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第1話 朝礼だコノやろう!

ライトノベルチックなヤツを書こうと思って書きました。←そういう風になってなかったら御免なさい。

 燦燦と照りつく太陽の下、全体集会にかり出された全校生徒が、「お立ち台」にあがった校長先生の言葉をうな垂れて聞いている。まぁ聞いていると言っても「右から左状態」なのだが。

「えー。ん、ん。えー。皆さん、おはようございますぅ。ん……えー。今日から赴任される先生を、えー……紹介したいと思いますぅ。ん、ん」

 誰も聞いちゃいないのを露呈するように、校長先生が話している最中にもかかわらず、生徒達は雰囲気を変える訳でもなく、話し始めた時と同じく若干のざわめきと少しの興味も引かないといったような態度を示している。

「えー、ん。それでは先生、前へどうぞぅ」

 マイクが拾いきれるかどうかという際どい声量でそう言うと、一人の若い女性教員がノソノソと「お立ち台」へとあがっていった。

 この女性教員、やる気があるのかないのか、ボソボソと何やら話し始めた。

「みなさん。おはようございます。今日からお世話になります「鈴木 今日子」と申します、宜しくお願いします……私は私立朝飯中学からやって参りました。ここ、つまり私立晩飯中学の皆さんに早く馴染めるよう頑張ります。今日はすごく天気がいいですね、こんな良く晴れた日に皆さんと顔を合わせる事ができて、本当に私は幸せ者ですっ。ハハッ……はい、誰も聞いちゃいないですね」

 鈴木は簡単な挨拶をすると、全然目も合わせようとしない生徒達を見下ろした。案の上「無関心このうえ無し」の生徒達は早くこのうだる暑さの中から解放されたいといった感じだ。誰も聞いちゃいないのを裏付けるように生徒はおろか、同じ教員の中にも語尾を突っ込む気配は無い。

 鈴木はわざとらしくマイクから自分の体を遠ざけ、若干のけぞり気味になりながら続けた。

「えー、ま、私自身ここに転勤して来たかった訳ではなくて、まぁ、アレですよ、アレ。って言っても全然分からないでしょうが、私にもイロイロとありまして、なんというか、ええ。ま、つまりを言うと、朝飯中学でヤッチャッタっていうか、んふっ……つまらない不祥事で飛ばされちゃったって訳ですよ。ええ」

 調子に乗って軽やかに口を滑らせる鈴木。

 まぁ、だあれも聞いちゃいないんだから喋ってても喋らなくても同じ事なんだが。こんな事を言えるのも「鈴木」という個性が成せる業。

「え? 不祥事って何かって? それは聞かない約束でしょう。まぁ話せば長くなるのですがぁ……」

 だから、誰もそんなこと聞いちゃいないし、事実、全員ホントに聞いちゃいないし。

 持ち時間をこれっぽっちも気にしない鈴木であったが、再度生徒達や他の教員に目を配らせ、

(話しちゃいたいなぁ)

 と、ちょっと肩を竦めるのだった。若いというのもあるが、中の上ほどの外見を持つ鈴木がそういった仕草をすると、ちょっと可愛い。

(実際に誰も聞いちゃいないのは明白だし。まぁいいか。喋っちゃえ喋っちゃえ!)

 生来の能天気と何も考えず行動に移す鈴木の本性が伺われる瞬間である。

「んー。私、困っちゃったなぁ。ホントに言ってもいいのかなぁ? みんな、勿論全然聞いちゃいないよね?」

 ニコニコと笑顔を絶やさず、淡々と話すその調子と鈴木のありふれた耳障りの少ない喋り声が、朝だというのにギラギラと自職を全うしている太陽も手伝って、全校生徒及び全教員の耳から遠ざかっていた。太陽に感謝しろよ鈴木。

「実をいうと私ねぇ、前の朝飯中学でぇ……」 

 鈴木が「ヤッチャッタ話」を、やはりニコニコしながら言いかけたその時、一人の生徒が手を挙げ、こう叫んだ。

「先生ー!!そのヤッチャッタってのは本当に誰かとヤッチャッタんですかー?」

 その声量と言ったらなかった。

 普段からゲームセンターか製造工場でバイトでもしてない限り、爆弾でも落としたかのような馬鹿でかい声は出せるまい。 

 その声の持ち主は、晩飯中学校3年H組18番・長谷川 翔太だ。一声で強烈なインパクトを与える声量と、その放たれた意味深な発言。それが芝居がかった嘘くさいイントネーションであったのは勿論のこと。

 ステルス機で誰にも気づかれずスプレッドボムを撒き散らかそうとした鈴木今日子の機体を、奈落の底に撃墜しようと迎撃ミサイルを放ったのだった。そしてそれはモノの見事に命中し、今まさに鈴木の教員寿命を終わらせようとしている。

「先生ー!!朝飯中学でヤッチャッタってのは本当に誰かとヤッチャッタんですかーってばよー?」

 駄目押しの第二射撃。

 普通の中学生なら絶対に回避するであろう言葉を恥ずかしげも無く連呼する。

 会話の流れについて行けない生徒が殆ど(長谷川を除く全校生徒及び教職員)であったが、その大勢の前では決して聞くことのない恥ずかしい言葉に反応し「お立ち台」の上に仰け反って立っている鈴木(今は、別の意味で仰け反っている)に熱い視線を投げかけた。

