転生できちゃった
「あらかわいい。ゆうちゃんにそっくりね」
「そうですか?」
「ええ。目元が特に。将来有望ね!」
「お義母さんったら!!」
―――嫁姑の仲がよろしいようで、何よりです。
ちょっと楽になって意気込みを叫んだら、すでに転生済みという、スピード転生をした私。ここがどこだか知らないが、やり直してみせるぜ! 青春を! という気持ちで「やるぞぉ!」と叫んだ。それに何故か言葉が返ってきた。
「え!?」
「え、っと……?」
「待って待って。え、赤ちゃんってこんなに早くに話すっけ? 話さないよね? え!?」
―――あ? あれ、私って……今どうなってるの?
女性の言葉から、私はまだ言葉を発するとこはできない年齢の赤ちゃんなのだろう。
私は低い視力の中、必死に周りを見る。
自分がいるのは新生児が入る、四方が透明なベッドだった。と、いうことは、ここは産婦人科か。なるほど。こんな生まれたばかり子が「やるぞぉ!」と叫ぶのは奇妙だ。
「な、なぁちゃん、今なんか言った?」
私は答える代わりにキョトンとしてみた。ここで「うん」とはとても言えない。
「きゃー! かわいいー! そうよね。この間生まれたなぁちゃんが喋れるわけないよねぇ」
―――普通はね。
残念ながら私は普通ではない。最近流行している前世の記憶を持ってる系人間だ。故に日本語は話せるし、解る。
ん? この人の言葉、私は解ってる? え、てことはここは……
「見えるかな、なぁちゃん。あれは、東京スカイツリーっていう、日本一高い建物なの。634mもあるんだよ。すごいよね?」
地球だね。日本だね。
と、いうことを昨日知った。
私の転生先は地球の日本。前世と同じ、私の大好きな国でございました。
―――治安も良くて、慣れてて、便利で素晴らしい国でまた生きられること、わたくしは嬉しく存じます。(まる)
ここで一度情報を整理しようと思う。
ここは日本の流行などの最先端が揃う、東京都。以前私が住んでいたのは岡山県なので、今からすでにワクワクしている。ただ、人が多すぎるのは嫌だが。
父は小鳥遊道。仕事はよく分からない。母は夕陽で専業主婦らしい。この間、夕陽とその母、つまり私の祖母との話で分かった。前のように、自分の価値観を押し付けてくる親でないことを心から祈る。
それにしても、赤ちゃんというのは何と退屈なことか。全く動けないのに、すぐ眠くなる。お喋りすることもできない。暇だ。起きて、おっぱい飲んで、寝て、起きて……を繰り返す。……つまらない。少し前まで、何もしなくて良いなんて楽とか、何しても「仕方ないね」で済まされるとか、最高じゃんなんて思っていた私、バカだな。
やっぱり、みんな悩みを抱えているんだね。うんうん。
ベッドの中でゴロゴロしているうちに退院になった。
家は生まれた病院からそこまで離れていなかった。めちゃめちゃでかい我が家からもスカイツリーが見える。
私の新しい名前は小鳥遊七瀬。かわいい名前に負けないように頑張ります。家族は両親の他に姉がいた。姉の名前は一歌。お互いに数字が入っている。以前は兄弟姉妹がいなかったので、姉がいるというのは嬉しい。加えて同性だ。一緒に遊んだり、大きくなったらお買い物をしたりしたい。
「なぁちゃん。一歌お姉ちゃんよ。仲良くしよーね」
「なぁちゃん、おねぇちゃんだよー。分かるー?……ふふっ。かわいいね、おかあさん!」
「かわいいねぇ。仲良くするんだよ? わかった?」
「うん! だっていっちゃんはおねぇちゃんだもん!」
……か、かかか、可愛いー!! 何この子、天使!?
くるくると大きな目。既にくっきりキレイな二重。髪は少し茶色くて、ハーフのようだ。よく見ると母も美人だ。……遺伝か。私にも遺伝しててください!
「ついこの間一歌が生まれたと思ったのになぁ」
「本当に。もうあれから3年も経つのよねぇ。不思議だわ」
「いっちゃん3歳ー!」
―――このまま素直に育つんだよ、お姉ちゃん。きれいな心のままでね。
私としては家族とおしゃべりをしたいのだが、できない。場所が変わったところで暇さは変わらない。姉がいることにより、少しは賑やかになるかなぁ、程度だ。家は馬鹿みたいに広いのに、私が入れるのは狭いベビーベッドの中のみ。つまんない。まだ勉強できる方がマシだった。
家に来て一週間ほどが経った。それまでの生活で新たに得た情報。父親の職業は医者だった。父、私からしたら祖父の病院を継いだらしい。どおりで家がデカいわけだ。この大都会にあるのに。
母はもともと看護師だったようで、今でも忙しいときはたまに病院へお手伝いに行っている。そういうときは、祖母の京子がうちに来る。さすがに3歳児と新生児を2人だけにはできないからだろうが、
―――新生児おいてくなよ! 生後2週間ですよー!
この自由な家庭でのびのびと生きていこう、と決めた美奈、ではなく七瀬。
だが、何故彼女はこんなに青春にこだわっているのだろうか。その理由は、もう本人も忘れていた。
ちょっと短いですが、本編開始。
どうぞよろしくお願いします。