姫、就任式2
鬼木田さんの声が響く。
「皆の者、我は今までここの長を努めてきた。しかし、それは我がたまたま先代の息子だったからである。姫が現れた以上、ここの長は姫に譲り渡す他ない。我はこれを機に、見聞を広めるため、島の外に旅立とうと考えておる。皆、くれぐれも姫に粗相のないように。しかと陽姫姫についてゆくようにな!」
ざわざわ……ざわざわ……
「鬼木田様なしで私たちやっていけるかしら」
「大丈夫さ!何せ、伝説の姫様がついていてくださるんだからな!」
「そうね!」
ざわざわ……ざわざわ……
プレッシャー与えないで!
それよりも、鬼木田さん、さらりと爆弾発言したんだけど!?
私、ここのこと、何もわからないのに、いきなり丸投げで旅立つっていうの!?
はぁー……はぁー……
とりあえず、落ち着かなきゃ……
「鬼木田さん!私、ここのこと、何もわからないんだけど……」
「ん?……あぁ、それなら問題ない。姫の世話は我に古くから仕えている、この鬼山が担当する。安心して、いろいろ指示を出すが良い。この男はとても優秀だからな。」
「不肖、この鬼山一が誠心誠意、勤めさせていただきます!まずは、姫としての所作を一から学んでいただきますぞ!」
「は……はいっ!!」
身長190㎝はありそうな巨体で、威圧感たっぷりに言われたら、NOとは言えない。言いたくない。言ったらきっと、私の名前入りのスライム状の塊にモザイクがかかるだろう……想像したくない
鬼山さんは、時代劇に出てくるような、「じい」の強化版、とでも言えばよいだろうか。服装も似ているし。ちなみに、鬼山さんは青鬼らしい。
「鬼山をくれぐれも怒らせないようにな。できないことは、一生懸命、努力しようとしているのなら、大丈夫だが、サボろうとすれば……想像つくだろう?」
鬼木田さんがこっそり耳打ちしてくる。もしかしたら、鬼木田さんも過去に何かあったのかもしれない。声が震えているのがよくわかる。
「何をこっそり話しているのです?」
鬼山さん、目が笑っていませんよ……?
「鬼山、そう案ずるな。これから、懸命に努力し、必ずや鬼ヶ島を立派に栄えさせよと励ましただけだ。」
「そうですか。まぁ、姫なら、きっと成し遂げてくれると私も信じておりますぞ。そのためにビシバシ鍛えて差し上げますので、鬼木田様のように立派なお方になれるよう、精進しなさい。」
「はいっ!」
これでは、どちらが主かわからない。
まぁ、私は人間だし、できそうにないことはやらせないだろう。
炊事、洗濯……習い事なら、華道、茶道とか花嫁修業みたいなものだと思う。
これからのことを考えているうちに、鬼木田さんが閉会の挨拶を述べ始めた。
「これにて、新たなる長、陽姫姫の就任式及び、御披露目会を閉会とする。今日も鬼ヶ島に栄光あれ!」
「栄光あれ!!」
鬼ヶ島の住人も、私たち人間のように、社会性があるらしい。
無闇に誰かを傷つけたり、欲望のままに殺し合ったりはしないようで、安心した。
だが、私がいなければ、鬼ヶ島は滅んでいくそうだが、これだけ社会性もあり、十分栄えているというのに、一体、何があるのだろうか……?
まぁ、ここで生活していれば、自ずとわかるだろう。
とにかく、生活の場を与えてくれたことに感謝して、私にできることを精一杯しよう!
そのうち、帰る方法もわかるでしょ。
鬼ヶ島なんて、普通は来れないし、今を楽しまなきゃね!