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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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3 どうやら転生してしまいました(3)

 私は、まだぼんやりする頭を片手で押さえながらお父様の部屋のドアをノックした。

 お父様はドアを開けるなり驚いた顔で「もう動いても大丈夫なのかい?」と気遣いながら、私を中に招き入れてくれた。

 私はキョロキョロと辺りを見渡したけれど、彼の姿はない。ここに居ないとなると……地下か、はたまた()()()か……。


「……あの奴隷の子はこの部屋には居ないようですわね……」


 お父様の顔色を伺いながら尋ねた私の言葉に、お父様は眉を顰めた。


「ああ……姫を傷付けたアイツね。姫が眠っている間にちゃんと罰を与えておいたよ」


「まさか……()()……?」


 私の心配を全く違う方向に受け取ったお父様は、それはもう悪巧みなお顔で笑った。


「いや、まだ生かしてあるよ。姫が目覚めたら自分で()りたいだろうなぁと思って。アレは地下に居る」


「……さすがお父様……」


 腐れ外道ですわね。

 でも逆に助かりましたわ。

 私はまだ彼が生きていると知って、心底ホッとした。


「ご心配をお掛けしたことは謝ります……ですがお父様……彼は私のものだとおっしゃってくださいましたよね? 今後一切、彼に指一本でも触れないでくださいね」


 私がニッコリと作り笑いをしてみせると、お父様は一瞬目を見張った後、溜息を吐いた。


「姫……アレはダメだよ。どんなに痛めつけても悲鳴一つ上げやしなかった。ほんと可愛くなくて僕の趣味じゃないから手を出す気はないけど、アレはもうやめておいたほうがいい。飼い慣らすのは無理だから、娼館にでも売っちゃうか早めに処分しちゃいなさい」


「……ご忠告ありがとうございます。ですが彼は私の命の恩人ですので」


「……は?」


 ポカンとするお父様を置いて部屋をあとにすると、私は地下に急いだ。

 我が屋敷には、地下牢があるのだ。

 普通ある?家の地下に牢屋なんて。否、ない。何故なら必要ないから。

 悪趣味にも程があるわよ。ほんと。

 地下に作るなら、ホームシアターとかガレージとかパントリーとかにして欲しい。…この世界には合わないか。

 それならばワイン置き場とかどうだろう。

 今度牢屋ぶっ潰してリフォームしてやる。


 そんな事を密かに画策しながら、私は侍女からランプを受け取ると、地下への扉を開けた。

 ここから先は、使用人は立ち入り禁止。

 私も滅多に立ち入らない。

 たまに夜中に呻き声とか啜り泣きとかが聞こえてきてとても不気味だから。

 使用人達も、地下牢については見て見ぬふりをしている。


 細い回廊を一段一段ゆっくりと降りていくと、カツーンカツーン……と足音が響き渡った。

 ランプに照らされて伸びた私の長い影が煉瓦造りの壁に揺らめいて、何か得体の知れない魔物のようで不気味だ。

 下に降りて行くにつれ、獣のような異臭とカビ臭さが鼻をついた。

 私は手の甲で鼻を押さえてその悪臭に耐える。

 一番下まで着くと、そこは窓がなく灯りもついてない為に真っ暗闇だった。

 私は壁のランプに手元のランプの火を移していく。

 そうして漸く、鉄格子の向こう側で(うずくま)る人影を確認する事が出来た。

 私が鉄格子の方へ一歩近付くと、彼は私の存在に気付いたようでこちらに顔だけ向けた。その顔を見て、私はぐっと息を飲む。


「……酷い……」


 彼は、顔の形が変わる程に殴られていた。

 服から出ている手足は痣だらけで腫れている。

 よく見れば、手足の爪が所々剥がされていて血が滲んでいた。


 私の顔を見るなり、彼は嫌悪の表情を露わにして、またあの鋭い眼光()で私を見据えた。


「……糞ジジィの次は糞女かよ……」


 彼は掠れた声でそう吐き棄てるように言うと、口角だけを上げて笑った。


「……てめぇら……狂ってやがる……」


 そうだ。この屋敷の者は皆何処か狂っている。正常な者程、お父様によって少しずつ狂わされていく。

 シャーリン家こそが、乙女ゲーム【恋の迷宮、愛の鳥籠】の世界観を作り上げていると言っても過言ではないだろう。

 そんな真っ只中に置かれた私、アリス・ローズ・シャーリンなら、この後彼に更に追い討ちをかけて酷い目にあわせたに違いない。

 だが、前世の記憶を取り戻した私には、この異様な光景はとても耐えられなかった。


「……無理して喋らなくてもいいわ。今ここから出してあげるから」


 確か牢の鍵が壁にかかっていた筈…。

私が壁に振り返って牢に背を向けると、彼はその背中に辛辣な言葉を投げつけた。


「……ここから出たら、まずてめぇをブッ殺す……」


 その言葉を無視して、私は鍵を探す。

 鍵は確かに壁のフックにかかっていたが、八歳の子どもの背丈ではとても届きそうもない。

 まいったわ。

 私は持っていたランプを足元に置いて、踏み台になるような物を探した。すると、部屋の端っこの方に無造作に積まれているワインの空き箱を発見する事が出来た。

 木箱はしっかりとした造りの所為もありとても重たかったが、誰かの助けを借りる事も出来ないので自分で運ぶ。

 こんな重いもの、アリスは生まれて初めて持ったんじゃないかしら?

 貧弱な手脚が恨めしい。……明日絶対筋肉痛になるわね……。

 やっと一台運んで乗ってみたが、まだ全然届かない。

 仕方がないのでまた部屋の隅に行き、もう一台運ぶ。


「痛っ……!」


 ささくれ立った木箱を素手で持った所為で棘が刺さった。

 あー……白魚のような指ってなんて貧弱なの。

 木箱を重ねるのに一台を持ち上げるのがまた一苦労だ。腕がプルプルと震えてなかなか持ち上がらない。


「……くぅ……ッ……ょぃしょおー!」


 私はいつの間にか、公爵令嬢らしからぬ掛け声を上げてしまっていた。




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