初めての敵襲
――薄暗い洞窟に、たき火の明かりのみが広がる。
たき火を囲うようにして、オークが二匹語り合う。
「へへっ。やりやしたね、兄貴。」
「あぁ。護衛が少ないと、こうもあっさり成功するんだな。やっぱり、タイミングってぇのは大事だな。」
「まぁ、何人かの使用人には見つかりやしたがね……。でも、兄貴が用意した爆炎筒が役に立ちやした。近くにいた使用人は巻き込まれて、怪我を負ったようでやすが、おかげで追っかけてくる奴らがいなかったから、良かったでやす。」
「そうだな。さぁて、そろそろ夕方だし、城から出てった奴が戻ってくるんじゃねぇか?こりゃぁ、反応が楽しみだなぁ。今すぐ行って、奴らの反応を見てみたいが、見つかるとヤバいからなぁ。」
「そうでやすねぇ。へへっ。こうも成功すると、笑いがこみ上げて、仕方ねぇでやんす――。」
――一方、鬼ヶ島のお城にて。
はぁ……。今日はトラウマばかりのしかかってくる……。
つきたくもない大きな溜息をつきながら、目の前に広がる光景を頭の中で整理する。
その光景は、悲惨としか言いようがない。
まるで何かが爆発したように、ガラスや城を飾っていた壺、花瓶や花、電気、近くにいたであろう、使用人の服や腕まで、あちこちに散らばっていた……。
腕をなくした使用人は、残った腕で止血を試みながら、苦悶の表情を浮かべている。
人体被害のない使用人たちは、怪我人の治療や部屋の片づけでてんやわんやしていた。
間違いなく、何者かがこの城に侵入したのだ。
鬼山さんは流石で、すぐに現状を使用人に聞いて把握し、テキパキと指示を出していった。
私はまた、何の役にも立てず、ただただ、呆然と見つめるばかりである……。
握る拳に力がこもるーー。
……悔しい。また何もできなかった。
皆の役に立ちたいって強く思っていたはずなのに……。
鬼木田さんが期待して任せてくれたのに……。
どうして、いざという時に限って、私の手足は動いてくれないの!?
……私、姫様失格だ……
私が青ざめ、震え、一向に顔を上げようとしない様子を見て、心配した鬼山さんが部屋まで連れてきてくれた。
「姫様、今はしっかり休んでください。あなたがそんな表情をしたままでは、皆も不安になってしまいます。後のことは私が処理しておきますので、心配ご無用です。今日はお疲れでしょう?今後のことは、明日、話し合うことしにします。それでは、お休みなさいませ。」
「おやすみなさい…………」
鬼山さんの言葉に甘えて、今日は休むことにした。
翌朝、目が腫れていたことは、内緒ね。
敵襲があった翌日のお昼、お城の会議室に呼ばれ、今後の対策について話し合いが行われた。
まず、今回被害にあったのは、お城の宝物庫と爆発のあった玄関の主に二カ所。
宝物庫の大金庫はあけられた形跡はなく、宝物庫にあった装飾品のみ持ち去られたみたい。
普通は大金庫に目がいきそうだけど、頑丈すぎて開けられなかったのか、持ちきれなかったのか……
持ちきれなかったなら、また襲ってくるかもしれないよね……
ちなみに、鬼山さんの話によると、使用人の目撃情報から、犯人は特定できたとのこと。
彼ら護衛部隊に任せておけば、すんなり解決するかもだけど……
「あのっ、私も犯人捜しに協力させてもらえませんか!?」
「ダメです!姫様を危険に晒すわけには参りません。」
「私も何か役に立ちたいんです!救護係でも、食料配達でも、何でもします!お願いします!」
「鬼山殿、裏での作業なら、そんなに危険はないのでは……?」
「……だが鬼北、万が一のこともある。奴らは木に潜むのが得意だから、後ろに控えていても、後ろから来られたらどうする?」
「そ、それは……」
「ならば、私めが後ろで守りましょう。後ろから見ていれば、例え木の上から奴らが来ても丸見えだから、対処できましょうぞ。それに、姫様が今まで修行に勤しんでおられたのは誰もが承知。ここは、姫様の成長ぶりを確かめられる良い機会とも思えますが。」
鬼北さん、鬼南さん……。
「鬼南まで……。…………仕方ない。まだ不安がありますが、自らは決して危険な行為をしないと約束できるのであれば、連れて行きましょう。」
「あ、、ありがとうございます!!」
こうして、私も犯人捜しに連れて行ってもらえることになった。
もちろん、手当てしたり、食事を配ったり、お手伝いしか許してもらえなかったけど……。
まぁ、私が戦っても足手まといになって、迷惑かけちゃいそうだしね。
一応、護身用に、短剣は持っていくことになった。
そうして、今、私達は犯人が入っていったと思われる森の中の、洞窟に来ている。
さっき、急に雨が降り出して、近くにあったこの洞窟で雨宿りしているのだ。
「それにしても、すごい土砂降りですね……。」
「姫様、びしょ濡れのままでは風邪を引いてしまいます。」
そう言って、鬼山さんがタオルを渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。でも、姫様は洞窟は初めてでは?足下、滑りやすくて危ないですから、気をつけてください。」
「はいっ!」
ズルッ――
「えっ――――っ!!」
体が急に傾いたと思ったら、次の瞬間には遠くに地面が見えていた……
え……ど、どういうこと!?
「チッ――」
鬼山さんの舌打ちが聞こえる……。
どうやら、何者かに抱えられて、どこかに運ばれているみたい。
私、これからどうなるの――――!?