91話 例え、夢幻であったとしても、らしいです
さて、この週末は玩具箱を更新しよう! 多分ね(笑)
バイブルの初ハーレム物ですか? まだ半分しかできてませんよ。何せ内職のようにチマチマとですからね
暗転する気持ち悪さを耐える為に瞑っていた目を開く。
「ここは……」
辺りを見渡すと雄一は眉を顰める。
そこは良く知っている場所だった為である。
かけがえのない2人と永遠の別れをした場所だった。
そして、前を見つめると見覚えがある3人がやってくるのを見て目を剥いて驚く。
「こ、これはどういう事だ……」
その3人の1人は、身長が180cmに届かないがガタイが良く学生時代、ラクビーで鍛えたと何度自慢話のように聞かされたか分からない30代の男。
その隣を歩く長い黒髪は艶やかさをはっきりと自己主張しており、黒というより漆黒と言う表現がぴったりくる20代に成り立てという風に見える女性だが、実は隣に歩く男より1つ年上という事実を雄一は知っていた。
その後ろを不貞腐れて歩く少年、目の前の2人の特徴を色々継いでいるのが客観的に見ると良く分かる。
年頃からすれば明らかに逞しい体つきをしており、黒々とした髪は女の子かと思わせるほど艶やかさを称えている。
いつも嫌がる少年を叱りつけながらも笑顔で嬉しそうに目の前の女性が髪を梳った賜物である。
雄一は自分の長い髪を前に引き寄せて見つめる。
ボサボサの髪を泣きそうな顔で笑う。
その3人は雄一とその両親である。
そう、これは雄一が両親に連れられてGWに遊びに行った時の過去を見ている。
先日、テレビで紹介されていた何百年間、一般公開されてなかったモノが期間限定で解放されると夕飯を食べている時に、雄一が「どんなのがあるんだろう」と呟いたのがキッカケで、父親が必死にスケジュール調整をして捻りだした時間を使って雄一を連れて出かけてきたのである。
確かに、雄一も興味はあったが、同じ日にクラスメートと遠出、とは行っても駅3つ分ぐらいだが自転車で釣りなどをしようと計画していた。
だから、雄一はその日、不貞腐れていた。
はっきり言って、たいして腹も立ててないのに両親に我儘を言いたかっただけである。
不貞腐れる雄一を見つめて困った顔をする女性、母親は振り返って声をかけてくる。
「ゆうちゃん、友達との約束を駄目にしちゃったのは悪かったとは思うけど、GWにパパが頑張って休みを取ったんだから機嫌直してよ」
「そうだぞっ! 頑張って仕事を前倒しにして1日余裕を作ったが「有休はやれんっ」と叫ぶバーコード部長にスーパー土下座を決めて勝ち取ってきたんだからな?」
父親が、ドヤ顔を超えた、ドヤドヤをしながら、「俺のスーパー土下座を食らってみるかぁ? あぁっ?」と威嚇してるのか笑いを取ろうとしてるのか不明な行動をしてくる。
顔を近づけてくる暑苦しい顔を手を押しやる。
「もう何度も見せられてきてるから! さっさと歩けよ。目的地まで1k歩かないと駄目なんだから!」
そう、父親は母親と喧嘩をすると決まって、父親が全力で土下座して謝るのがデフォである。
何度も惚気話を聞かされた内容からすると付き合う前から父親は母親に頭が上がらなかったそうである。
そして、目的地は山というには少し小さいがその頂上部にあり、最初は上まで車でいったのだが、駐車場は一杯で麓の特別駐車場で止めて歩いて移動という事になった。
テレビで取り上げられるというのは凄まじい集客効果があるようである。
しかも、何百年と期間限定が加わると手が付けれないようであった。
登り始めて10分も経ってないが憂鬱な雄一は、隣の道路で降りてくる者の表情を見て、顰め面してる者が大半の様子から雄一達と同じか諦めて帰る者であろう。
そのせいか、下ってくる車は速度が速めである。
