4話 乙女ゲーム
(そんじゃあ乙女ゲームの話すんね)
そういえば、乙女ゲームの事を聞こうとしたらカイル様が保健室に入って来て後
で聞く事になっていたなと思い出した。
今から聞かされる話は下の通り。
うちが前世の時にやってた乙女ゲーム、『乙女の涙』、女の子が主人公である事
が絶対の女性向け恋愛ゲームで……そういえば、この世界にはゲームとか無かった
よね。例えるなら恋愛小説、だけど違うのが、その物語の主人公でありヒロインの
言動や行動を自分で選べる所。それによって結ばれる人が変わったり、友達のまま
で終わったり、悲しい結末で終わったり、やる人の腕が試されるね。
で、乙女の涙っていうゲームで舞台はこの国、魔法で栄えたと言われるルミナス
王国。うちがいた世界は魔法なんて空想上の物語って言われてたけど。
そして、この物語の主な登場人物はヒロインの少女と5人の貴族、悪役令嬢のリ
リアさん。この8人だよ。
ストーリーはこう、ルナミス王国にある神聖な場所、「聖なる泉」、そこは異世
界から人を召喚できる場所だった。勿論、故意でやってる訳じゃない。聖なる泉が
光ると必ずそこに召喚された異世界人がいて、召喚される際に能力を与えられる。
そして、その者を「召喚されし者」と呼ぶ。
そんなある日、聖なる泉が光った。そこに城の人が駆けつけると制服を着た女の
子、つまりこの物語のヒロインが居た。
ヒロインが召喚された際に持った能力は「治癒」、どんな傷や病気でも治せる彼
女は貴族が通う学校、ロベリスへ特待生として通う事になった。庶民だった彼女に
は貴族のマナーやダンスが分からない。そんな時、落ち込む場所によってだけど出
会うのが攻略対象である5人の男。
カイル・ルミナス
強引な俺様系の生徒会長、金髪に緑色の目で攻略対象だから当たり前だけど、か
なり顔が整っている。あと、ルナミス王国の王となる人なので学校でのスクールカ
ーストはぶっちぎりの1位、彼を見て惚れた女は星の数ほどいる、それを見て涙を
流した男も星の数ほどいる。
アーノルド・ルイス
沈着冷静な生徒会副会長、父親はこの国の王を支える宰相でカイルと小さい頃か
らの仲で1番信頼されている人物、青色の長い髪の毛を1つにまとめて、髪と同じ
青い目をしている、それと顔は頭が良さそう、実際に頭良いけどね。それと、意外
に甘い物好き。
レオ・エルドレッド
不真面目な生徒会会計、親が侯爵、そして三男でもあるので自由奔放に生きた結
果がこれ。そんな奴に会計やらして良いんか? って思うけど此奴は意外と仕事が
出来る男。言葉で相手を丸め込むのが上手い。なので部活の予算で不満を言われて
も自慢の言葉遣いで乗り切る男。赤い髪に黄色い目をしていて、見た目通りのチャ
ラい人。
ルーク・イーデン
いつも眠そうな生徒会書記、イーデン伯爵家は昔からルミナス王国の剣と言われ
ている程、剣術に長けている。ルークの親父も国中に名を轟かせた騎士で、ルーク
を男らしく育てようとした結果、反抗してこうなったらしい。書記は書くだけと思
っていたが、意外とやる事があって切実にやめたいと言ってる。白い髪に赤い目、
何故かいつも寝ている筈なのに目の下に隈がある。
シモン・エイベル
弱気で守ってあげたい生徒会庶務、強気な女ばかりの家で育ったのでパシりやす
……お使いをさせやすい。親が商売で成功して男爵の爵位を与えられ、このまま成
長すれば、いずれは男爵の爵位が貰える予定。生徒会の中では、いや、学校での立
場は低い。髪は茶髪で目も黒を含んだ緑色の目に、大きな丸い眼鏡をかけてる、驚
かしたりすると必ず涙目になり、攻略対象の中で1番モブらしい容姿だ。
(次がこの物語であり主人公の大西さん、確か名前は桜さんだっけ?)
名前は好きなように決めれるんだけど、此処じゃ桜なんだね。
大西 桜
桜さんはうちがいた世界とは別の世界の日本人なんやけど、ふわふわのクリーム
色の髪の毛、ピンクの瞳をしていて、大人しい性格だけど周りに流されない人。先
生に頼まれて書類を運んでいたら床が急に光り気がついたら……な異世界転移をし
たね。それと魔法の才能がとてもある。
そして、カイルを攻略しようとすれば出てくる令嬢。
リリア・デイビス
公爵令嬢のリリアさんは、小さい頃にカイルと婚約をして以来、不純な動機で近
づく女と男は全て抹殺、ましてや恋心を持って近づく女には容赦がない。デイビス
家は魔法に長けているが、リリアさんは魔法が使えないのでコンプレックスになっ
ている。
他にリリアさんみたいに権力のある悪役令嬢は居ないが、それ以外の攻略対象を
攻略しようとすれば他の令嬢が召喚されし者のヒロインを妬んでの虐めで、それを
きっかけに結ばれる。
(……と、大体がこんな感じ?)
