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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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26 救出してしまいましょう(1)

 遠回りになっても、わりと人通りの多い安全な道を選んだ為、王都からシャーリンの屋敷に帰ってくると、すでに真夜中になっていた。

 真夜中だというのに、屋敷の使用人達は私の帰りを待っていてくれ、侍女頭のオリビアが笑顔で「湯浴みの用意が出来ております」と、なんとも魅惑的な提案をしてくれた。


「ありがとうオリビア。今すぐ湯に浸かりたい気分だけど、どうしても先にリドに会いたくて」


「左様でございますか。リディア様なら、朝からずっと中庭で何やら特訓の様な事をなさっていましたが、つい先程自室に戻られましたよ」


 おお! しっかり魔法の訓練をしていたようですわね。……魔剣はどうなったかしら?


「ありがとうオリビア。あとでお湯をいただくわね」


 私は少しの期待に胸をときめかせながら、質屋で貰ってきた剣を携えてリドの部屋に向かった。

 淑女としては恥ずかしいくらいの小走りで屋敷の廊下を走り、階段を駆け上がると、リドの部屋の前に着いた時には、微かに息が上がっていた。

 私は息を整えるのも忘れて部屋の扉をノックする。


「リド! 帰ってきましたわ。入りますわよ?」


 すると、すぐに扉がガチャリ……と中から開けられて、疲れたような表情のリドが顔を出した。


「……ずいぶんと遅かったじゃねぇか……」


「夜分にごめんなさい。こちらの首尾について話したいのと、リドの成果の報告を聞きたいから、部屋に入れてくれないかしら」


「……………」


 リドがあまりにも暗い表情だったものだから一瞬躊躇ってしまったが、私は態とらしくコホンと咳払いを一つして答えを催促してみた。

 リドは無言のまま考えている様子だったが、暫くすると顎をクイっと上げて「……入れよ」と、部屋の中に招き入れてくれた。

 ベッドに腰掛けたリドの隣に座り、どこか様子のおかしい彼の顔を覗き込むと、フイッと顔を背けられてしまった。


「どうしました? リド。何かありましたの?」


「…………練習したぞ……」


「え? 声が小さくてよく聞こえなかったわ。ごめんなさい。もう一度言ってくださる?」


 もごもごと口籠るリドに耳を傾ける。すると彼はこちらの方に向き直って吐き棄てるように呟いた。


「魔剣だよ! 練習したんだよ!」


「ほんと!?」


「こんなことで嘘ついても、しょうがねぇだろ」


「それで!?」


「あ?」


 私は期待を込めた目でリドを見つめる。


「どうだった?」


「…………どうもなにも……できねぇよ。できるわけねぇだろ」


 そう言ったきり、リドは何やら考えてしまった。


「リド。私の敬愛する心の師匠の教えを貴方に説くわ。いい? ……“考えるな、感じろ”よ」


「は?」


「フィィィーール! です! 深く考えちゃダメ。できると信じてやってみて、コレで。ね」


()()?」


「そう、コレ」


 私は軽くウィンクして、質屋で手に入れたあの錆っサビの剣をリドに手渡した。

 リドは剣の柄を片手で持って手首を返しながらクルクルと回して両側をまじまじと眺め、首を傾げた。


「錆てる割に物凄く軽いな……おい、なんか光ってねぇか? コレ」


「!? リドにも見えますの?」


 帰りの馬車でトーリと確認したところ、どうやらこの光は見える人と見えない人がいるようで、馭者には只の錆びた鈍刀にしか見えないようだった。

 “伝説の剣”は王家が所有していたが、四百年前から行方不明。年代から考えても、魔王を倒した時のゴタゴタで紛失したようだった。

 トーリには、多分剣は本物の“伝説の剣”だから、文化財扱いで城の役人に持っていくから返せと言われたが、私の所有権を主張して絶対に渡さなかった。


「頑張ったリドにお土産よ。多分本物の“伝説の剣”」


「ハハッ、“多分本物”ってなんだよ。……つーか俺、お土産なんて初めて貰ったぜ…………ありがとな」


 リドの頬が薄っすらと紅く染まり、照れているのがわかる。

 リドが思いがけず、はにかんだように笑ったから、私も思わず照れてしまった。


「……うん。私も喜んでもらえて嬉しいわ」


 だから、タダで手に入れたということは、しばらく黙っておこうと思う。なんとなく。


「では、明日……というか、もう今日ですけれど、決戦に備えてしっかり寝てね」


 私がそう言って立ち上がろうとすると、突然リドに手首を掴まれた。

 力の行き場を無くして、私はまたボスンとベッドにお尻をついてしまった。


「な、何? どうしたの、リド」


 リドの右手がスッと伸びてきて、私の頬に添えられる。

 先程とは違い、リドの眼差しは真っ直ぐに私の両眼を射抜いた。


「信じて…………いいんだよな?」


「え?」


「お嬢のこと、信じて……いや、信じるぞ?」


 リドが傷ついた獣のような瞳で私を見据える。

 私はコクリと頷いて、リドの右手に自分の手を添えた。


「うん……いいよ。私は絶対にリドを裏切らない」


 その言葉に安心したように、リドの瞳の険がフッと和らいだ。すると、まるで我に返ったように、リドは慌てて私から手を引いて立ち上がった。


「わ、悪かった! 急に! なんでもねぇから、もう出てってくれ!」


「……うん。おやすみなさい」


「お、おーー! おやすみ……ッ」


 私はリドの顔も見ずに足早に部屋の外に立ち去った。

 リドに触れられた左頬が熱い。

 急に心臓がドキドキと早鐘を打ち始め、私はリドの部屋のドアに凭れかかってキュッと心臓の辺りの服を握り締めた。


「……急に男の子の顔になるんだもん。……反則じゃない?」


 左頬がまるで熱を持ったように、いつまでも熱かった。



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