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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
21/88

20 魔剣はあります!(5)


 そう、あれは私が五歳の時……お父様に呼ばれて行った部屋で、ジャンは裸で後ろ手を縄で縛られていた。


『姫、よく来たね。実はさ、このコ……飽きちゃったから娼館に売ろうと思うんだけど、ただ売るだけじゃ面白くないから、どこか姫にあげようかと思って』


『え……ッ!? そ、そんな……』


 お父様の言葉を聞いて、ジャンはガタガタと震え出した。


『姫、どこがいい? 腕? 脚? 目玉? それとも……声帯とか?』


 ジャンの顔色は真っ青だった。知っていたのだ。今まで、そうして娼館に売ると言って、本当に売られた者はいない事を。

 この二年間、解剖やら何やらされて壊れてしまった者の後始末をしていたのは、他ならぬジャンだったから。

 私はハァと溜息を吐いた。


『……またですの? お父様、彼の魔法が面白いって言ってましたから、彼のこと気に入ってるのかと思ってましたわ』


『うーん……そうなんだけどさ。その能力が気に入って連れて来たのに、このコ聴いたことない声は再現できないっていうんだよ。だから魔法に関しては専ら姫専用だったの。僕にとってはただの役立たず』


 私はジャンを見た。怯えた目に涙が溜まっている。……きっと彼も思っていたに違いない。二年も続いたコは珍しかったから。もしかして“自分は特別なんじゃないか”って、勘違い。

 ……そういう私だって、いつお父様に切られるか……わかったもんじゃないけれど。


 ジャンはお父様と同じ風の属性の魔力を持っていて、聴いたことのある“音”を、彼の声帯で再現する事ができる能力を持っている。彼は私のお母様とお会いした事があるらしく、私は時々……眠る前などに、彼にお母様の声を聞かせて貰っていたのだ。

 だからだろうか……私は珍しく……そう本当にほんの少しだけ、彼がいなくなることを“惜しい”と思ったようだった。


『お父様、私いいこと思い付きましたわ。私残念ながら今は何も欲しくないんですの。だからどうでしょう。役立たずの身なら身体に大きなバッテンを描いて、娼館の前に捨ててきたらどうかしら?』


『ふーん……なるほどねぇ……それもいいかもねぇ。勿論バッテンは姫が描くんだよねぇ?』


『ええ。もちろん』


 私はニッコリと微笑んでみせた。

 そうして私は、渡されたナイフでジャンの身体を抉った。

 掌に伝わる肉を切り裂く感触と、耳を(つんざ)くジャンの悲痛な叫び声が、プツン……ッと、また私の中の何かを引き千切ったのだった。






「オズワルドは言ってた……姫は顔も声も髪も、魔力の属性さえも全部妻に似てしまってつまらないから……性格(なかみ)だけでも自分ソックリにしたいんだ……って。ほんとにアンタら親子はそっくりだよ……アンタも俺の胸にナイフを立てながら……笑ってた……」


 そう、アリスの中身(せいかく)はお父様によって造られたものだ。そうしなければ、とっくに狂ってしまっていたから。……ううん。アリスはもうすでに狂っていたのかも。


「…………なあ、教えてくれ……お前があの時……俺の身体をいらないと言って、妙な案をオズワルドに提案したのは……俺を……助けようとしてくれたからか?」


「!?」


 ジャンの瞳が揺れている。

 ここで『そうだ』と言えば……貴方は(アリス)を見逃してくれるの?


 私は小さく頭を横に振った。


「違うわ。貴方を助けようなんて考えてなかった。……私はただ面白そうだったから、お父様にそう提案してみただけ。……実際は、ちっとも面白くなんかなかったけど……」


「……そうか……」


「……うん……そうなの……わた……し……最低……ほんとに……う……ッ……く……」


「!?」


「……ごめ……ん……ッ……ごめんなさい……ジャン……ッ……」


 目尻からこめかみに向けて、涙が勝手に溢れた。一度溢れた涙は、後から後から流れ出て止まらない。

 ジャンは驚いたように目を見開いて、泣きじゃくる私を見つめた。そして、私の手首を拘束していた手を放すと、指先で涙を拭ってくれた。


「ジャン……?」


「……お前……ほんとにあのアリスか……?……アリスが人前で泣くところなんて……初めて見た……ましてや……謝るとこなんて……」


 ジャンは戸惑いを隠せないといった顔でそう呟くと、私から身体を退かしてこちらに背を向け、ベッドの端に座った。


「ただの気まぐれでも、それで俺は助かったんだ。……あの時……たかだか五歳の子どもの力なんて大したことなくて、態と大袈裟に声を張り上げて死にそうな演技をしてみた」


「……え?」


 がばっと起き上がって、私はジャンの背中を見つめる。彼の背中は、泣いていた。


「……シャーリン家に……いや、オズワルドに復讐する事だけを目標に……闇の世界にも足を染めて……それなりに成果を上げてきて……ここにきてアンタに会った……今こそ復讐の機会(とき)だと思った……アンタを陵辱してめちゃくちゃにしてやろうと思ったのに……クソッ……そんな風に泣かれたら……手なんて出せないだろ……」


「……残念ながら、私を貶めても……お父様には大した打撃にはなりませんわよ」


 チクッ。……自分で言ってちょっと胸が痛んだ。


「……そうかな。アンタが思ってる程、オズワルドはアンタに無関心じゃないよ」


「……そうかしら……」


 沈黙が流れる。

 ふと、静寂を打ち破るように、ジャンが「ふあぁーっ」と両手を上げて、一つ大きな伸びをした。


「あーあ。一人娘陵辱作戦は失敗。次考えようっと! 安心して。もうアリスのことは狙わないから」


 ジャンは何か吹っ切れたのか、もうすっかりジャンヌに戻っていた。

 ああ。彼もやっぱり、お父様の被害者なのね。

 ジャンヌはベッドから立ち上がると、こちらを見下ろして微笑んだ。


「さて。アタシのこと、愛しのお父様に告げ口する? そしたら、ここでお別れだけど」


 私もジャンヌを見上げると、不敵に笑ってみせた。


「あら。お父様は女の人には全く興味はありませんわ。言うだけ無駄です」


 私の言葉に、ジャンヌはフフッと笑う。


「そう……アタシ、表向きは娼館で客とってるけど、本当は情報屋とか暗殺とかを生業にしてるのよ。何かあったら頼ってもいいわよ。アリスには借りもあるし、何でもやってあげる」


 そう言って、パチリとウィンクをされたけど、私にはもうジャンヌはすっかり男の人にしか見えない。


「……うん。ジャン……それ気持ち悪い」


「ちょっとぉー! ジャンじゃなくてジャンヌね。あ! そうだ。アナタの連れの坊や達には、間違ってもアタシが男だって言わないようにね!」


「……そうね。なんか面倒くさいことになりそうですものね……」


 なんとも頼もしい仲間(?)が一人増えました。

 ガイのことは誤算だったけど、ここに来て良かったかも……と思う反面、私(と、お父様)には外に出れば七人の敵がいるのね……と、恨みをかっていることの多さを、改めて強く意識することになったのだった。




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