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 陽はとうに没していた。

 天を覆う深淵の闇の中に、幾千とも知れない星々が煌めいている。中天には、黄色い帯が東西に流れていた。それはこの惑星を輪のように取り巻いている幾千もの星屑たちが、太陽の光を反射して出来た帯だった。

 「この世界」の人々は、それを星の帯―――〈星帯(せいたい)〉と呼んでいる。

 その星帯に照らされている地上に、一つの城が立っていた。あまり大きな城ではない。地方貴族の館でしかないのだから、当然であった。

 城内は極度の混乱に包まれていた。

 銃剣を着けた燧石(フリントロック)(・ガン)を手にした分隊規模の兵たちが、城主の居室のある三階に駆け付けると、廊下はもう死体の山だった。

 居室の前にいるはずの衛兵たちは皆殺しにされていた。

 駆け付けた守備兵たちが城主の私室の扉を開ける。

 途端に銃声が響き、最初に部屋に突入しようとした兵士の眉間に穴が開く。後頭部が砕け、内蔵物が盛大に後方へと飛び散った。血と脳漿(のうしょう)、頭蓋骨の破片を浴びた後ろの兵士が悲鳴を上げる。

 部屋の中には、男が一人、立っていた。間違っても城主ではなかった。

 その男は小柄で、身長は一六〇センチを少し越えた程度しかない。黒ずくめの、動きやすさ優先の服を着、革帯には何丁のもの短銃を下げ、腰の後ろで交差させるように二本の短剣を括りつけていた。

 右手に持っている剣は、将校が使うような鋭剣(サーベル)とは違う。直剣で、両刃の剣だった。剣からは血が滴っている。

 男は突入してきた兵士たちを見て、皮肉っぽく口元を曲げる。彼は血に染まった頬を、袖で拭った。


「ご苦労なことだ」


 表情を裏切らぬ口調で、その男は言った。声はまだ若かった。

 血にまみれ、無数の死体に囲まれ、そして多数の兵士を前にしながらも平然とした態度を取っている男。

 まったく異常としか言いようのない相手を前に、兵士たちの間に動揺が走った。

 次の瞬間、男は腰から新たな短銃を抜き、手近な位置にいる兵に向かって発砲する。眉間を撃ち抜かれた兵士が、折れた棒切れのようにひっくり返った。


「―――撃てぇ!」


 分隊長を務める曹長が怒鳴った。

 男は床を転がるようにして照準をよけると、即座に立ち上がり兵士たちの懐に飛び込んだ。

 一人の兵士の喉に剣を滑らせる。男の手には、肉を斬る時のわずかな抵抗感が伝わった。気持ち悪さは感じない。

 斬られた兵士の喉から血が噴き出す。男は斬り捨てた相手を一顧だにしなかった。風のような、俊敏な獣のような動作で新たな獲物に襲いかかる。

 相手の腹に剣を刺し、引き抜いた勢いの、のけ反るような姿勢で次の相手の喉を切っ先で抉る。左手で腰から短銃を抜き、素早く狙いをつけて引き金を絞る。

 使用済みの短銃からは即座に手を離し、装填済みの短銃を革帯から抜く。短銃はそれぞれ革紐で腰帯と繋がっているので、失くす心配はない。

 動作には一切の無駄がなかった。ただ人を殺すためだけに洗練された動きであった。

 最後の相手の喉笛を切り裂くと、男は剣を振って血を払う。

 新たな足音が複数、近づいてきた。

 これ以上の長居は無用だと、男は判断する。素早く剣を鞘に収めると、露台に向けて駆け出した。

 露台に出ると、一瞬だけ背後に転がる死体に目を向けた。


「いつか地獄で」


 それだけ言うと、男は露台の柵に足をかけ、勢いよく飛び降りた。

 筆者が昔、戯れに書いたものを投稿出来るような形に編集し直して執筆した小説となります。

 まだ小説というものに真面目に取り組んでいなかった頃の、構想と書きたいシーンだけを書き殴った小説未満の作品を、この機会に改めて執筆を開始してみました。

 三万字前後の中編程度を予定しておりますので、それまでお付き合い願えればと思います。

 詳しくは「活動報告」にて。


 また、現在連載中の拙作「東京テンペスト」もよろしくお願いいたします。

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