続・新年会
※注意
未成年者が飲酒している表現がありますが、現実世界の日本で未成年者の飲酒は法律で禁止されています。悪しからず。
最初は部屋に二人きりだったのが、気づけば私を含めて六人。
これはこれでちょっとした宴会状態だ。
「・・・ごめん、佐久間。やっぱ騒がしくなった」
煉くんは、なんだか一気に疲れたような顔をしていた。
「ううん、大丈夫。どうせ皆さんにもご挨拶するつもりだったので。あ、そうだ、持って来たお土産を」
私はお母さんに持たされたお饅頭の箱と、大天狗様からもらったお酒の入った瓢箪を鞄から取り出した。
案の定、椿さんたちはお酒に興味津々で、お饅頭を肴に味見する。
「ん~♪ 天狗ってうまい酒飲んでるのねー。翔、もっと注ぎなさい」
「はいはい」
「莉子にもお饅頭取ってー」
「ユキちゃんも遠慮せずどんどん食べていいからね」
「あ、はい、ありがとうございます」
「慧、あんたも飲みなさい。飲んで全部吐きなさいっ」
「・・・酒癖悪いぞ」
「慧ちゃん飲まないなら莉子にちょーだい♪」
「お前は酔うと性質悪ぃからやめろ」
「そんなことないもん。ゆんちゃんも飲む?」
「い、いえ、私はけっこうです」
「しっかし、俺ら全員こっちにいていいのかね?」
「そう思うならあんたは残ってりゃよかったじゃないの」
「えー? 飲もうよー」
「莉子、佐久間にからむな」
「やー、だって俺あの人ら苦手なんだもん」
「大の男がもんってなによ。気持ち悪っ」
「容赦ないなあ椿は」
「あんたは言葉の端々が軽いのよねー。逆に慧は重過ぎるし。ほら、たまには飲んではっちゃけなさいよっ」
「やめろ・・・」
「これどこのお饅頭? おいしいねー」
「和辻というお店のものです。おばあさんがやっている小さいお店で、ご近所の評判もいいんですよ」
「慧は酒強いほうなんだけどなー。自分からは飲まないよな?」
「もうつまんないから煉にしこたま飲ませましょうか」
「わーい♪」
「なんで俺だよっ!」
「ユキちゃんの前で醜態晒させましょうっ」
「なんのために!?」
・・・と、こんなテンションで宴は続いていった。
広い部屋もこれだけの人数がいて騒いでいると狭く感じられる。
私はほとんど会話に参加できないでいるが、皆さんの仲の良さそうな雰囲気を見ていると、心がほんわか温かくなった。
素直にうらやましいなあと思う。
「―――佐久間、大丈夫?」
隅でジュースをちびちび飲んでいたら、煉くんが隣に移動してきた。
向こうでは椿さんの先導で一気飲み大会が開催されており、隙を見て避難したようだ。
「うん、とっても楽しんでるよっ」
心配そうな彼に笑顔を返す。
気遣いでもなんでもない、本心からの言葉だった。
「私は兄弟いないし、親戚が集まることも滅多にないから、こんな賑やかなの初めてですごく新鮮です」
「酒入るといっつもこんなんだよ。うるさい奴らがさらにうるさくなる」
「見てるだけで私も楽しくなるよっ」
「そっ、か?」
「うんっ。煉くん家は仲良しでいいね」
「・・・別に、そこまででもないけど」
そう言ってそっぽを向く煉くんは、たぶん、照れているんだろうなあ。
「――でも、不思議」
宴会の緩やかな雰囲気のためか、自然にそんな言葉が口をついて出た。
「? なにが?」
「ずっと同じ町に住んでたのに、全然知らなかった人たちと、こうして知り合って、一緒にいるっていうのが不思議だなあと思うの。きっと運がよかったんだね」
「・・・逆じゃねーの?」
「ううんっ。時々、考えるの。もし、煉くんと同じクラスになってなかったら、授業で神様の絵を描かなかったら、煉くんたちと一生知り合えないまま終わってしまったのかな、って。そっちのほうがずっと不幸だったし、もったいない人生だったと思います」