「……そのようですわね」
今の話を全部信じた訳ではないが、少しだけ引っかかる部分がある。
「貴方の目的は何ですの? 悪役と言われるこの私の体に入るなんて、何か目的が
ある筈ですわ。何が欲しいのでして? お金、権力、地位、どれも私が持っている
のでは無く、お父様がお持ちでしてよ」
狼狽えた声が頭に響いた。やっぱりこれ狙いだったのかと溜め息をつく。
今まで私に近づいて来る人の大体はこの3つが目当てだ。私の友人という名目が
欲しい為だけに、何をしても褒めて、上辺だけの笑顔で……もううんざり。
(は、え? いやちょっと待って……!)
「何ですの、ご自分が思った通りじゃなくて失望でもしたのでして?」
(違うって! うちそんな事思っとらんし何でんなもん欲しがらなあかんの⁉︎)
「随分と口が達者な事ですわね」
変な言葉遣いで分からない言葉もあるが、大体分かる。部屋の中にある本を手に
取った、もうこの話は必要ないと思ったからだ。本を開き文字に目を向ける。
(……うちがリリアさんの体に入ったんは、んなもんが理由じゃないんに)
その声は苛立ちを押し殺すが隠しきれてない声だった。
「あら、じゃあ何でして?」
(上から目線で悪いけど、助けたかったん)
「同情でなら、お断り致しますわ」
偶にそういう人もいましたわね。その時は社交界でダンスをしている途中でした
ので、転ぶ振りをして思いっきり踵を踏みつけてあげましたわ。
(あっ、違う違う、同じ貧乳だから何となく助けたいなーって思って憑依しただけ
なんやけど何か?)
「……」
少しでも疑った自分が馬鹿らしい。面白かった本も途端に気が失せてしまった。
本から窓に目を向けて、外の様子を眺める。
(同じ貧乳同士、仲良くしようじゃないか! 貧乳万歳! 巨乳なんて、年取った
らヘソまで垂れるぞ! その時こそ我らが貧乳の時代っ!)
「お黙りなさい」
この女の脳を1回でもいいから見てみたいですわ。
眉間を抑え、溜め息をつく。
「もう言わなくても良くってよ」
(え、お? 何故に? まだまだ貧乳の素晴らしさを語ろうと……)
「それはお黙りなさい……話が逸れたわね、貴方の言う事を少し、信じたという事
です」
(あっ、ありがとござまーす)
「何ですかそのお礼は! 語尾は伸ばさない!」
(ひぃっ! ありがたき幸せぇ!)
……この小娘はふざけてるのかしら? 本当に調子が狂いますわね。
「で、どうやって私を助けるのですか?」
(あぁ、それなら簡単だよ)
随分と簡単に言いますわね、心配になって来ました。やはり今からでも断っても
遅くないのでは。
そんな考えが頭をよぎったが、カイル様の婚約者でなくなった今、王妃となる為
に必要なダンスやマナー、勉強、他にも色々あるが、毎日毎日、教師と夜遅くまで
一緒にいる事は今日からもう2度とないだろう。
どうせやる事もなくなったのだし、出来そうな事ならやってみようと覚悟を決め
た。
(桜さんを虐めない。たったこれだけで処刑が免れます)
「……は?」
(え、虐める気満々やった?)
「違います」
どうして婚約者でもないのに、あの子を虐めなければいけないのかしら。婚約者
だった時は、早くカイル様を諦めてくれるように酷い事をしてしまったが、今では
もうその必要はない。まだ、カイル様の事は好きだが、カイル様が婚約破棄をお望
みなら私は従うまで。
「私はあの子を虐める気なんてありませんわ」
(えー……ゲーム上とは違うんかいなぁ……? 確か、リリアさんが1ヶ月間は家
で謹慎してる間に桜さんとカイルが……)
「この国の第一王子を呼び捨てで呼ぶのではありません!」
(へいっ! 桜さんとカイル様が仲を深め、学校に戻って来たリリアさんが2人の
仲を知り、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームになって、他の
令嬢を使って桜さんを虐めます!)
激おこスティック……? 多分、激怒しているね。私、嫌な事があったら誰かを
使って虐めるなんて、そんな卑怯な手は好きではないのだけど。
(だから、何もしなければ、だいじょーぶ、万事オッケー)
「そもそも何もしようとも思いませんわ」
(うん)
うーん、まぁいいや。と、呑気な声が頭に響いた。
(そんじゃ、今日からよろしくお願いしまーす)
「語尾は伸ばさない!」
(よ、よろしくお願いしますっ!)
これからは処刑にならないよう気をつけながら、私に憑依した娘の言葉遣いを
徹底させて頂きますわ!
そう、誓った日だった。