12 いろいろ思い出しました(2)
前世の記憶に想いを馳せていると、自室の扉がノックされ、ハッと我に返った。
「アルフレッドです。リディアへの講義が終わりましたので、参りました」
「ああ。もうそんな時間なのね。入っていいわ」
窓の外に目を向ければ、西陽が射し込んできていた。どうやら私は考えごとをしていて、貴重な時間をだいぶ潰してしまったらしい。
「失礼します」
礼と共に入って来たのは、アルフレッドとリド、そして見知らぬ青年だった。茶色の髪に碧い瞳。少し幼さを残しながらも精悍な顔立ちをしている。私は思わず、不躾な視線を見知らぬ彼に向けてしまう。すると彼はその顔に微笑を浮かべると、再び礼をして一歩前に出た。
「初めてお目にかかる。俺の名はトーリ・エンイアー。貴女がシャーリン家の者らしく、何やらこそこそと……いや失礼、偉大なる宰相閣下であるお父上の真似事をし始めたようで。そのお手伝いを影ながら務めさせていただく事になった」
「……まぁ……これはこれは……」
とても慇懃無礼な態度でそう言った彼は、嘲りにも似た笑みを浮かべている。
チラリとアルフレッドの方を見ると、彼も口角を上げて薄く笑っていた。
この状況を全く歓迎してないってご様子がありありと感じられるわね。それにしても、何でこんなに偉そうな態度なのかしら?まぁ、明らかに年下の小娘に使役されるなんて、嫌々承諾したのでしょうけど、少しは隠す努力をしていただきたいものだわ。こんなんじゃ、すっごく使いづらい……。
尊大な態度に対して、同じように返したのでは大人気ないので(実際はまだ子どもですけれど)私は極上の笑顔を浮かべてドレスの裾を摘み、淑女の礼をとった。
「はじめまして。わたくしはアリス・ローズ・シャーリンと申します。この度はわたくしのような若輩者の為にお力をお貸しいただけること、とても感謝しております。どうか、物知らぬわたくしにご教授くださいね」
私の丁寧な挨拶を見て、トーリは少し驚いたような顔をした。
もしかしたら、今までの私のことを知っているのかもしれないわね。碧い瞳は、王家の血筋を引いている特徴だから、王家の末端の方なのかもしれない。
そういえば顔立ちも、第一王子に似ている気がする。……スチルでしか見たことないけど。しかも八年後の。
実はアリスも、王家の血筋を引いているので、同じ碧い瞳を持っている。お母様が現国王の年の離れた兄の一人娘だったのだ。
王家の血を引く女性の中で、一番高貴だったお母様が、何故降嫁してまであんな碌でもないお父様と結婚したのかは謎だ。お父様の陰謀であることは間違いない。
「早速の頼み事で申し訳ないのですが、リディアの生き別れの妹を探して欲しいのです。リディアは私のとても大切な人なの。どうかお願いします」
私はアルフレッドとトーリに対して、深々と頭を下げた。そんな私を見て、二人がまた目を瞠る。
「……大切な人とは……どういった関係だ?」
トーリが私とリドを交互に見ながら、訝しげに尋ねてきた。
「将来を誓い合った仲ですわ」
「てめぇ! 誤解を招くような言い方すんじゃねぇ!」
間髪入れずにリドの突っ込みが入る。そんな必死に否定しなくても良いのにー。
「あら。誤解じゃないわよね? リドは私を攫ってお嫁さんにしてくれるんだものね?」
「!?」
ここ最近、鏡で見て研究してみた“必殺! 美少女の上目遣い”を試してみた。ポイントは目をうるうるさせることね。
リドは一瞬真っ赤になって固まってしまったが、すぐに我に返ったように私の頭を両拳でグリグリしてきた。どうやらリドに必殺技は効かなかったようだ。
「キャー! 痛い痛い痛い! もぉリドのいじわるぅ」
「うるせぇ。お嬢は俺が命の恩人だから奉仕してぇだけだろ? 嫁とか言ってんじゃねぇ」
私たちがやいのやいのやっていると、突然トーリにバリッと間を引き裂かれた。私たちはポカンと口を開けて彼を見る。彼の表情はやや険しく、眉間に皺が寄っていた。
「……イチャイチャしているところ悪いが、“嫁”とはどういうことだ? お前は王太子の婚約者だろう? そんな勝手なことは許されないはずだ」
「あ? アンタには関係ねぇだろ? あとイチャイチャなんてしてねぇ」
「関係ある! 俺は…………王家に縁のあるものだ。王太子の顔に泥を塗るような行為は許せん!」
なるほど、そうよね。表向きは、私は王太子の婚約者ということになっているから、この反応が正しいのよね。そして、私が王太子と婚約したことが、もうすでに広がってしまっていることもわかった。
「それには及ばないと思いますわ。私近々殿下から婚約破棄される予定ですから」
「……は? ……そんな話は聞いていないが」
「ジークフリート殿下は私のことがお嫌いなのです。ですから、どんな手を使っても婚約破棄を狙っていると思われるので、あとは私が小さな失態でもすれば、それを口実に必ず向こうから言ってくるはずです」
私は身体の横で、グッと拳を握り締める。そう。あくまで“小さな失態”ね。あんまり大きくて目立つのは駄目。トーリともう少し親しくなったら、ジークフリート様の弱点とか聞いてみよう。
そんなやり取りをしていると、隣りから盛大な溜め息が聞こえてきた。
「そろそろ本題に入りませんかね? リディアの妹君の行方、わかりましたよ」
「「えっ!?」」
そのアルフレッドの言葉に、私とリドが声を上げたのは、ほとんど同時だった。




