上手いこと女の赤子の魂が吸い寄せられてあんたが生まれた。だからあんたの身体には魂が二つあるんじゃ」


 魂が二つ……? 婆さんの話を聞いて、アリスの顔色が血の気が引いたように青白くなっちまった。


「おい。大丈夫か? アリス」


 アリスの肩に手を置いて軽く揺すると、アリスは青白い顔で頷いた。蒼い瞳が潤んだように揺れて俺を映す。


「う、うん……ありがと、リド……」


「呪術は魔法と違って、無から有は作れん。そこには必ず代償や対価が必要になってくる。命には命の、時間(とき)には時間(とき)のと言った感じでな。……女の魂を呼び寄せた事に対しての代償は、魂。そこに親父さんは、あんたの母親の寿命を使った」


「はい、出た。鬼畜ー」


 ジャンヌが呆れたように肩を竦めた。


「あんたを産み落とすと同時に命が絶たれてもおかしくなかったが、あんたの母親はそれから三年も生き延びた。“想いの力”……あんたへの愛の為せる業だろうな。女の赤子を欲したのは父親だけでなく母の願いでもあったそうじゃ」


 妙な話だ。

 普通は子どもを一人しか持てないとなったら跡取になる“男”を欲しがるだろ。公爵家なら尚更。

 ……夫婦二人して“女”を望むなんて、やっぱりどうかしてる。


「……つまりお父様もお母様も、私が生まれる前から王家に嫁がせようと画策していたってことかしら?」


「そうとしか考えらんねぇよな」


「……命を賭してまで女の私を産んだのに、王ではなくて魔王に嫁ごうと考えている私は、どうしようもない親不孝者なんでしょうね……」


 アリスが自嘲気味に笑う。寂しげな横顔に胸を抉られて、俺は思わずアリスの肩を抱き寄せた。


「父親はともかく、少なくとも母親は王に嫁ぐことよりも娘の幸せを願ってるだろ」


「そーよアリスちゃん。お母様はアリスちゃんのこと大好きだったもの。お母様だったら“自分の幸せを一番に考えなさい!” って言うわよ」


「……ん。ありがと」


 そう言ってはにかんで笑ったアリスが可愛すぎて、俺達は言葉を失って身悶えした。


 あー……くそッ! 天使か!!



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