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幻想徒然絵巻  作者: 日生
正月
109/150

続・新年会

※注意

 未成年者が飲酒している表現がありますが、現実世界の日本で未成年者の飲酒は法律で禁止されています。悪しからず。


 最初は部屋に二人きりだったのが、気づけば私を含めて六人。


 これはこれでちょっとした宴会状態だ。


「・・・ごめん、佐久間。やっぱ騒がしくなった」


 煉くんは、なんだか一気に疲れたような顔をしていた。


「ううん、大丈夫。どうせ皆さんにもご挨拶するつもりだったので。あ、そうだ、持って来たお土産を」


 私はお母さんに持たされたお饅頭の箱と、大天狗様からもらったお酒の入った瓢箪を鞄から取り出した。

 案の定、椿さんたちはお酒に興味津々で、お饅頭を肴に味見する。


「ん~♪ 天狗ってうまい酒飲んでるのねー。翔、もっと注ぎなさい」


「はいはい」


「莉子にもお饅頭取ってー」


「ユキちゃんも遠慮せずどんどん食べていいからね」


「あ、はい、ありがとうございます」


「慧、あんたも飲みなさい。飲んで全部吐きなさいっ」


「・・・酒癖悪いぞ」


「慧ちゃん飲まないなら莉子にちょーだい♪」


「お前は酔うと性質悪ぃからやめろ」


「そんなことないもん。ゆんちゃんも飲む?」


「い、いえ、私はけっこうです」


「しっかし、俺ら全員こっちにいていいのかね?」


「そう思うならあんたは残ってりゃよかったじゃないの」


「えー? 飲もうよー」


「莉子、佐久間にからむな」


「やー、だって俺あの人ら苦手なんだもん」


「大の男がもんってなによ。気持ち悪っ」


「容赦ないなあ椿は」


「あんたは言葉の端々が軽いのよねー。逆に慧は重過ぎるし。ほら、たまには飲んではっちゃけなさいよっ」


「やめろ・・・」


「これどこのお饅頭? おいしいねー」


「和辻というお店のものです。おばあさんがやっている小さいお店で、ご近所の評判もいいんですよ」


「慧は酒強いほうなんだけどなー。自分からは飲まないよな?」


「もうつまんないから煉にしこたま飲ませましょうか」


「わーい♪」


「なんで俺だよっ!」


「ユキちゃんの前で醜態晒させましょうっ」


「なんのために!?」


 ・・・と、こんなテンションで宴は続いていった。


 広い部屋もこれだけの人数がいて騒いでいると狭く感じられる。


 私はほとんど会話に参加できないでいるが、皆さんの仲の良さそうな雰囲気を見ていると、心がほんわか温かくなった。

 素直にうらやましいなあと思う。


「―――佐久間、大丈夫?」


 隅でジュースをちびちび飲んでいたら、煉くんが隣に移動してきた。


 向こうでは椿さんの先導で一気飲み大会が開催されており、隙を見て避難したようだ。


「うん、とっても楽しんでるよっ」


 心配そうな彼に笑顔を返す。

 気遣いでもなんでもない、本心からの言葉だった。


「私は兄弟いないし、親戚が集まることも滅多にないから、こんな賑やかなの初めてですごく新鮮です」


「酒入るといっつもこんなんだよ。うるさい奴らがさらにうるさくなる」


「見てるだけで私も楽しくなるよっ」


「そっ、か?」


「うんっ。煉くん家は仲良しでいいね」


「・・・別に、そこまででもないけど」


 そう言ってそっぽを向く煉くんは、たぶん、照れているんだろうなあ。


「――でも、不思議」


 宴会の緩やかな雰囲気のためか、自然にそんな言葉が口をついて出た。


「? なにが?」


「ずっと同じ町に住んでたのに、全然知らなかった人たちと、こうして知り合って、一緒にいるっていうのが不思議だなあと思うの。きっと運がよかったんだね」


「・・・逆じゃねーの?」


「ううんっ。時々、考えるの。もし、煉くんと同じクラスになってなかったら、授業で神様の絵を描かなかったら、煉くんたちと一生知り合えないまま終わってしまったのかな、って。そっちのほうがずっと不幸だったし、もったいない人生だったと思います」


