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悪役令嬢は魔王様の花嫁希望  作者: 星 くらら
第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
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9 婚約されてしまいました(4)

 窓から月明かりが入り込む廊下を、リドの手を引き歩いていく。この時間なら、多分は()は自室に居るだろう。

 夕食後に書庫に耽って、その後お父様に呼び出されて、その後自室でごちゃごちゃとやっていたせいで、ずいぶん遅い時間になってしまった。


「……はぁーー……」

 

 これから会う人物の事を思うと気が重くて、思わず深い溜め息が出てしまう……。

 同じ屋根の下で生活しているけど、お父様の次に極力会いたくない人物……何故ここに居るのかは何となく理解できるけど、出来ることなら此方(こちら)から接触するのは避けたかった……。

 私は使用人達に部屋が与えられている方の棟に向かう。やたらと広い屋敷で、端から端に行くのがしんどいわ。ほら、私、筋力ないし。一応、記憶戻ってからは毎日筋トレしているのだけど。

 私は前世、中学、高校と空手部に所属していた。そして、高校の頃からバイトに明け暮れる毎日の中においても、筋トレだけは欠かさなかった。だから、いくら八歳だといっても、こんなプヨった身体は情けなくて泣けてくる。


「おい。どこ行くんだ? お嬢」


 私に引っ張られるままについて来たリドが、キョロキョロと辺りを見渡す。リドは、傷が癒えるまで……と、未だに部屋は私の隣りを使わせているから、こっちの棟に来るのは初めてらしい。


「……できれば会いたくなかった男のところよ」


「屋敷の中に居る奴なのか?」


「ええ。お父様の優秀な手駒の一人なの」


 そう、そして、なんと! 驚くべきことに!!

 彼はゲームの攻略対象者なのよー!!

 こんな事ってある? あーー! ホント何でアレがウチに居るのかしら!

 あの……脚フェチ変態男が!


 ゲームしてても、「君の脚は最高だ」とか「やっと巡り会えた理想の脚だ」と、クラリスちゃんの脚ばっか褒める変態。スチルも、クラリスちゃんの太腿舐めて恍惚としてたのを思い出す。

 最後は何とか「脚以外のところが気になった女性は初めてだ」と不可解な台詞と共に、一応ハッピーエンドに落ち着く。


 そんな変態なシナリオを最後までプレイできたのは、ひとえに彼が【迷鳥】唯一の眼鏡キャラだったからだ。

 眼鏡の下に隠れた、青みを帯びて冷たく光る黒い瞳。長身で、長めの黒髪を後ろで一つに結ぶそのクールな姿からは、脚にしか欲情しない変態の片鱗は見えない。


 現在の彼は、トレードマークとも言える眼鏡をまだかけていなかった。そのせいで、数日前に廊下ですれ違った時、一瞬彼であるとは気付けず、向こうからの挨拶に笑顔で挨拶を返してしまった。

 その私の笑顔に、驚きの表情を覗かせた彼が気になり、こっそり名簿から名前を確認して気付いた。

 『アルフレッド・ニース・ザンダー』ザンダー伯爵家次男。

 その名は私に、前世の記憶を鮮やかに蘇えらせた。間違いない。彼は若い頃の変態脚フェチ眼鏡だ! ……と。


 アルフレッドの部屋の前に着き、質素な造りのドアをノックすると、「はい」と中から落ち着いた声が聞こえた。

 私は思い切ってドアを開けて中に踏み込む。すると机に向かって座り、驚いた顔をこちらに向けたアルフレッドと目が合った。


「ちょっとおじゃまするわね。アルフレッド」


「……これはこれは、アリス様。どうなさったんですか? こんな場所に足を運んで下さるなんて」


 アルフレッドは椅子に座ったまま見上げるように問い掛け、首を傾げる。先程までの驚いた表情は、もうない。

 確かに私は、今まで一度も彼を気に掛けた事などなかった。ましてや、使用人の部屋まで来るなんて異様だ。……彼を気に掛けなかったというよりも、彼が極力()()()()()()()()()()()()過ごしていたのだろうけど。


「実はね……貴方の情報収集能力を見込んで頼みたい事があるのよ」


 私の言葉に、アルフレッドはピクリと片眉を上げる。


「それならば、お父様に直接頼まれた方が良いのでは? 公爵様には私のような若輩者より、もっと優秀な者がついておりますから」


「それは駄目。お父様には知られずに色々進めたいの。だから貴方が適任だと思って」


「…………それはどういう意味ですか?」


 急に不穏な空気が流れる。アルフレッドは現在十六歳。ゲーム開始時期よりも随分若いが、青みがかった黒い瞳は健在で、そのクールな切れ長の目で見上げられるとゾクゾクしてしまう。


「ふふ。それを私に言わせていいの?」


 可愛らしく微笑んでみる。目は笑ってないから不気味でしょうねぇ。


「…………お父様に知られたくないのならば、ここで頼むべきではなかったですね。残念ながら、屋敷の中は全て公爵様に盗聴されています」


 アルフレッドも唇の端だけで笑う。そういう悪い顔好きよ。


「知ってるわ。お父様の風の魔法でしょ? でも大丈夫なのよ。もし魔法が使えるなら、私とっくに貴方に魅了(チャーム)の魔法使ってるから」


 今まで後ろで黙って聞いていたリドが「あー……それで俺か……」と小さく呟いた。私はクスッと笑って、リドの背中を押し彼を前に出した。


「紹介するわね。私専属の執事になったリディアよ。彼ね、魔法を打ち消す能力を持ってるの。半径1キロ位だから、屋敷の中はだいたいスッポリ収まってるわ。だから、お父様にこの会話は聞こえないのよ。……貴方が国王側のスパイだっていう事もね」


 アルフレッドが小さく息を飲むのがわかった。



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