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関空物語  作者: 銀の筆
4/5

3.台風


 札幌の家を出たのは午前7時。

 ニヤつきながら車を運転し、千歳空港には8時ちょっと前に着いた。

 気が付くと、俺の『社会の窓』であるズボンのチャック部によだれが落ちた跡が染みになっていた。俺はニヤ付きながらヨダレも垂れ流していたのか。


(まいったな)


 このままじゃ、かっこ悪い。俺は染み抜きを試みることにした。

 一応、チャックを開けてズボンの内側に白いタオルを入れ、外側からペットボトルの水を浸した別の白いタオルでパンパンと染みになった部分をたたいてみる。すると以外にもヨダレの後はすぐにわからなくなった。あとは乾くのを待つだけだが、外は雨だし飛行機に乗り遅れたら困るので、雨に濡れた体で行けばばれないだろうと考えわざと雨に当たりながら駐車場から空港に入った。



 千歳は、けっこうな量の雨が降っていて風もかなり強かったが、空港内は外の天候を全く感じさせなかった。午後は台風が近づいているせいなのか、出発を繰り上げようとする人なのか、いつもより人が多いように感じた。

 お土産屋さんやお弁当屋さんは、忙しそうに開店の準備。

 『空弁』の看板が俺の胃袋を刺激してきたが、大阪の昼飯が待っている。


 (ガマン・ガマン)


 そんなことを考えながら航空会社のカウンター近まで来たとき、いつもなら搭乗手続きなどでごった返しているカウンター付近に人影が全くないのが見えた。ただ、一組の家族が女性スタッフに何やら大声で怒鳴っているのが聞こえた。やがて、その家族は右側の方へ歩き出し、その先にある人だかりの中へ消えていった。

 この光景を見て、不安が込み上げてきた。ひょっとしたら、欠航してるのか。その不安を抱いたままカウンターの上部にある発着案内をみると、予定の『9時30分:札幌発大阪便』から後の便がすべて欠航となっていた。


 「ゲゲっ」


 俺は愕然とした。

 せっかくの彼女に会えるチャンスを台風に邪魔されるなんて。

 妄想とは変なもので、自分で自由に膨らませることができる反面、何かの拍子で一瞬にして消えることがある。まさに今がその時だ。朝から膨れ上がっていた俺の妄想は、この出来事で一瞬にして消え去った。

 頭の中が真っ白になり、次の展開が考えられない。


 (どうする)

 (帰るか、台風の状況を見てこのまま空港に待機するか)


 しかし、俺の目的は大阪で昼飯を食うことなんかじゃない!

 おれの本当の目的は彼女に会うことだ。


 (なんとかして、この目的だけは果たしたい・・・)


 俺は、台風が過ぎた後すぐに大阪へ行く方法はないか、いろいろ考えたが手段は無かった。

 でも、どう考えても大阪の昼飯も、彼女とのご対面も、その後にあるかもしれない〇〇も、今日は無理だ。

 俺は、発着案内のパネルを見て呆然と立ち尽くしていた。


 その時、一便前の案内が無情にも空港内に響き渡った。


 「〇〇〇〇エアラインより、お知らせ申し上げます・・・」

 「・・08時30分、札幌発大阪便の搭乗手続きを間もなく終了いたします」

 「搭乗手続きのお済でないお客様は、お急ぎで手続きをしてくださるようお願い申し上げます・・・」


 そして、俺は、俺の閉め忘れた『社会の窓』から、染み抜きに使った白いタオルの角がちょこんと顔を覗かせ、呆然と立ち尽くす無様な仁王立ちのチャーミングなアクセントになっていたなんて、まったく気づいていなかった。




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