雄一は、不貞腐れながら辺りを見渡し、母親のお小言を聞き流していた。
すると、幼い雄一は道路の上にあるモノを見つける。
「馬鹿野郎、それに気付くなっ!」
ずっと黙って唇を噛みしめながら見ていた雄一は、無駄と分かりつつ、走り寄って幼い雄一の肩を掴もうとするがすり抜ける。
それに舌打ちをする雄一が見つめる先では、幼い雄一が車の行き来が激しい道の左右を確認し出す。
母親は雄一が話を聞かないと父親にぼやいていて、両親共々、幼い雄一の行動を見逃して発見が遅れる。
「ゆうちゃん、止めなさい。戻ってきてっ!」
幼い雄一が飛び出したところで漸く母親が気付く。
その声で父親も気付き、目を剥いて驚いていた。
そう、幼い雄一は子猫を発見して助ける為に道路を渡ろうとしている。
そして、子猫の下に辿り着いた幼い雄一を見ていた雄一が噛み過ぎて血が流れるのも気に留めずに洩らす。
「あの時の俺は、軽やかに余裕を持って渡ってると思ってたが客観的に見ると本当によく轢かれなかったな」
本当にギリギリで車が避けてくれていたから、轢かれてなかっただけである。
そして、子猫を掲げて自慢げに振り返ろうとした時、降りてくる車が助手席の者と話をしてたようで前方不注意からセンターラインを越えてくる。
それを見た母親が、必死の顔をして幼い雄一目掛けて走り出す。
この後の結果を知る雄一は、止める事もできない涙を拭う事もせずに飛び出す。
「駄目だぁ! 母さんっ!!」
雄一は2人の間に立ち塞がり、体全体を使って母親を止めようとする。
当然のように雄一を通り抜けて、幼い雄一に辿り着き、弾き飛ばす。
雄一は、背中越しに聞こえる激しいブレーキ音を聞くと絶叫する。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
膝を折り、項垂れようとした雄一の目の端に走る影に気付く。
「父さん! 馬鹿な俺の為にこれ以上何もしないでくれぇ!!」
事故でガードレールが壊れているところに立てかけられていたカラーコーンを跳ね除け、壊れているガードレールに乗りかかる幼い雄一がゆっくりと崖へと落ちていこうとする。
落ちゆく幼い雄一の手を掴むと全身を使って引き寄せると勢いが余ったように入れ替わってしまう。
あの時の幼い雄一は見る事ができなかったが、父親を見つめていた雄一には、はっきりと見えた。
仕方がねぇーな、と言いたげな顔をした後、口の端を上げて笑ったのである。
「とうさぁぁぁん!!!」
この後、幼い自分がどういう行動をするかは分かっていた。
それを空虚な気持ちで見つめる。
幼い雄一は、母親に言われた言葉を受け止めて、母親が息絶えると声を上げて壊れたように泣いた。
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突然、周りの景色、いや、雄一を除いて黒一色に染められる。
雄一は、緩慢な動きで辺りを見渡すと後ろから声をかけられる。
「あら、やだ。あんなに綺麗だった髪がボサボサじゃない?」
雄一はその声を聞いて時が止まったかのように固まる。
「うわっ、でかくなったな……」
懐かしい声に雄一は、一度止まった涙を溢れさせながら振り返る。
振り返った先には、眉を寄せて怒った顔をした女性、あの顔をして怒られると父親も雄一もいつも勝てた試しはない懐かしい母親の顔と雄一と母親を交互に見つめて苦笑する父親がいた。
本当に残念に思っているようで、雄一の髪を梳くように撫でる母親を直視できずに雄一は目を伏せる。
「なんで、髪を梳らないのっ?」
「ごめん、色々忙しくてさ……」
母親に「ゆうちゃんは嘘吐きねっ」と叱られるが、今は、それがとても心地良い。
「その、だな……あの後、どうなった?」
父親は言い難そうではあるが、直球の言葉を吐いてくる。