「え? え? ああ。ん。そう、そう。んんとね、あ、そうだっ! 私、マエチュウでは凄く人気があって、ん。ん〜、じゃなくて、そうそう。そうなのよ! 私、最近まで太り気味だったんだけどぉ、転勤がぁ……決まってぇ、そう。そうよ。ヤセッチャッタのよ。悲しくて。うん」 

 シドロモドロになりながらも意味の分からない言い訳をする鈴木。そこはごまかしきれないと教員生命に関わりかねない。しかし、ダジャレ落ちというのも、なんだかなぁ、な感じだが。

「はいっ! と、言うわけでぇ、今日から宜しくお願いします!」

 勢いよく強引に挨拶を終了し「お立ち台」からスタスタ降りていく赴任から暴走気味の鈴木 今日子。

 あまり訳が分からずお互いを見合う生徒達。

 一人だけニヤニヤと事の顛末を楽しんだ長谷川 翔太。

 他人の事なんか全然興味はありませんぜ、といったように無関心な表情のままの教職員。

 ざわざわと騒がしさを残しているグラウンドで、体育の授業をうけもつマッチョな男性教員が替わりに「お立ち台」にあがり、胸に掛けているホイッスルに口をあてた。

 ピピーー!! という甲高い音がグラウンド中に響き渡る。

「よっしゃ来た。全体集会やっと終わりだ」

 と、その場に居た全員がそう思ったに違いない。「お立ち台」の反対側にある校舎にもうすっかり気持ちは移っていった。なんせグラウンドはもの凄く熱いのだ。それが今から放たれるマッチョ教員の一声で救われると思うと、先程までの胡散臭いやりとりなど、ろくに頭の中に残るはずもない。

「まわれー右!!」

「1! 2! 3!」

 コレばっかりは揃えて言うことができるらしい。一つの声になって、ウオンと響く。

 全校生徒全体がくるりと身を返し、校舎へと体を向けた時、長谷川だけがそのままの状態で立っていた。当然、長谷川は後ろに立っていた親友の相沢 優と正面で向き合う格好になる。優は垂らしている前髪をかきあげ、さもうんざりといった表情で翔太に言う。

「だから、いってんだろ? みんな右向けっつってる時にお前だけ従わないと、俺と目が合うって。前から思ってたんだけど、ナニ? お前、ホーモー?」

 翔太は視線を鈴木に釘付けにし、左肘をを優の左肩に乗せ、若干もたれるように言い返した。

「ちげぇよ。馬鹿。今日きたあのセンセ、鈴木って言ってたっけか?あいつ、すんげぇ面白そうじゃん?んっふっふ。しかも絶対俺達の担任だぜ。アレ。暑さで聞き取り難かったけど、ふっふ。おい。これから楽しみだな。こりゃ――」

 翔太は喉の奥でクックッと声を殺し意地悪そうな満面の笑みを浮かべた。妄想の中の出来事が楽しくて楽しくて仕様が無いというようだ。 

 反対に、鈴木は既にヤッチャッタ話しでヤッチャッテいる事に不安を感じつつも、まぁウマクごまかしきれたかしら? と意味の分からない言い訳に満足しているようである。しかし、翔太の視線に気づくと、うっ、となってそそくさと集団に混ざるのだった。 

 ゾロゾロと校舎へと帰る一団は、アリのようだった。白シャツに黒のスラックスやスカート。角砂糖を銜えたアリさんが一生懸命巣に運んでいるように見える。

「校舎をアリの巣ホイホイに見立てると集団自殺か。レミングスじゃあるまいし。あれ?あれってネズミだったっけな?」

 翔太は鈴木に視線を切られたのに気づくと、そう言いながらそのまま優と一緒に校舎へと足を運ばせた。

「ほほう。ホントだ。クーラーに釣られて死にに行くようなもんだな。ハッハ。でもまぁ、ココで太陽に照らされて死ぬよかナンボかマシだよな? んでもよ、お前、お前だけは大丈夫だよ。うん。なんせ右向けっつったら左向くんだもんなぁ……」

 ハァ、と溜息ひとつこぼすと翔太が右手で優の左肩をバシンと叩いた。

「当たり前じゃねぇかよ。おい。おれぁな、ぜっったい見逃したくねぇんだ。な? おい、全員が同じ景色を見てる最中に俺だけが違う景色を見れるんだぜ? これって、凄いんじゃね? ふっふ。うん。すごいぜ、こりゃよ」

 鼻息の荒い翔太に再度溜息をつく優。

「ハイハイ。良かったぜ。逆に、そういう理由ならな。お前が俺の顔を見たいからっていわなくてな」

「っざけんな!」

 生徒達が次々に校舎へと姿を消していく中、翔太と優は最後尾でジャレ合っていた。

 翔太は心が躍るのを抑えきれない。あと数分後にはきっと鈴木が教壇に立ち、先程の妄想を現実にすることができるのだ。しかし翔太。急いじゃいけない。そう。物語は始まったばかりだからね。 







読んで頂いてありがとう!感謝・感謝のオンパレードです。体力のない作者ですが、まぁ長く書いていこうと思います。不定期更新ですがどうぞ宜しくお願いします。

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