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関空物語  作者: 銀の筆
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4.空(そら)


 私の名前は空子。父が空を飛び回って活躍する人間になってほしいとの思いでつけた名前だそう。でも、『空子』はないでしょ、せめて『空』とか『翼』にできなかったのかと、子供頃よく父に食ってかかった。この名前でいじめを受けたことはない。でも、空子と呼ばれると私は機嫌が悪くなった。

だから、私は空としか呼ばれない。

 命名のセンスの無さ以外父を嫌いに思ったことはなかった。だから、父の思いに答えようとCAを目指し勉強してやっとこの航空会社に就職できた。

 意外に私は、良い子なのかもしれない。

 しかし、入社1年目のCA訓練中に自分が高所恐怖症であることが分かり、地上勤務へと変更。

 そんな私でも、飛行機に乗れないことはない。でも、窓側は無理。飛行機に乗るときは、いつも通路側で窓から外は見ないようにしていれば大丈夫。


 父はそんな飛べなくなった私を気遣い


 「いや、CAさんになったらなったで、空子の乗った飛行機が落ちないか心配だし、地上勤務も立派に空に関わっている仕事なのだから良いじゃん」


と、私の傷に塩を塗っていることも分からずに慰めた。

 そして、用もないのにやたらと千歳空港に来るようになり、家の食卓に空弁が上がる頻度が増えた。

 地上勤務の一日は、忙しくあっという間に一日が終わってしまう。でも、この仕事は人とかかわることが多く、特に空港内で困っている人の手助けができたときは達成感を感じる。


・・・


 今朝は台風が北海道に接近してきていて、欠航が多くなっている。地上スタッフは皆、欠航する便の対応でてんやわんやだ。今も最後に残った家族連れが台風で飛べないことを理解してもらうのに15分も説明させられ、私の心は台風より荒れていた。

 そして、この忙しいときにズボンのチャックを閉め忘れ、中から『白旗』に見えるハンカチみたいなものを出している30代の男性が私のカウンターに向かってきた。


 (いや、いや、なんで私のところへくるの、お兄さん)


 夢遊病者のようにこのカウンターに押し掛けてきたこのお兄さんは、一便前の飛行機に乗せろと懇願してきた。あげくに口から出まかせなのか、受け狙いなのか『荷台でも良い』なんていう始末。

 あきれて、物も言えない。でも、一応、確認はしてみる。


 「ん、なにぃ」


 (名前が銀太郎って・・・)


 このお兄さん、若いのに『銀太郎』って、昔話か。この昔話に出てきそうな名前で若いころ苦労したのだろうな。私も『空子』で苦労してきたせいか、ちょっとだけ哀れに思えた。

 すると、なぜだか急に『荷台』という言葉が、おかしくて笑ってしまった。


 「荷台!?」

 「クスッ」

 「そう言われましても、荷台にお乗せすることはできません」

 「クスッ」


 そういいながらも、私は前の便の空席を探してみたが、残っているのはファーストクラスの一席。


 (どうしよう)


 私は、『白旗』と『荷台』で笑わせてくれたこのお兄さんを助けたくなってきた。このお兄さんを追加料金なしでファーストクラスに乗れるように、無理を承知で上司に確認を取ってみると、あっさりOKが出た。


 このお兄さん、喜ぶかなと思いつつも、ズボンのチャックからはみ出した『白旗』をどう注意したらいいのだろう。

 私は、それを考えながら白旗お兄さんを搭乗口へ誘導するために走った。




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