それを見咎めた母親が父親を睨んだ後、雄一に声をかけてくる。
「多分、親戚の人達と大変な事になったんじゃない? 辛いなら、ゆうちゃんが良ければ私達と一緒に来る?」
悲しそうに雄一にそう言ってくるが、雄一は笑みを浮かべながら首を横に振る。
「確かに色々あったけど、今じゃ、俺もこれでも親やってんだ」
「何っ! その年で既に結婚したのかっ! その年の頃の俺はママに相手にもされてなかったのに!」
「ウルサイわよ、パパ。で、どうなの、ゆうちゃん?」
シホーヌにトトランタに連れてこられたとかは省いて、今の家族構成と成り立ちを伝える。
楽しく、戸惑い、嬉しく、肩にかかる重圧などを話す。
両親は、くだらない事ですら楽しそうに頷き、笑い、叱る。
父親が楽しそうに口を開こうとした時、母親が止めると雄一に悲しそうな顔をして言ってくる。
「ごめんなさい、もっと話をしていたいのだけど、そろそろ時間のようなの」
「そうか……」
雄一は、何がとは聞き返さない。聞かなくても分かる、それ以上に返答されたら、お別れを涙でしてしまうと思った。
両親が手を繋いで離れて行こうとするのを雄一は呼び止める。
「父さん、母さん。俺はずっと言いたかった事がある」
ゆっくりと離れて行く両親に必死に声を張り上げる。
「俺を生んでくれてありがとう。俺を育てくれてありがとう。俺に想いを受け継がせてくれてありがとう」
涙でのお別れはしないと思っていたのに気付けば瞳から涙は溢れていた。
嗚咽混じりが酷くなる前にと、意思の力で感情を抑えて叫ぶ。
「きっと……2人の想いを引き継いでいってみせる。父さん、母さん……愛してる」
「ありがとう、私もゆうちゃんを愛してるわ。でも無理だけはしないで」
目の端に涙を溜める母親と「俺も愛してるぞぉ」と男泣きをする父親が遠くなっていく。
そして、両親が光に包まれた瞬間、雄一の視界も暗転する。
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暗転して瞑っていた目を開くと目の前では巴が平伏していた。
「試練だったとはいえ、辛い思いをさせた、わっちを許して欲しいのじゃ」
その巴の後悔の念を強く感じる声に雄一は首を振って、「気にするな、俺が許可した事だ」と笑う。
「例え、夢幻であれ、両親に会わせてくれてありがとうな、巴」
そういうと顔を上げる巴は鼻の頭を赤くして目端に涙が浮かばせている。どうやら泣いてくれてたようである。
巴は、覚悟を決めたような顔をすると両手を胸にあてると何やら唱え出す。
すると両膝着いた体勢で両手を掲げて、雄一に捧げるようなポーズを取ると巴の両手の掌の上に巴自身、青竜刀が現れる。
「お願いじゃ、わっちのご主人になっておくれ。わっちはご主人の進む道の行方を妨げるモノを払う一助になりたいのじゃ」
巴は緊張からか、肩を震わせながら雄一の返事を待つ。
雄一は、肩を竦めて、「立場が逆転したのか、あべこべになったのかわからねぇな」と苦笑する。
そのまま放置すると本気で泣きそうな巴を放置するのは気の毒になった雄一が、巴自身、青竜刀を力強く掴む。
「ああ、当然だろ? 俺はその為にお前に会いに来たんだぜ?」
顔を上げて喜びを前面に出す巴に雄一は自信に溢れた獰猛な笑みを見せる。
「ありがとうなのじゃ。ご主人……幾久しくなのじゃ」
巴が照れた笑いを浮かべた瞬間、雄一はアクアの神像のある泉の傍のリンゴの木に凭れている状態で目を覚ます。
雄一は巴を見つめ、語りかける。
「これから、よろしく頼むな、巴?」
巴の刀身が隣にある泉のように澄んだ音を鳴らすのを聞いて、雄一は笑みを浮かべた。
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