宴から一夜明けて、お見送り
就任式が終わり、夜には私の歓迎会及び鬼木田さん送別会が行われた。と言っても、住人全員が入る規模の部屋はなかったので、キャンプファイヤーみたいに、外で宴が催されたのだ。
鬼山さんの話によると、鬼ヶ島の住人は、約1000人いるとのこと。
体色は、わかるだけでも30種類ぐらいあるそうで、異なる体色の者同士から産まれる子供は色が混ざり、新しい色ができることもあるみたい。そのため、正確に把握することが難しいらしい。
赤鬼や青鬼は昔話にも出てきたりするけど、ここに来て初めて、ピンク鬼や黄鬼を見たよ。
緑鬼はまるでゴブリンみたいだから、まだしっくりくるかな。
それにしても、建物や服の文化はあるみたいだから、結構発展していると思っていたけど、食に関しては、あまり発展してないみたい。
宴会の食事も、魔物の肉を焼いただけのもの、野草のスープ、お茶代わりの果物を絞っただけのジュースのみで、1000人でわけると、一人当たりがかなり質素なものとなる。
このままでは、一日の食事もやがて質素になって、修行しないのに、精進料理を食べる羽目になりそう。
ここに来るまで、農業なんてやりたくなかったけど、まずは農業に力を入れたほうがよさそうね。
でも、今までやったことないから、テレビで見たことと、田舎のおばあちゃんちで手伝った時のことを思い出しながらやらなくちゃ。
もしかすると、農業などの文化がないまま時がたって、食料が手に入らなくなった時に、滅びを待つしかなくなってしまうから、私みたいな異種族の力が必要だったのかも。
だから、この世界に呼ばれたのかな。
でも、そう考えると、私である必要性ってないよね。
もっと優秀な人材を連れてくる方がいいはずだし……。
うーー。頭痛くなってきた……。
ここで暮らしながら、またゆっくり考えよう。
さて、そろそろ宴会も終わりに近づいたみたい。
明日の朝は鬼木田さんを見送って、すぐに鬼山さんによる姫修業が始まるみたいだから、お城に戻ったらすぐに寝よう。
どんな修行になるか…………楽しみより、恐怖感の方が勝ってるかも…………
チュンチュン――チュンチュン――
「ふあーぁ」
「やっと姫のお目覚めだな。準備も終わり、早く出発したかったが、鬼山に『昨日ドタバタしたこともあり、姫様はお疲れなのです。しかし、黙っていくことは相手に心配かけることになりますから、必ず一声おかけしてから旅立ってください。いつ帰れるかわからない長い間、ここから離れるんですから、住人たちにもお声掛けしてくださいね。わかりましたか。』なんて、言われたからのぉ。住人への挨拶も済んだが、お前のためにこうして待っておったというわけだ。」
なんておっしゃっているけど、女性の寝ているところに入るなんて、どういう神経してるのかしら。それとも、ここでは、たいして意識されていないのかな。後者なら仕方ないかもだけど……
鬼木田さんをドン引きの目で見つめていたけど、常識が違うのなら、質問してみた方が良いかも。
「……鬼ヶ島では、女性が寝ている部屋というか、人の部屋に無断で入ることはよくあることなの?」
「いや。普通は許可を得てから入るぞ。だが、今回はお前が起きるのが遅いから悪いのだ。それに、襲おうなんて考えてなかったし、安心するがよい。我も待ちきれなかったのだ。少しでも早く外の世界が見たかったのでな。」
「……そう。襲われなかったのはよかったけれど、それは、私に魅力がないと暗に言っていると捉えることもできるけど?…………とりあえず、一発殴っていい?」
「おい、目が笑っていないぞ!?勝手に部屋に入ったのは悪かった。あ、あ、謝るから、そ、その拳を引っ込めてくれ。それに、お前の寝顔は可愛かったし、十分魅力あると思うぞ?」
「寝顔見られた!?ごめんなさい。やっぱり殴らせて!」
ドゴッ――
「ぐはっ…………お前、我らより凶暴なのではないか……?」
「そんなことないよ。か弱い乙女が鬼木田さんより凶暴なはずないじゃない!」
「どこが『か弱い』んだ……?はぁ……まぁ、勝手に入ったのは我が悪かったよ。すまぬな。さて、そろそろ旅立とうと思うのだが、入口までは一緒に来てもらえるか?用事のない者は皆、見送りのために、外で待ってくれているようだし。」
「わかった。顔を洗ったらすぐに向かうわ。」
「うむ。」
そうして、鬼ヶ島の皆と一緒に鬼木田さんを笑顔で見送ったのだった。
……いつかはわからないけど、帰ってくるよね?
外の世界が面白すぎて、帰りたくないから帰らない、なんてことはないわよね……?
………………十分あり得る。
まぁ、元の世界への帰り方なんて、簡単に見つかるとは思えないし、任された以上、鬼ヶ島を立派な場所にしてみせるよ。
鬼木田さんをびっくりさせてやるんだから!
まずは、どんなことをするかわからないけれど、鬼山さんの特訓、頑張ろう!
おーーーっ!!