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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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29 救出してしまいましょう(4)

 司会者から舞台の方に来るようにと促され、私は一番後ろの席から舞台へと歩いていく。

 リドの困惑したような、絶望したような眼差しを受けるのが辛くて、私は無意識のうちにリドを見ないようにしてしまっていた。

 落札者達の好奇の目に晒されながらも、私はできるだけ背筋を伸ばし、前を向いて颯爽と歩いた。


 舞台の上で、クラリスちゃんは両手で身体を抱き締めるように隠し、震えていた。

 近くで彼女を見て、やはり間違いないと確信する。

 目の前にいるクラリス・リリー・セヴァーン男爵令嬢……今はもう『セヴァーン男爵令嬢』ではないが、彼女は私が前世でやっていた18禁乙女ゲーム【恋の迷宮・愛の鳥籠】の主人公だ。


「では、落札金額、四千万ゼニーをこちらへ」


 私は言われるがままに、お金の入った袋を司会者に手渡す。すると、舞台袖から数名バタバタとこちらにやってきて、袋の中を確認し始めた。


「…………確かに四千万ゼニー受け取りました。落札おめでとうございます!」


 嬉々として叫ぶ司会者をよそに、私は上に着ていたジャケットを脱ぎながら、ゆっくりとクラリスちゃんに近付いていく。

 ふわり……と、クラリスちゃんの肩にジャケットを掛けてあげると、彼女はビクリと身体を震わせた。

 私はできるだけ彼女が怖がらないように、首を傾げて微笑んだ。


「もう大丈夫。……怖かったよね」


「……ッ!? ……うっ……ううう……」


 私の言葉に目を見開いた後、ポロポロと涙を流し始めたクラリスちゃんを抱き締めて、私はその背中をそっと撫でた。


「行こう」


 私がそう耳元で呟くと、クラリスちゃんはコクリと頷いて、私に身体を預けてしなだれ掛かる。私は彼女を気遣いながら舞台を降り、リドとジャンヌが待つ一番後ろの席まで一緒に歩いた。

 下から前方を見上げると、その先にリドが立ち尽くし、私を見下ろしている。その困惑と怒りの籠った瞳に射抜かれ、私は思わず視線を外してしまった。

 リドとジャンヌの前に立つと、何とも言えない重たい空気が流れる。


「……なーにやってんのよ、ホント」


 一番にその空気の中発言したのはジャンヌだ。溜め息混じりで前の方に落ちてきた髪をかき上げる。


「…………てめぇの気まぐれを信じた自分に反吐(ヘド)が出るぜ……」


 ドサリ……と、ジャンヌの横に腰掛け、リドが俯きながら吐き捨てるように呟いた。


「てめぇはこれが見たかったのか? 希望をちらつかせといて、土壇場で裏切って突き落として……絶望する俺の哀れな姿を……」


「ち、違うわ! リド!!」


 私は慌ててリドに駆け寄り肩に触れようとしたが、ピリリと怒気を纏った身体には触れることができず、その手が宙を舞う。


「……触んな……」


「…………リド……」


「……クク……これで満足かよ……お嬢様……」


 リドの唇が皮肉気に歪められて弧を描いた。


「……ハハハ……ッ……あまりに滑稽で、もう笑うしかねぇ!」


 小さく笑う姿は、まるで泣いている様にも見えた。


「俺……信じるって言ったよな……あんたのこと……」


 悲痛な顔。

 私はリドを傷つけてしまった。


 その時、どよっと周りが騒がしくなり、ワッと感嘆の声が上がった。

 私達は慌てて舞台の方に目を向ける。するとそこには、溢れんばかりの気品を纏った黒髪の少女が、鎖に繋がれて引き摺られるようにして舞台上に連れられて来ていた。


「ヴィヴィ……ッ!!」


 リドは立ち上がり、爪先から血が滲み出る程にその拳を握りしめた。


 彼女が、元ログワーズ王国の王女ヴィヴィアン・スカーレット・シュナイダー……。

 目鼻立ちはリドに似ていて、キッと上がった目元と、燃えるルビーのような紅い瞳が、意志の強さを感じさせる。腰まである美しいブルネットの髪は褐色の素肌を隠し緩く波打っていた。

 こうして奴隷のような扱いを受けていても、彼女の気品は隠しきれない。


「ブヒーーッ! 気が強そうで屈服させがいのありそうな美少女きたーー!!」


 興奮した豚男爵が立ち上がって豚声を上げた。

 おい、豚よ。

 さっきと言ってることが全然違うけど。

 ……結局、美少女なら誰でもいいのね。


「嫌よ! アンタみたいな豚は絶対にお断り。このクソ豚風情が」


 会場中に、少しハスキーな女の子の声が響き渡った。

 ……え? 今の誰が言ったの?


「そんな豚顔でわたくしに近付いたらブッ殺すわ。というか今すぐ死んで」


「な、な、なんだとぉーー!! ブヒーーッ!」


 豚がますます興奮して、茹で豚みたいになってますけど。

 ……この毒舌ぶり。間違いないですわ。

 彼女は間違いなくリドの妹さんです。


「さて! お待たせ致しました! 本日のメインイベントの登場です!」


 司会者が声を張ると、会場がワッと湧いた。

 いよいよね。


「褐色の肌に赤い瞳。ここにいる少女は正真正銘、あの今は亡きログワーズ王国のヴィヴィアン・スカーレット・シュナイダー王女です! さあ。それでは参りましょう。最初は一万ゼニーから!」


 始まってしまった。

 今までとは比べものにならないくらい、活気が出て、どんどん値がつり上がっていく。


「二万」

「三万!!」


 リドが再び椅子に座り、冷静さを取り戻した様子でこちらに顔を向けた。


「まあいい。落札しちまったもんはしょうがねぇ。作戦変更だ。……俺はヴィヴィを落札した奴を殺して逃げることにした」


「ちょっと、物騒なこと言わないで頂戴。ここの警備凄くて逃げるなんて無理だから。屈強な戦士なら兎も角、アンタみたいなお子ちゃま、すぐに捕まっちゃうわよ。……ッたくもう!」


 ジャンヌはそう言って、私の目の前に大きな袋を三つ出した。


「ジャンヌ?」


「お金足りないといけないと思って持ってきといたのよ! 全部で六千万ゼニーあるわ。使いなさい」


「こんな大金……どうやって?」


「店の権利書とか、金になりそうなものを担保にしたり、成金貴族脅したりね。アタシ明日から無一文の宿無しだから。よろしくね」


 ハハッと軽く笑ったジャンヌに、私はほとんど無意識で抱きついていた。


「ちょっ!? アリスちゃん!?」


「ジャンヌ! ジャンヌありがとう! 大好き!」


 ギュウッと、抱きつく腕に力を入れる。

 私はジャンヌとリドに何も言わずに勝手なことしたのに、ジャンヌは怒りもせずに私達の為にいろいろ考えてくれた。

 

「凄く、凄く嬉しい!!」


「……こうしてると、ただの子どもね。ちょっと安心するわ」


 ポンポンとジャンヌが私の背中を優しく叩いた。



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