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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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24 先立つものは必要です(4)

 王都までかなり馬車を飛ばしたが、到着まで半日もかかってしまった。

 その間、私はトーリと色んな話をした。主に、税だとか、福祉だとか、公共事業について。


「この間痛感しましたの。我が領の闇や問題点。どうやって貧富の差を埋めるか。……それからというもの寝ても覚めても改革のことで頭がいっぱいなのよね。王都に睨まれずに、如何にしてお金を稼ぐか……」


 私が馬車の窓から遠くを見つめて少し憂いを帯びた表情で呟くと、トーリは顎に拳をあててフッと呆れたように息を吐いた。


「お前はいつもそんなことばかり考えているのか? お前くらいの歳の女なら、どう着飾るかとか、何が流行してるかなどが気になるんじゃないのか?」


「あら。私だってそれなりにお洒落には気を向けていますけれど、私はまだ社交界に出るわけでもないので、それ程着飾る必要はありませんわ。それに……リドの王国奪還計画も進めていかなくちゃならないんですの。着飾ることを考える前に、考えなければならないことがいっぱいあって……」


「一つ忠告しておくが、あまり派手にやるとクーデターでも狙ってるのかと中央に疑われるぞ」


「わかってますわ。だから難しいんです。加減が」


 そんなことを話していたら、目的地に到着したようで、馬車は徐々に動きをゆっくりにしていき、やがて少し薄暗い路地の前で止まった。

 王都はとても活気があって陽の気で溢れているが、一歩中に入るとどこも似たようなものらしい。

 ジャンヌに紹介してもらった質屋は、人気のない薄暗い感じの路地裏にあるので、表の大通りに馬車を停めて歩いて行かなければならない。仕方なく馬車を降りようと腰を上げたところで、私は突然トーリに腕を掴まれた。


「どうしましたの?」


「……さっき言ったかと思うが、俺はこの街では特に顔が知られ過ぎていて動きにくい。だから俺は馬車を降りることはできない。……だが、いくら王都とはいえ、こんな路地裏は女一人で歩くには危険だ」


 そう言えばそんなようなことを先程言ってましたっけ? ジークフリート殿下にお顔がそっくりだとかなんとか……。


「なら、貴方が一緒にいらして下さい」


「……ッだから、俺は……ッ!」


「大丈夫ですわ。こうやって顎を少ししゃくれさせれば……」


 そう言って、私は自分の顎を少し前に出して見せた。

 前世で、有名芸能人がこうすると意外とバレないと言っていたのを思い出してやってみました。


「ね? こうしてしゃくれてみると、“ちょっとソックリさん”に変身しますでしょ? ……って、トーリ?」


「クッ……グハッ………ククク……!」


 トーリが口元に拳を当てて、身体をくの字に曲げて震えています……。


「ちょっと! 何、笑ってますの!?」


「ク……いや、すまない……お前の顔が……あまりにも衝撃的で……クク……」


 私を見て笑いが収まらない様子のトーリをジト目で見た後、私はさっさと馬車を降りた。するとトーリが慌てて後について馬車を降りてきた。


「ちょっと待てアリス。俺の顎も見てくれ。……どうだ?」


 しゃくれたトーリは、上手い事“トーリのソックリさん”になっていた。


「ええ、大丈夫です。“あれ? ちょっと似てるな”くらいになってますわ。では、行きますわよ」


 私は、顎をしゃくれさせたトーリと一緒に路地裏に入り、ジャンヌに教えてもらった質屋をさがした。

 そこは、壺に入ったガマ蛙の絵が木彫りで描かれている看板が目印とのことで、私達は直ぐに見つけることができた。

 呼び鈴を鳴らすと、中から「どうぞ」という低い声が聞こえてきたので、私は戸惑いながらそっとドアを押した。

 ドアを少し開けて、隙間からそっと中を覗く。そこはあまり広くなく、ガラクタのような物が壁に沿って所狭しと並べてあったり掛けてあったりして、更に室内を狭く見せていた。


「奥まで入っておいで、お嬢さん」


 店主らしき男が奥のカウンターに座っている。促されるままに店内に入って行くと、薄暗くてよくわからなかったが、近付いてみて見た彼の顔は、表の看板のガマ蛙に激似だった。


「……ジャンヌの紹介で来ましたの。査定して頂きたいものがあって」


「これはこれは。ジャンヌ様のご紹介ですか。なるほど……これはまた……」


 ガマ蛙店主は立ち上がり、カウンター越しに私を頭からつま先まで舐めるように見た。不躾な視線は、あまり気分の良いものではないけど。その視線に、なんとなく邪なものが混じっているように感じるのは、私の気のせいだろうか。


「その美しい薄桃色金髪(ストロベリーブロンド)……この世に二人と居ない……シャーリン公爵家のご令嬢、アリス様とお見受けしましたが……」


 流石、天下のシャーリン公爵家令嬢“アリス・ローズ・シャーリン”。有名人ですわね。

 私自身、この髪色が珍しいなんて初めて知ったのだけれど。お母様から受け継いだ髪色だけど、確かにお母様以外で同じ髪色の人物に会ったこともなければ噂を聞いたこともない。


「ご察しの通り、私はアリス・ローズ・シャーリンですわ。さっそくで申し訳ありませんが、こちらがお願いしたい品ですの」


 私は手持ちの鞄から重厚な造りのジュエリーケースを取り出して、カウンターの上に置いた。

 さて。イロをつけて引き取ってもらう為に……前世の記憶を思い出してからは初の魔法を使うとしますか。……こんなガマ蛙さん相手に、大変不本意ですけれど。

 私が意を決して、ジュエリーケースの上に手を添えたまま上目遣いで店主を見遣ると、彼はその私の手に突然自分の手を重ねてきた。


「!?」


 店主の指が私の肌の感触を確かめるように妖しく蠢いたので、私はゾッとして反射的に手を引っ込めた。


「な……なんですの!?」


 そんな狼狽える私を見て、店主は双眸を崩してニタァといやらしい笑みを浮かべた。


「わたしは成熟した女性には興味が無くてですね……つまりは、貴女のような幼い女の子が大好きなんですよ。どんなお品でも、たっぷりイロをつけさせて頂きますよ……貴女次第でね」


 こ、こいつ……ッ!! 幼女趣味(ロリコン)かーー!!

 ジャンヌ……やってくれましたわね……。


 店主の醜悪なにやけ面への嫌悪感で、私は眉間に皺を寄せ、ヒクヒクと顔を引き攣らせるのを止めることができなかった。



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