 たとえ、天宮家の皆さんは私との出会いを後悔しているのだとしても。


 私がこの出会いを後悔することは絶対にない。自信を持って言える。


「あのね、もし、気を悪くしてしまったらごめんなさい。――実は私、この力を持っててよかったなあって、思ってるんです」


 煉くんたちにとっては、厄介としか言えない力が宿っている右手を見つめる。


「誰がくれたものかはわからないけど、おかげで煉くんに出会えたこと、感謝したいです。それから、煉くんと話すきっかけになってくれた緋色の神様にも。もしかしたら、あのきれいな神様が、あの時、私に煉くんと同じ番号のくじを引かせてくれたのかも」


 私たちが知り合うために、必要な偶然はたくさんあった。

 そのどれが欠けていても、だめだったろう。まさしく、出会いは奇跡なのだ。


 でも、これは私だけの感動。

 ちょっと調子に乗り過ぎたかなと思い、ごまかし笑いを浮かべた。


「な、なんて、ごめんね? 変なこと言っちゃいました。忘れてください」


「・・・いや、覚えとく」


「え?」


 煉くんは口元を手で覆って、なんというか、まるで照れているみたいだった。


「すげえ、嬉しいから、忘れない。――佐久間も、覚えといてな」


 手をはずし、今度はじっと、見つめられた。


「今言ったこと。俺は、本気にするから」


 な、なんだか、煉くんの目が妙に熱っぽいような・・・たぶん気のせいなはずなのに、その熱に浮かされ私のほうまで熱くなってくる。体が強張り、わずかにだって目を逸らせない。


「・・・俺も、佐久間に会えてよかった」


 恐怖だか羞恥心だかわからないけど、とにかく今すぐ逃げ出したいと思う一方で、逆に、触れたいとも思って、ゆっくり伸びてくる彼の手を、ただ、待っていた。


「――抜け駆け禁止ぃっ!」


 死角から突如、莉子さんが飛来した。


 タックルを喰らった私は倒れ、細い腕にぎゅーっと拘束される。


「いい雰囲気作るの禁止ぃっ!」


「っ、おいっ、離れろ莉子!」


 莉子さんの吐息からはアルコールの匂いがし、この分だとだいぶ酔っているのかもしれない。離れろと言われるとますます腕の力が強くなり、密着度が高くなる。今度は具体的な意味で体が動かない。


「・・・むぅ?」


 ところが、すぐに莉子さんの力が緩む。気が済んだのかと油断したら、


「ゆんちゃん、胸おっきい」


「っ!?」


 なんの躊躇いもなく、莉子さんの手がその場所に触れた。


「やっぱり大きい!」


「ななないですないです!」


 慌てて身をよじるも、莉子さんからは逃れられない。

 胸元に顔をうずめてきて、そこで叫ばれる。


「うわああ煉のエッチ! 煉はおっぱい大きいのが好きなんだぁぁ!」


「っ、何言ってんだっ!?」


「煉のばかぁっ! どーせ莉子は貧乳ですよーだっ!」


「ああああの私も大したことないですからっ!」


「うそ! この感じだとDはあるでしょ!? ずるいずるいずるいよぉぉっ!」


「ひゃあっ!? り、莉子さっ、やっ・・・!」


「~~いい加減にしろっ!」


「うわああぁぁぁぁんっ!」


「まあまあ、りーちゃん落ちついて。食べるもん食べてれば大きくなるわよぉ」


「俺はこだわらないけどなあ。そこなくても事を致すには」


「翔黙れっ!」


 最終的に、莉子さんのことは煉くんがどうにかこうにか引き剥がしてくれた。


 うう、別に大きくないんだけどなあ。無駄なところにお肉のついていない莉子さんのほうが、スレンダーで素敵だと思う。私なんて・・・。


 それにしても、さっき煉くんが言ってたことって、なんだったんだろう。


 なんとなく、ちゃんと意味を聞いておいたほうがよかった気がするのだけど、しっちゃかめっちゃかになってしまったこの場では、もう無理そうだった。

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