クズの使い方
低知能型人間削除計画推進本部。ー通称、清掃係。
渡辺隆と三井あかねは机の上の書類とにらめっこしていた。
「一応、抜粋したんだけど、どう思う?」
「どう思うも何も、これってこの前、不起訴処分が決まった犯人ばかりじゃないですか。」
「そうよ。一番絵に描いたクズを抜粋したわ。これなんかどうかしら」
あかねが見てた書類をこっちに差し出す。
それはこの前、自分の娘に対して性的虐待を行なっていたとして逮捕されたが、無罪判決になった50代の男性だった。
「この男は、確実にクズね。判決を下した裁判官含めてクズだわ。」
「ちなみに三井さんは、この男をクズと認定したとして、どうするんですか?」
「そうだった。そこも決めなきゃいけないのよね。」
「一体、この部署は何なんですか。定義を決めたとして、その後のビジョンが何にもできてない。」
「それも含めて考えなくちゃいけないのよ。」
「じゃあ、クズを認定して、そのクズは訓練施設にでもぶち込むんですか?」
「そんなわけないじゃない。」
「じゃあどうするんですか?」
「専門の施設に隔離して、その後、死ぬまで労働よ。」
「それって、終身刑じゃないですか。」
「そうよ。今までと同じように訓練施設に入れていつか出てくるなんて、被害者にとっては生殺しにされているようなもんだわ。だって、いつそのクズが出てきてまた生活を脅かされるのかわからない。」
そう言って、あかねは組んだ腕に力を込める。
「では、そのクズを裁くのは誰ですか?クズが裁かれるのはわかります。じゃあ、裁く側のクズはどうするんですか?今回、三井さんが持ってきたこの書類だって、起訴までされたのに、裁かなかったのは、裁判官の判断ですよね。」
「そう。そこも考えなければならない。司法が正義とは限らないからね。私たち清掃係は、どんな権力からも隔絶されている必要がある。ただ、私たちが真っ当な人間かなんてわからないわよね。」
どうしたものかと悩んでいるときに、チャイムがなった。考えるのはとりあえず後にして、昼食を食べに外に向かう。
クズなんて、歩いていればどこにでもいる。探すのは容易だが、全てのクズを見つけて収容していたら、一体どれほどの面積を使う。それ以前に、金を回しているクズを罰したら、経済が回らなくなる。クズとは必要悪ではないか。でも...。