たとえ、天宮家の皆さんは私との出会いを後悔しているのだとしても。
私がこの出会いを後悔することは絶対にない。自信を持って言える。
「あのね、もし、気を悪くしてしまったらごめんなさい。――実は私、この力を持っててよかったなあって、思ってるんです」
煉くんたちにとっては、厄介としか言えない力が宿っている右手を見つめる。
「誰がくれたものかはわからないけど、おかげで煉くんに出会えたこと、感謝したいです。それから、煉くんと話すきっかけになってくれた緋色の神様にも。もしかしたら、あのきれいな神様が、あの時、私に煉くんと同じ番号のくじを引かせてくれたのかも」
私たちが知り合うために、必要な偶然はたくさんあった。
そのどれが欠けていても、だめだったろう。まさしく、出会いは奇跡なのだ。
でも、これは私だけの感動。
ちょっと調子に乗り過ぎたかなと思い、ごまかし笑いを浮かべた。
「な、なんて、ごめんね? 変なこと言っちゃいました。忘れてください」
「・・・いや、覚えとく」
「え?」
煉くんは口元を手で覆って、なんというか、まるで照れているみたいだった。
「すげえ、嬉しいから、忘れない。――佐久間も、覚えといてな」
手をはずし、今度はじっと、見つめられた。
「今言ったこと。俺は、本気にするから」
な、なんだか、煉くんの目が妙に熱っぽいような・・・たぶん気のせいなはずなのに、その熱に浮かされ私のほうまで熱くなってくる。体が強張り、わずかにだって目を逸らせない。
「・・・俺も、佐久間に会えてよかった」
恐怖だか羞恥心だかわからないけど、とにかく今すぐ逃げ出したいと思う一方で、逆に、触れたいとも思って、ゆっくり伸びてくる彼の手を、ただ、待っていた。
「――抜け駆け禁止ぃっ!」
死角から突如、莉子さんが飛来した。
タックルを喰らった私は倒れ、細い腕にぎゅーっと拘束される。
「いい雰囲気作るの禁止ぃっ!」
「っ、おいっ、離れろ莉子!」
莉子さんの吐息からはアルコールの匂いがし、この分だとだいぶ酔っているのかもしれない。離れろと言われるとますます腕の力が強くなり、密着度が高くなる。今度は具体的な意味で体が動かない。
「・・・むぅ?」
ところが、すぐに莉子さんの力が緩む。気が済んだのかと油断したら、
「ゆんちゃん、胸おっきい」
「っ!?」
なんの躊躇いもなく、莉子さんの手がその場所に触れた。
「やっぱり大きい!」
「ななないですないです!」
慌てて身をよじるも、莉子さんからは逃れられない。
胸元に顔をうずめてきて、そこで叫ばれる。
「うわああ煉のエッチ! 煉はおっぱい大きいのが好きなんだぁぁ!」
「っ、何言ってんだっ!?」
「煉のばかぁっ! どーせ莉子は貧乳ですよーだっ!」
「ああああの私も大したことないですからっ!」
「うそ! この感じだとDはあるでしょ!? ずるいずるいずるいよぉぉっ!」
「ひゃあっ!? り、莉子さっ、やっ・・・!」
「~~いい加減にしろっ!」
「うわああぁぁぁぁんっ!」
「まあまあ、りーちゃん落ちついて。食べるもん食べてれば大きくなるわよぉ」
「俺はこだわらないけどなあ。そこなくても事を致すには」
「翔黙れっ!」
最終的に、莉子さんのことは煉くんがどうにかこうにか引き剥がしてくれた。
うう、別に大きくないんだけどなあ。無駄なところにお肉のついていない莉子さんのほうが、スレンダーで素敵だと思う。私なんて・・・。
それにしても、さっき煉くんが言ってたことって、なんだったんだろう。
なんとなく、ちゃんと意味を聞いておいたほうがよかった気がするのだけど、しっちゃかめっちゃかになってしまったこの場では、もう無理そうだった。




